23話 姉2
「ヴェル! 久しぶりね! 元気そうで本当に良かったわ。じゃあ早速、剣の腕をお姉さんが確認してあげる。修練場に行くわよ!」
そんな言葉でドラヴェルトの一日は始まり、気づけば修練場にいた。
「ふ、フレリオーネ姉さま。僕にも準備というものが……」
朝食も食べていない。
それに服も寝間着のまま。
「日が昇るまで寝ていたヴェルが悪いのよ。それとそんな気持ちの悪い他人みたいな話し方は好きじゃないわ。昔みたいにリオ姉って呼ばないとお姉ちゃん怒るわよ」
「ではリオ姉さん……と」
「リオ姉よ」
これは自分の対応が悪いのか?
近くで静かにこの様子見守っているアシュレットに目線を送る。
だがアシュレットはニコリと微笑むだけ。
(顔も性格も母上そっくりじゃな……)
ドラヴェルトは心の中でため息を吐く。
こういう類の人間に常識的な道理は通じない。
害がない範囲で素直に従った方が賢明。
この人生において新しく得たあまり嬉しくもない学びだ。
「はぁ……わかったよリオ姉。これでいいですか?」
「この姉をちょっと下に見ているような気がするけど……。まあいいでしょう。それじゃあ今あなたが持っている剣を見せなさい」
「剣って言われても今起きたばかりで何も持ってませんよ」
それくらい見れば一目でわかるだろうに。
「それは良くないわヴェル」
フレリオーネは顔を押さえ、首を振る。
「フォルノスパーダ家に連なる者は、いついかなる時も剣は持っておくべきものよ。ああ、どうしてそんな風になってしまったのかしら、お姉ちゃん悲しいわ」
「はぁ……。そうですか」
「私の言ってること正しいわよね?」
フレリオーネはアシュレットの方を見て尋ねる。
「もちろんでございます。フレリオーネ様」
「ほら見なさい」
コイツ裏切ったな。
アシュレットを睨みつける。
だが目を逸らすどころか手を振り、微笑み返された。
(本当にこやつは儂の従者なのか?)
そんな風に疑いたくなることが時々ある。
堅苦しいよりかは良いが、これでは従者というより仲のいい友人だ。
「仕方ないわね。あなたが昔よく使ってた短剣をあげるわ。だからこれを機に常に携帯してくことね。あとこれは訓練用」
古びた鞘に入った短剣と木剣を受け取る。
この柄にある龍を背景に剣が斜めに入ったマーク。
フォルノスパーダ家の家紋か。
古いがそれなりの剣のようだな。
「じゃあヴェル。お姉ちゃんが実力を見てあげる。さあ勝負するわよ。初手は譲るわ、どこからでも掛かってきなさい」
「掛かってこいって言われても……」
ドラヴェルトは、剣を構えるフレリオーネを見て困惑する。
アシュレットと軽い打ち合いくらいはしたことがある。
だが本格的な勝負となると初めてだ。
だからどう攻めていいかよくわからない。
もちろん戦いの経験自体はそれなりにあると自負している。
(だが騎士との戦いは、すべて一方的なものじゃったからのう……)
防御魔法越しに必死に剣を振るう騎士を眺めていた記憶しかない。
しかし当時は興味の欠片もなかった。
だから役立つことなど何一つとして覚えていない。
「遠慮しなくていいのよ。あなたが全力で斬りかかってきたとしても、あなたの姉は傷一つ付かないわ。私はこう見えても強いのよ?」
「だけど……」
「そう。来ないのなら怪我をしない程度に手加減するしかないわね。でも一週間くらいは動けなくなることを覚悟なさい」
「えっ」
「ただこのままだとあまりにも不公平だから制約として私はフォースを使わないし、右腕一本だけで戦ってあげるわ」
そう言ってフレリオーネは左腕を後ろに回す。
「じゃあ行くわよ」
「えっ、まっ――」
姉が木剣を振り被ったのを見て、ドラヴェルトは慌てて木剣を構える。
だが気づけばドラヴェルトの胴横に剣がそっと添えられていた。




