70マモ マーモットの真実
とりあえず、皆を落ち着かせて、状況を確認することとした。
「なるほどねぇ、でもそれなら俺たちは? 俺たちも死んだのか? 誰か記憶ある?」
「私たちは死んでないわよ。よーく記憶を思い出してみればどうかしら?」
もしかして俺はマーモットではなかったのかもと、オロオロとしちゃう俺だけど、リリーは泰然としている。ふむ、たしかに記憶をさらってみるのはいいだろう。
頭を抱えて丸まって、本気で記憶を探ってみる。マーモットがそんなことをすれば人間は目を輝かして抱っこしちゃう。
「わぁ、見てみて、この子可愛い〜。ほら、鍵音ちゃん見てよ、この丸まってる姿。お腹空いたのかな? それとも眠いのかな? 毛皮さわさわ〜」
「あたちも抱っこしゅる! おねーたん、ニニーにも抱っこさせて! よしよししゅるの!」
「えっと……ランちゃんは真実の記憶が戻っても哀しくないの? 私、その点を気にして黙ってたんだけど?」
「え? 悲しむ必要ある? そりゃ両親と離ればなれは悲しいけど生き返ったんだよ? 幸運以外の何ものでもないじゃん」
「鉄の心臓……黙ってなくても良かったかも。私の苦悩は一体……」
なにやらわいわいと騒がしいけど、無視して記憶を探る。
なににも興味のなかった前世。その記憶に違和感はない。なにもないからこそ無味無臭なので、少しの違いでも分かるのだ。
マーモットになってからの人生。皆と出会って、マーモットカフェに就職して働く記憶。
そして、そろそろクリスマスだなぁと、窓の外を眺めていたのだった。うん、間違いない、俺はマーモットだ。
そして地震が起きて……地震が起きて……。んん? 少し気になるところがある。
俺ではない。マーモットカフェでの出来事だけど、その時は俺は窓の外をのーんと眺めていた。
会話が聞こえてきたのだ。店員さんがなにか怒ってる。
「ガブリエル! そろそろマーモットを止めて働きなさい!」
「俺様はギュイーンを極めないといけないんだ。だから、マーモットをやめることはできないな。俺様は常に頂点を狙うんだ」
ふんすふんすと鼻息荒く他のマーモットにギュイーンを仕掛けるガブリエル。
「ルシフェル、貴方は悪魔を率いて神の座を奪うのでは?」
「ふっ、天才たる僕は気づいたんです。命令を聞かないワガママな悪魔たちの調整や、神になっても管理運営が大変なだけで良いことはないと。今は回し車を回すことに喜びを覚えています」
昨今、管理職を嫌がる若者みたいなことを言って回し車で走るルシフェル。
「リリス!? 貴方は人々を堕落に誘惑するのでは?」
「あら、私は隅っこに座る姿で人間を誘惑してるわ。皆が私の姿を見てメロメロよ」
隅っこに座り、ヘソ天で足を伸ばすリリス。
「ミカエル、貴方は人々を導かなくてはいけないのですよ?」
「マーモットを見て優しい気持ちに人々はなってるよぉ。ねぇねぇ、藁をもっと持ってきてくれないかなぁ?」
せっせと藁を運んで巣に敷き詰めるミカエル。
店員さんたちは頭を抱えて、なにやら話し込んでいた。
「駄目だ、こいつらまったく働く気がない」
「くっ、少しマーモットになってみたいとか言うから許したら、まさかマーモットの生に満足するなんて……致し方ない。人手不足だし、あのまま、あの仕事を任せよう」
「他の次元の魂を掻っ攫って、異世界の召喚に応じた悪魔たちの対応をですか?」
「あぁ、『調整者』からはなんとかしろと怒りの抗議が来ている。だが受肉して世界へ介入するには他の天使たちでは力がなさすぎて無理だ」
「私たちはマーモットカフェの運営をしなくてはいけませんしね。良い考えだと思いますウリエル」
「だろ? それに『調整者』はこの事件を利用して救済をするつもりであるらしい。助力もあるだろうし、ちょうど良いわ」
そうして含み笑いをすると店員さんたちはガブたちに告げる。
「では貴方たちはマーモットとして、悪魔たちの陰謀を防いでもらいます。4人で異世界にいき頑張ってくださいね?」
「ええっ! 俺様はマーモットだぞ?」
「僕は働きたくない!」
「寝てるだけじゃない!」
「もう少しお話ししようよ?」
慌てる4人へと店員さんは容赦なく手を翳す。
「駄目です、悪魔たちは召喚条件の穴を利用して、自身の魔力を全て使い、疑似創造で建物や土地を異世界にぶつけるとのこと。そうして多くの魂を食べて、魔力を使う前の自身よりも強くなるつもりです。それを防いでください。よろしくお願いします」
パァッと光り輝く魔法陣が描かれて4人を囲む。俺を含めて他のマーモットたちはその様子をのんびりと見ていたが━━。
「そうだ、マーリンも連れて行こうぜ! ギュイーンのライバルだしな!」
「良い考えですね。僕たちを助けてくれるに違いないです」
「私たちはマーリンを支えましょう」
「うんうん、まーくんは優しいから賛成!」
ガブたちは俺の尻尾を掴んできて━━。
そして、気づいたら地震が起きて、世界は一変してた。この異世界に来てたのだ。その一点だけ記憶が違った!
