68マモ 3回目の飯屋は何人?
3回目の飯屋。実をいうと、ジャックフロストを倒した際に手に入れていた。ゴブリンの王討伐、ジャック・オ・ランタンの撃破、盛り上がることもなく倒された雑魚のイエティの王を加護するジャックフロスト。
そう、3回目の条件は地味に達成していたのだ。あまりにも簡単に倒したので、飯屋を使う暇も無かったんだけどさ。
「でも、実はというと使うのを躊躇ってるんだ。なんでかわかる? 俺の苦悩をわかる?」
「隅っこを取れないという苦悩なら、私は絶対に譲らないと告げておくわ」
おうちの隅っこに寝そべり、もっしゃもっしゃと、キャベツを食べる冷たいマーモットのリリーである。もう少し俺の苦悩の内容を聞いてほしいなぁと思いつつ、他の隅っこに向かうと、なぜかその隅っこに寝そべるリリー。『隅っこ転移』という固有スキルを持っているのかな? このお菓子は全部あたちのと、食べきれないのは明らかなのに、全部のお菓子を抱え込む幼女みたいなマーモットだ。
「分かったうさ! ロロたちと仲良くなるために、なにかプレゼントをするつもりうさね? ん〜、ロロたちは贅沢は言わないし、心のこもったプレゼントならなんでも良いけど、そううさね〜、強いていえば、山盛り人参とか好きうさ」
「そのデカい人参じゃ満足できないの?」
「人参はいくらあってもいいうさ」
ロロが巨大人参を枕にして、カリカリと人参スティックを齧りながら俺の話に加わる。この世の楽園うさねと、元応接室にして俺たちのおうちで懸命にミカが作った巣に寝そべる始末だ。他の兎たちも居心地が良いらしく、居座っていた。
「飯屋だって言ってるのに、誰も聞いてないのかな? 俺、獣共通語話してる? それとも宇宙語を俺は話してるのかな? アイアムマーモット、話通じてるかな?」
誰も俺の話を聞いてくれないので少し寂しいマーモットである。まぁ、基本、マーモットも兎も獣だからね。ご飯と安全な巣があれば、後はのんびりと暮らすだけだ。苦悩とか、懊悩とか、悩みなどとはかけ離れた存在なのである。
まぁ、自分の考えをまとめる為にも言葉にするんだけどさ。悩みってのは解決策を提示してくれるのを期待して口にするのではなく、自分の心に仕舞っておくのが辛いから言葉にするのが多いんだし。
「違う違う、飯屋を使うと何人が召喚されるか不安なんだよ。前回は一万人だったから今回も一万人と思うのは浅はか。なにせ、千人だったのが次は一万人になったんだし」
さすがにそんなに増えないとは思うけど、それでも二万人とかになりそうなんだ。
「あぁ、そうなると今の土地だと厳しいわね。なるほど、レベル3のダンジョンを作れと言うのね?」
「話が早くて助かるよ。そうなんだ、経験値10万も入ったから楽勝でしょ?」
リリーへと、マーモットらしからぬ揉み手をして、エヘヘと媚びるマーリンです。だって、二万人が困窮する世界にしたくはない。俺は国民に優しいマ王を目指してるからね。
「レベル3ね。経験値9万必要みたいよ」
「へ?」
「経験値9万よ」
「そんなにするの!? インフレしすぎじゃない? いや、このシステムはネトゲーレベルで育成しにくいから当然といえば当然なのな。でも、9万かぁ」
あまりの経験値の多さに驚いちゃうけど、納得もできる俺のゲーム脳が嫌だ。それでも使わないという選択肢はない。
なにせこのダンジョンはもうダンジョンでもなんでもない。ただの拠点だ。中心部はマ王たち上級国民が住む地域。いつでもキャベツや人参を食べることのできる誰もが夢想する楽園となっている。楽園だよね? 電気や水道も使い放題だし。
レベル2は草原。皆がせっせと家を建てている。モンスターは出現することはないが、水は小川のを汲まないといけないし飲むには煮沸も必要だ。電気も使えないので、かなり厳しい暮らしとなる。俺たちは別荘を作ってるけど、エアコンがないから、結局中心部に戻ってきたし。
とはいえ、ダンジョンという特性なので、ゴミなどは地面に放置すれば24時間でダンジョンが吸収するので綺麗なんだけど。吸収されないためには、石畳とか木の板とか人工物を床に敷くと吸収されないので、問題はない。半径1キロなので、一万人の住民もギリギリ耐えている。
さて、レベル3はどうなのかな? 少し期待もしちゃうよ。
「言っとくけど、レベル3はモンスターをポップさせるわよ? レベル2の草原には時折中心部からモンスターが漏れるからダンジョンとして扱われるけどレベル3までは無理なの。ルール違反になるみたいね」
「が~ん。そんな面倒なルールがあるの? ダンジョンって自由に作ることができないのか」
「レベル3の魔物は結構強いし、人参たちみたいに、ふざけた奴は一覧にないの。ギリギリレベル2の魔物でもオーケーみたいだけど」
「中心部に向かうほど敵が弱くなるダンジョンってある?」
「本来はこうやって作るのではなく、どんどん奥に作るみたいなのよ。そしてダンジョンコアも奥に移動させていくの」
