73マモ 春に向けて
壁は結構簡単に作れた。
傍目から見ると拉致した人たちを閉じ込めたようにも見えてました。
またぞろ、元日本人たちが騒ぎ始めることは確定なので、ちょっと冷や汗をかいて壁をのーんと眺めてたりもしてたけど、これはまずい。どう見ても巨大な監獄です。ありがとうございます。
なにせ、壁の高さは高ステータスのマーモットが調子に乗って積み上げたので、賽の河原で石積みをしても、鬼が壊せないほど、数十メートルはある見上げる高さとなっていた。出口は海面上にあるので、普通の人は泳がないと出入りできない。それか電車に乗って出るかサメに乗って出ないと駄目である。
完成した壁を見て元日本人たちは不安げにひそひそ話をしているので、その心配を解消しなければなるまい。だって、親が不安げなのを見て子供たちも顔が曇り、インフラも喪われたので、テレビもスマホもない所が情報源が無く一層不安なのだろう。
なので、俺は蘇生させたことを告げることにしました。マーモットは深く考えたり、苦悩したりとかしないのだ。彼らも新米マ族とはいえマーモットだ。もっと気楽に生きていてほしいのである。
「皆さん! 俺はマ王のマーリンです。貴方たちは拉致されたと思ってるかもしれません。異世界召喚による誘拐だと予想している人もいると思ってます。ですが違います」
周りを見渡して、小島ごとに集めた代表者たちへと顔を向ける。皆はなぜ集められたのかと不審な様子だが、俺の告げる言葉にお互い顔を見合わせていた。その様子を見て俺はちっこいお手々を伸ばして、フリフリとフリながら大きめのリアクションで話を続ける。
「真実は残酷ですが、貴方たちはゾンビに殺されて彷徨う幽霊となっていました。それを蘇生させたのが私ことマ王マーリンです。新米マ族として新たなる人生をマーモットとして過ごして欲しいのです。これからは大変なこともあるでしょう、完全なマーモットに進化するのを目指すのは大変でしょう。ですが、マ王の私が貴方たちを導きます。なので、これからの人生を幸せに過ごすためにも、私についてきてくれるようにお願いします」
長台詞を言い終わり、ペコリと頭を下げる。これだけの熱の入った演説だ。感動しても良いんだよ?
「最後に、マ王様とガブリエル様のギュイーンで終わりたいと思います」
横にいるアミが手を振ると、待っていたガブリエルが満面の笑顔でテチテチと二本足で俺へと近づいてくる。
「よしっ、今日こそは俺の勝ちだ、マーリン!」
「やれやれ、何度やってもガブじゃ俺には勝てないよ」
ガブが手を突きだしてくるので、がっしりと手を繋ぎ、限界まで背筋を伸ばす。
「ギュイーン」
「ギュイーン」
壮絶なるマーモットの決闘は、皆をマーモットになりたいと思わせる激しくも優雅なものであった。
「おぉ、なんだかよくわからないけどマーモットの芸を見せてくれたのかな?」
「ギュイーンって初めて見たよ、可愛いな」
「抱っこしても良いのかしら? 人懐っこそうよ」
もちろん、皆は拍手喝采。皆は大喜びしてくれるのだった。
俺の告白を聞いても責めないし苦悩しない彼らにホッと安堵しました。
彼らにはマーモット語はわかるの? ピギーピギーとしか聞こえないかもしれないけど、マーモット族なんだから俺の真心は通じたよ。うん、きっとそうだと思います。マーモットの芸を披露しにきたとか思われていないはず。
◇
「これから貴方たちは漁をして魚を獲り、海水から塩を取ってもらいます。畑を作るほどの土地はありませんので、電車で外にいき、物資も回収する部隊を作りますが、それは先行の一万人から選抜するので貴方たちは外に出ることはないので安心してください」
アミが提案する内容に代表者たちは渋い顔だ。
「塩を作るのは大変な労働だ。漁だってあんな危険な化け物を倒せというのか? あの魚たちは普通じゃないぞ?」
「そうだ、そうだ。私たちをこんなところに連れてきてどうするつもりだ? 安価な労働力として拉致したのかね?」
ブーブーと抗議する人たち。せっかく俺が説明したのに、まったく聞いていなかったらしい。困ったものだね。
「簡単に言いますよ。貴方たちはゾンビに殺されたんです。哀れに思ったマ王様が異世界にて蘇生したのです。不満があるなら死んでください。誰も止めませんので。貴方たちも本当は自分たちが死んだと理解しているのにいつまで現実逃避してるのですか? マ王様のもとで働きたくないのでしたら、それも結構。電車で外に運びますので、どうぞ遠慮なく外へと出てください」
シンと静まる人々。本当は自分たちは生きてはいなかったことを知っていたのだろう。黙りこくり暗い顔となる。おかしいな? 俺も今のと同じようなことを言ったよね?
