25話 見習い剣士
「よ、よろしくお願いいします。ドラヴェルト様!!」
「この二人は何だ? アシュレット」
ドラヴェルトは、ガチガチに緊張した様子の少年と少女を見ながらアシュレットに尋ねる。
「家門に所属する見習いの剣士達です。フレリオーネ様のお言葉を受け止め、急遽ではありますが実戦形式の訓練を取り入れることにしました」
「そうなのか。それで二人の名前は? あー、君の方から」
ドラヴェルトはまず少女の方に手を向ける。
「エリナ・フェルドーンです!」
青い髪を後ろで束ね、紫色の目が特徴の少女がエリナと。
「じゃあ次は君」
「はい! レオネル・グランドールです! 頑張ります!」
そう口にしてレオネルは、地面に付く勢いで頭を下げる。
レオネルの方は茶色の髪に灰色の目か。
二人とも簡易な革鎧と木剣を身に着けている。
(二人とも儂より体格も良くて、身長も高いな)
そこから考えると歳は上か。
だがこれまで寝た切り生活だったことを考慮に入れると、それほど違いはないのかもしれない。
「そうか、ありがとう。……でアシュレットどうするんだ?」
「交互にドラヴェルト様と戦っていただこうかと」
「わかった。二人の実力は?」
「二人ともベーシック下級です。ドラヴェルト様は剣の腕だけ見れば、プライマリーの中級か上級に当たるので、二人ともやや格上になりますね」
格上か、望むところだ。
「そうか。ベーシックは何が出来るんだった?」
「物質の強化です。簡単に言えば武器をより鋭く硬くすることが出来ます」
「それは……大丈夫なのか?」
言葉だけで判断するとかなり脅威なように思える。
「大丈夫ですよ。ベーシック下級程度なら、辛うじて実戦で一回使える程度です。威力も大したことはありません。戦術次第でいくらでも勝ち目があります」
「わかった。それならば大丈夫そうだな」
「ではどちらから先に戦われますか?」
改めてドラヴェルトは今から戦う両者を見る。
エリナの方が多少レオネルよりも身長が高いか。
それに姿勢も良く、鎧の身に着け方もしっかりしている。
剣術のことについては未だに素人も同然。
しかし最近訓練で革鎧を身に着ける機会が増えたからよくわかる。
意外としっかり正しく着るのは難しいのだ。
鎧という物は。
こういう細かな差が魔法において、確かな差に繋がることはよく知っている。
ならば剣も似たようなものだろう。
体力があるうちに先にエリナの方を……。
いや、二人とも格上なのだ。
とりあえず勝算が高そうな方にだけでも、確実に勝っていく方が良いだろう。
ドラヴェルトはレオネルと先に戦う事に決める。
「レオネルからにしよう」
「承知致しました。レオネル先に君から戦うんだ」
「はい!」
レオネルは元気よく返事をする。
「念のためにもう一度言っておくが、実戦だと思って真剣に戦いなさい。だがもちろん大きな怪我に繋がるような攻撃はしないように」
「わかりました!」
「それと戦いの合図を待ってからフォースを含め、行動を始める事。私がそこまで。と言ったら戦いは終了だ。わかったな?」
「はい、わかりました!」
そう言ってレオネルは胸に手を当て、頭を下げた。
「ではドラヴェルト様も同じ条件でお願い致します」
「わかった」
ドラヴェルトは精神を整える為に、深めの呼吸を繰り返し、レオネルとは少し離れた位置まで移動して向かい合う。
相手は自分より背が高い少年。
その分、力の差もあるだろう。
まともにやりあってはこちらが不利か。
(何か使える物は……)
ドラヴェルトは考え、普段よりも少しここに来るまでの足取りがなぜか重かったことを思い出す。
そうか。
夜に雨でも降って地面が少し柔らかくなっている。
そうなると、無駄に動き回るのはやめた方がいいな。
逆に相手を動かしてしまえば、こちらがその分有利になる。
自分は動かず、相手を動かす作戦でいくとしよう。
「始め!」
「てやぁぁぁぁぁ! は!」
「うっ、くっ!」
思考していた分、対応が遅れる。
ドラヴェルトは、咄嗟に木剣を振り上げてレオネルの袈裟斬りを弾く。
しかしフォースを使用していなかったせいか、それだけで手が痺れてしまう。
ドラヴェルトは後ろに距離を取りながら、胸に手を当てて急いでフォースを使い身体強化をする。
「てい! たぁ!」
上段からの振り下ろし、そして続けて下からの切り上げ。
そんなレオネルの連続攻撃に押されながらも何とか防ぎ切る。
だが防ぐので精一杯で、反撃する余裕がまるでない。
(とにかく今はやられないように守備に徹しよう。そうすれば隙も見えてくるはずだ)
重い地面に足を取られないよう気を付けながら、それ以外は剣を防ぐことだけに意識をそそぐ。
そのおかげで、何とか持ちこたえることには成功する。
しかしかなりの体力を消耗してしまった。
だが、それは相手も同じようで肩で息をしている。
「はぁはぁ……どうしたんです、ドラヴェルト様。攻撃は、なさらないんですか!」
レオネルが威嚇するように、剣を振りながら叫ぶ。
(安い挑発だな。そろそろ限界か?)
レオネルは相変わらず剣を振り続けているが、最初に比べると明らかに調子が落ちている。
こちらも疲れているというのに、十分思考する余裕があるほどだ。
今は先ほどとは違って逆に時間を稼がれる方が不利。
今こそ攻めに出るべきだな。
「そうか。ならばこっちからいくぞ!」
フォースのおかげで身体自体はまだ軽い。
そしてまさか言葉通り攻めてくるとは思わなかったのか、明らかにレオネルは驚き狼狽えていた。
この状況で狙うのは――脚だ!
「は!」
「ぐっ!」
横薙ぎに足を狙う。
だがギリギリのところで剣に割り込まれ防がれてしまった。
しかしレオネルの剣がほとんど脚に触れるような位置だったので、自分の剣で脚を打ち付けそれなりのダメージが入ったように見える。
「まだだ!」
脚を重点的に狙っていくが相手を惑わす為に、時折肩や腕を狙ったりと複数の攻撃を混ぜる。
その作戦は効果的だったようだ。
剣が間に合わなくなってきたのかレオネルは、腕や足を使って防御を始める。
よし、このままいけば勝てそうだ。
「そこまで! ドラヴェルト様の勝ちです!」
ようやく、終わったか。
ドラヴェルトは何度も荒い呼吸を繰り返して息を整える。
(勝てたのは良かったが、喜びよりも疲れが酷いな)
身体も怠ければ、節々も痛い。
多分もう一戦すれば戦いが始まってすぐにフォース切れを起こすだろう。
そんな状態だ。
「では次、エリナ!」
「はい!」
「お、おい。アシュレット、少し休ませてくれ」
「ドラヴェルト様。実戦では相手は待ってくれません。始め!」
いくらなんでもやりすぎだ!
心の中で愚痴を吐きながら、剣を構え直す。
だが時すでに遅し。
エリナが振るう剣が既に目の前まで迫っていた。
初撃は何とか防御に成功。
だが続けざまに放たれた下段からの切り上げで見事に剣を弾かれる。
その後、脚に手痛い有効打をもらい、ぬかるんだ地面に足を取られ転倒。
気づけば晴れ渡った清々しい空を見上げていた。
意識が遠のいていく中、最後に焦った表情のアシュレットの顔が見えたような気がした。