「あ〜、そっか。奥に進めば進むほど、ダンジョンは広くなり敵が強くなるのが普通なんだ。俺たちゲーム初心者が説明書を見ないで作ったみたいなことをしてしまったのね」
「ゲームなら私ならリセットして1から作り直しているレベルよ」
納得の理由である。でも、そうなると困るなぁ。飯屋で召喚しても、住民が暮らす敷地がないじゃんね。とはいえ、外の雪振り積もる極寒の土地に住んでくださいとも言い辛いし。
「魔物のポップはランダムだからなぁ。敵がポップしなくて、安全な場所も作れるタイプはないかなぁ?」
魔物がポップしまくる拠点は中心部の元ショッピングモールだけで良い。怪我した子供とか現れたら、ショックである。
リリーもその点は気になっているようで、一覧をポチポチと見ながら、コリコリとこめかみをかく。人間っぽい行動をとるマーモットだけど、リリーなら何とかしてくれると、俺は信じてる。
信じてるから、その隅っこで寝かせてください。隅っこって謎の誘引力があるよな。
そうして、俺が鼻でリリーをつついて、なんとか隅っこからどけようと頑張ること暫し。どっしりと座って岩山に体当たりをしているような気がしたよ。
「あった、これだわ。これならいけるかもしれないわよ」
「なになに? ……へぇ~、たしかにこれならいけるかも」
リリーが見せるダンジョンタイプを見て、俺は感心しちゃうのだった。
◇
草原と外の境界にテチテチ移動して、ガブたちも何をやるんだとついてきて、結構な大名行列になり、見学することとした。
「新しいダンジョンタイプはどんなのなんですか?」
鍵音がキラリと目を輝かして尋ねてくる。悪魔系なら封印して使役しようと考えていることは明らかだ。
「敵のポップを制限しつつ、拠点として使えるダンジョンなんてできるんですか? 私は思いつきませんけど」
「マーモットの方が頭が回るということが証明されたわね」
「むむっ、聞き逃がせないセリフを言いますね。私はこれでも学校で、全ての学科テストを満点を取った天才なんです。私は勉強において人間の中ではトップを争うと信じてます」
ふふっと、おヒゲを揺らすリリーに、鍵音はムッと頬を膨らませる。どうやら頭が良いことは、鍵音の自信となっているようで、馬鹿にされると弱気な鍵音でも怒るみたい。
「言い過ぎたわ、ごめんなさいね。今時よくあるテストはできても社会では通用しない人間の典型的なタイプだったのね」
「ぐさぁっー! 言ってはいけないことを言いましたね? でも大丈夫、私は常に同様の嫌味を言われることを想定した問答集を作成済みなんです。答えは一つ、と、う、し、か。投資家になってお金持ちになるんです。1日に数回マウスを操るだけで、あくせく働くサラリーマンの年収の数倍稼いじゃいますから」
「この崩壊した世界で投資家になるのは大変だけど頑張ってね。隅っこに座りながら応援してるわ」
「ゔぁーん! マーモットが虐めるぅ〜」
マーモットに口で負ける鍵音である。そして泣きながらしがみつくのは幼女である。鍵音は本当にそれで良いのかな?
「馬鹿なコントで話が進まないわ。さっさと使うわよ」
飽きてきたのか、リリーが手を境界に向けると、内包する魔力を解放し始める。
リリーを中心に、草原がさざ波のように揺れていき、外の風景が蜃気楼のように歪んでいく。
俺たちがゴクリとツバを飲み込み、その様子を見ていると、リリーが叫ぶ。
「レベル3、ラグーンタイプ創造!」
廃墟が泡のように消えていく。瓦礫すら残さずに、全てが入れ替わり、次の瞬間には潮風が吹く海が生まれるのであった。
ポツリポツリと、小島が浮かぶ海となった。小島同士は細長い橋で繋がっていて、海面から5メートルはあるマグロが泳いでいるのが見える。
「どうかしら? 注文通りと思うわよ、魔物は全て水棲生物を選んだから島には影響はないわ。それに人間たちは海水から塩も作れるし、魔物型魚も食べられる。正直、一石二鳥どころか、一石十鳥くらいね。自分で言うのもなんだけど、私の閃きが怖いわ」
「おぉ〜。すげー、リリー。マーモットラグーンの支配者ってやつだな! これでリリーも悪女の仲間入りおめでとう! バハムーチラグーンのように女王になるんだな!」
「天才たる僕もこのアイデアはありませんでした。おめでとうございます、でも、僕たちマーモットに利点はあるのですか?」
ガブが感心してパチパチと拍手をして、ルーは少しセコいことを言う。ミカは草原で既に寝ていて、幼女は海を前にキラキラと目を輝かしてお手々をつけて遊び始める。
「私たちのメリットは新しい下級マ族の住居を用意できたという点ね。レベル3は半径100キロだからかなりの人が住めるわ」
ガブのおヒゲを引っ張りながら、さらっと告げるリリーだけど━━。
「え? そんなに大きいの、このダンジョン?」
俺たち、孤立しないかなぁ?
あまりの大きさに俺は少し口元を引き攣らせるのであった。ヤバい、レベル3を舐めてたや。
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