「ピギー! 俺を巻き込んだな! 平和に暮らしてたのに! どおりで皆の名前がやけにかっこいいなと思ってたんだよ。ガブリエルとか、ミカエルとか、教会関係が見たら怒りそうな名前だったから!」
「気づいてほしくない記憶を思い出したのね。でも、私たちは仲間じゃない。一緒にいたいでしょ?」
「むむむ……たしかに皆がいなくなったら寂しいや」
リリーの返事にしょんぼりする。ポツンと俺一人となって、皆がいなくなったおうちはきっと物凄い寂しい。それなら皆と共に異世界に行ったほうが良いか。
仕方ないなぁと、俺はお昼寝をしようと草原に寝そべる。もう確認することは終わったから、お昼寝タイムだ。マーモットは細かい事を気にしない。皆でお日様の下で寝ようよ。
「いやいやいや、マーリンさん、これどういうことなんですか? 私は真実を知りたいです!」
「鍵音ちゃん、マーモットに話しかけるなんて寂しいことをせずに、私が話し相手になるから! ペットは家族にはなれるけど、友達にはなれないの。残念だけど、人間の言葉をマーモットは分からないんだよ」
これまでの会話はピギーと鳴いてるようにしか人間には聞こえないので、ランが生暖かい目で鍵音を慰めていた。
まぁ、たしかになにが起きたかは混乱している人々のためにも必要だ。一応聞いておくか。
「そうね……。今回の仕事は、他の次元で起きた世界崩壊が原因よ。その世界では悪意を持つ者はゾンビに変わる事件が起きたの。そして、善人たちを襲い始めて多くの善人が死んだわ。その魂の一部を異世界人が召喚しようとして、私たちの世界の悪魔たちが一計を案じたの」
「どんなの?」
「人の魂を食べるために、その次元に彷徨う多くの魂を異世界に持ってきて肉体を与えたのよ。もちろん記憶を弄ってね。この廃墟は悪魔たちが作り上げた偽の廃墟。彼らは悪意が魔物と変わるこの世界を利用して、力を求めるだろう人間たちを勧誘することに決めたのよ。そうすれば、苦労せずに多くの魂を収穫できるから。昨今は神様のふりをしても人間は騙されないから、異世界ならいけるだろうと思ったわけ」
「異世界転移した人に、私は貴方を加護する神様です。信徒になりませんかと伝えれば、チートきたぁと大体の人は引っ掛かるからねぇ」
リリーとミカの言う通りだ。昨今の地球なら、そんな声が聞こえてもホイホイと契約しない。願いを叶えるから契約しようよと言われて頷く人は少数だろう。
でも、異世界なら? 異世界転移はチートスキルがテンプレだ。神様だよと声をかければ、疑うことなく契約するに違いない。
「天才たる僕はやめておけと止めたんですけど、膨大な魔力をかけて悪魔たちは作り上げたんです。ハイリスクハイリターンですが、そもそも悪魔たちはギャンブル好きですからね」
悪魔たちが馬券を持って叫ぶ姿が思い浮かぶよ。
「あれ? それなら俺が復活させてるマ族たちは? 肉体を持ってなかったよ?」
「悪魔たちも全ての人間に肉体を与えることはできなかったわ。ほんの一部にしか肉体を与えられなかったから、他の魂は放置したの。そして、それを利用したのが、その次元を管理してる調整者ね。それなら悪魔の魂をエネルギーに変えて、哀れにも死せし人々を復活させようとしたのよ。で、それは今のところうまくいってるわ。早くも悪魔たちの一割は滅ぼされてるから」
「悪魔よりも酷い存在っているんだね」
なるほどねぇ。知ってて教えてくれないなんて酷くない? 俺だけ仲間外れだったの?
「私たちが働いていたと思う? ちなみに天使としての力は使えないから、システムの仕様を変えるくらいしかできないわ」
そろそろ隅っこに行きたいわねと、ソワソワするリリー。俺の背中に張り付くように寄りかかり寝ているミカ。ルーは草原を気持ちよさそうに走ってるし、ガブはシンクロナイズドスイミングを楽しんでる。
「うん、まったく働いてないね? そうか、だから皆は好き勝手にダンジョンマスターとか、ドラク◯方式に仕様を変えてたのか。あとリリスは天使じゃないよね?」
「そうでしょう? マーモットは働かないの。だから、せめて働かずに助けることのできる仕様に変えたのよ。マーモットになって天使になったのよ」
納得。教えてもらっても意味なかったや。俺も全然気にしないしね。
「いえいえいえ、気にしてくださいよ。世界を救うことと同義語ですよ? 世界を救いし本屋鍵音と銅像も建ったりしちゃうんです。えへへ」
成り上がりの頂点ですよねと夢想する鍵音だけど、俺はマーモットだから名誉欲とかないんだよね。
「そんな貴方は4大天使の使徒だから頑張れば良いと思うの。これからも死ぬ気で馬車馬のように働くことを期待するわ」
「リリスは天使だっけ?」
どうやらマーモットたちは働かない方法を考えた模様。俺も使徒が欲しいけど天使じゃないから無理だ。
それにマ王としてマ族を率いる責任がある。あるけど……。
「もしかして、召喚するごとに、人間の記憶は保護されてるの?」
「一万人辺りで面倒くさくなった適当な神様がいるみたいね。10万人はノータッチだと思うわ」
「それじゃ、俺は大変じゃん! 人間の悪辣さは知ってるからね!」
もう面倒くさいや。マーモットらしく寝ようっと。
アミたちが10万人の世話をしてくれると信じてるよ。おやすみ〜。
無責任に思えるけど、マーモットだから自然な思考だよ。ホントだよ。
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