「外は魔物が徘徊し、異世界の貴族たちが貴方たち平民を歓迎するでしょう。楽しげな人生となるでしょうね」
「……私たちを蘇えらせてくれたことは理解した。その、魔王様はどこにいるのだね? ご挨拶をしておきたいのだが」
魔王配下となったことに、不安を覚える人々はアミへとおずおずと尋ねる。魔王という響きはどう好意的にとっても、良さそうな感じがしないからだ。
「この方がマーモット族の王、マ王であるマーリン様であります」
「……この方がマ王様?」
「はい、マ王様です。感謝の念を込めて敬うように」
「まきゅ」
虚無の瞳を遠くに向けて、ちょこんと立つ俺を皆がマジマジと見てくるので少し照れちゃうぜ。
「なぁんだ、この子がマ王様か。シンボル的なものなのかな?」
「この子が王様なら大丈夫そうだな。ビビってしまったよ」
「最初からそう言ってもらえれば、こんなに警戒しなかったのに」
マ王のカリスマある姿を見て、皆は安心した顔となり、肉球を触ってきたり、抱っこをしてきたりして、警戒心を緩めるのだった。
案ずるよりマーモットが易し。最初からそう言っておけばよかったや。
「では、話の続きであります。水は小川から取水するか、海水を真水に変えるかしかありませんが、電気は何とかなります。これです」
アミは話を聞く気になった人たちへと、部品を見せる。小型の電力式エンジンとバッテリー、そしてライトである。
「高性能のバッテリーとエンジンです。ライトもありますので、明かりに使えます。戦車やドローンに使われるので見かけよりも遥かにハイパワー。数は少ないですが一つのエンジンで数十のライトを点けることが可能であります」
どこから持ってきたかというと、これはマモタンクやマモドローンを分解した部品です。なにせ小さいけれども戦車を動かすことのできるハイパワーなエンジンだ。他にも使えることがたくさんある。1台残せば分裂して増えていく謎仕様なのでいくらでも増やせる。
「……これ、電池ではありませんよね? 水晶みたいな不思議な素材だ。こんな小さな物で戦車を動かせるのですか?」
技師なのだろうか、興味深げにバッテリーを見る男性は、目を輝かしてエンジンを確認していた。
「これが本当にそこまでの力を持っているのならば、色々と作れますよ。小川に設置して取水ポンプを作成できますし、小型のコンロを作ることもできる。原始的ですが、キャンプ場のように、皆で使える集合キッチンを製作しても良いでしょう」
なんかとても役に立ちそうな人だね。エンジンさえあればなんとかなるとか、エンジニアって凄いね。
「では話は分かったと思います。これらのエンジンを配給するのは、しっかりと働いた人たちだけとなります。しっかりとした文明的な生活を求めるのであれば、しっかりと働いてください」
独裁者アミである。飴と鞭で人々を支配する典型的なパターン。でも、彼らには抗うという選択肢は存在しない。
「仕方ない。分かりましたが、これは外の様子が分かるまでですよ」
俺の頭を撫でて、男性はエンジンを手に去っていく。他の代表者たちも、俺の頭を触ったり、背中を撫でたりして戻っていくのであった。なんで俺を触っていくのかはマーモットは可愛いから仕方ないよね!
◇
━━そして、三ヶ月後。
雪降る曇天の空は、気持ちのよい風と共に青空に変わり、積雪は溶けて、廃墟のあちこちでは、若芽が地面から芽を出す。冬の間は姿を見なかった動物たちが活動をし始めて、世界が純白から緑へと移り変わる。
春となった。
マーモット王国は冬の間に準備を終えていた。
電車で廃墟を走り回り、多くの物資を獲得し、とりあえずは10万人を超える人々の衣服などを確保。エンジニアがいたために、バッテリーを利用した発電機の確保、自動ポンプの製作、その他諸々。
人間の知識というものを少し甘く見てたよ。彼らはあっという間に現代文明を復活させた。悪魔たちがなにも考えずに、廃墟として創造したために、大きなビルには燃料の無い発電機があり、それをバッテリーに繋いで動かしたのだ。
本来は動かないはずの発電機。ヴェア男爵の話では電気や火薬、無線などはこの異世界の法則では動かないらしいが、こちらのバッテリーは大天使御用達。多分電力ではなく、魔力とかを利用しているために、動作した。
一家に1台とはいかないが、それでもだいぶ快適な暮らしとなり、どこからか持ってきたスクリーンとビデオで映画上映会もやってたよ。ダンジョンストアーでお菓子とかも買ってるので、スロットのコインがお金の代わりに使われてもいた。人間は適応力が高すぎである。
そして戦力はどうなったかというと━━。
「なんとか一万人分の武装は揃えられたでありますね」
ずらりと並ぶ一万人の兵士たち。その中でも、始まりの千人たちはずっと訓練をしてきたので、精鋭と言えよう。あとは実戦訓練あるのみ。
「マーモット王国周辺は生存者は誰もいませんでした。これからはもっと遠出する必要があるだろうね」
悪魔たちは警戒したのか、冬の間は見ていない。でも、これからは出会うこともあるだろう。
「全兵搭乗、マモベース発進! 鍵音電車は後ろからついてくるように!」
しっかりと準備はしたのだ。これからマーモット王国の名前を広めるときだろう。
ピキーと鳴くと、俺は出発するのであった。
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