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22話 姉

「ヴェル。お姉さんが実力を見てあげる。さあどこからでも掛かってきなさい!」

「はぁ……」

「遠慮しなくていいのよ。あなたが全力で斬りかかってきたとしても、あなたの姉は傷一つ付かないわ」


 そう言って彼女は自信満々な様子でふんぞり返る。


「そう言われても……」

「そう……来ないのならこっちから行くしかないわね。一週間くらいは動けなくなることを覚悟なさい」

「えっ」


 ドラヴェルトは木剣を振り被る姉を見ながら思った。

 どうすればこの事態を避けられたのだろうかと。



――――




「ここに姉上が来るんですか?」


 お昼時に唐突に部屋に現れた母が最初に放った一言は、明日この別邸に姉が来るというものだった。


 それを聞いたドラヴェルトは二重の意味で驚く。


「ええ、そうなの。フレリオーネはよくヴェルのことを心配していたのよ。覚えているかしら?」


 覚えてないを通り越して、知らない。

 だが素直に言えば母は悲しむだろう。


 どう返事をしたものか。


 ドラヴェルトは少し考え、差し当たりの無さそうな返事をすることにした。


「うっすらと覚えてます」

「そう、良かった。フレリオーネももう今年で十七になるわ。最近は、剣の実力を高めるためにいろんな場所で武者修行をしているのよ」


 十七歳か。

 成人した女性であれば、兄の時のように変に絡まれることはないはずだ。


「私によく似て剣が大好きな子でね。あなたのことを昔から凄く気にかけてたわ」

「そうなんですか」

「ええ。あなたがまだ少し動けた頃は、よく一緒に遊んでててね。拾ってきた木の枝を毎日沢山あなたに剣で切らせてあげてたのよ。まああなたは凄く嫌がっていたけれど」


 それは遊びではなく刑罰ではないか?

 ドラヴェルトは頭の中に昔の自分を思い浮かべる。


 最初の二、三回くらいは楽しめただろう。

 だが毎日でしかも沢山となるともはや苦行でしかない。


 農民が冬に備えて苦労してやるような事だ。


 転生前の自分が嫌がったのも無理はない。

 ドラヴェルトは過去の自分に心底同情する。


(あの兄のような曲者かもしれんな……)


 ドラヴェルトは母エヴリンのように常に鎧を着て、剣を常に何本も持ち歩くような貴族らしくない令嬢を頭の中で想像する。


 貴族らしくない方がドラヴェルトにとってありがたいが、それでも程度というものがある。家族にそんな人間ばかりだと、この年にして家の未来が少々心配になってくる。


「ところで剣と術の修行は順調かしら? 身体強化を出来るようになったとはアシュレットから聞いているけれど」


 そう言ってエヴリンは、先ほどから部屋の隅で直立不動しているアシュレットを見る。


「順調かどうかわからないけど、楽しんでやってます」


 これは事実だ。

 前世の影響もあり最初はなぜ剣なんかを。

 と思っていたが案外やってみると楽しいものだった。


 それに今はフォースを学ぶ意義や目的も出来た。

 加えて魔法と違い、日々自分が変わっていく感覚がわかりやすい点も良い。


「そういえばアスリオスにも剣を教わったそうね? どうだった?」

「それは兄上への印象? それとも学んだことについて?」

「どちらもよ」


 母の言葉にドラヴェルトは考え込む。


 正直に言えばあまり印象はよくはない。

 むしろ悪いと言っていい。


 が、素直にそう答えるのは良くないだろう。

 とりあえず話を逸らすか。


「兄上にはフォースについて教えてもらいました。とてもわかりやすかったです」

「そうだったの。それであの子の事はどう思ったの?」


 どうやら逃げられないらしい。


「兄上は……賑やかで楽しい人だと思います」


 ドラヴェルトの回答を聞いたエヴリンは、何故か声を上げて笑い出した。


「ふふっ、ごめんなさい。意地悪な質問をしたわね。あの子もね小さい頃は、世界中を旅する冒険家になるんだってよく騒ぐ純粋な子だったわ」

「あの兄上が?」


 まったく想像出来ない。


「そうよ。だけど長男のパランガスが、あなたのように子供の頃少し調子の悪い時期があって、万が一に備えて後継者教育を施したことがあったの。あんな風になったのはそれからね」

「そうなんですか」

「でも根はいい子だから兄弟として仲良くしてあげてね?」

「はい、わかりました」


 そういう事情があったのなら、ああなるのも仕方のないことかもしれんな。

 ドラヴェルトはアスリオスに同情する。


 仮にドラヴェルトが同じ立場だったら、まず間違いなく絶望し世界を呪うだろう。


(まあ儂ならその後すぐに家出するじゃろうが……)


 貴族以外の生き方を知らない子供には、それも難しいだろう。

 

「ありがとう、母として嬉しいわ。それじゃあアシュレットやマグノリア様の言う事をしっかり聞いて努力しなさいね」

「はい、母上」


 ドラヴェルトは頷く。


「じゃあ私はそろそろ行くわね。あ、そうそうあなたの正式な剣の指南役が決まったわ」

「指南役が? どなたですか?」

「私の弟よ。あなたからすると叔父さんね。少しガサツなところがあるけれど実力は確かだから、楽しみにしてらっしゃい」

「はい」


 叔父か……。


 身内なのは少し面倒だが、ガサツな性格なら貴族としての礼儀にうるさくはないかもしれない。その点は安心か。


「ただあの子『フォースも満足に扱えんやつには俺の剣を教える価値はない!』ってずっと騒いでてね」

「はぁ……」


 ガサツというより厄介者ではないか?


「だから少し教育したのだけれど、頑固者だから中々首を縦に振らなくてね。だからあなたがもう少し上達したら教えさせるつもりよ。そういうことだから剣の修行も頑張りなさい。明日のためにもね」

「はい? あの――」


 一体どういうことなのか。

 と聞く前にエヴリンは部屋から消えていた。


 ドラヴェルトは、途中まで動かした口で大きく息を吸うと盛大にため息を吐く。


 それから明日姉の名前を間違えないようにと姉の名前「フレリオーネ」をしばらくの間、ブツブツと連呼した。


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