67マモ 決戦の報酬
『おめでとうございます! 貴方は世界を滅ぼすモンスターを倒しました! 経験値50000取得。しかも小動物なのに世界を救うという歴史上初の快挙です。そのため、貴方に特別に経験値50000を差し上げます!』
『んん? なにこれ? 経験値が多すぎない? 世界を滅ぼすモンスター? なにそれ?』
なにか予想外の結果が表示されて戸惑ってしまう。普通にボス敵だと思ってたのに、この経験値は何ごと?
『ううーん、わかりません。システムがそう判断したと言うことは、正しい結果だと思われます。あの見野とかいう回帰者に聞いてみれば良いのではないでしょうか?』
『未来的に脅威の化け物の可能性があるということか。了解、後で調べてみるよ』
地上に落ちた際にできたマーモット型の穴から這い出しつつ、俺はレイの返答を記憶にメモしておく。今現在のボスの脅威から報酬が計測されたのではなく未来においての脅威を計算に入れてというのは普通ではない。ということは恐ろしく強い敵に違いない。
「まぁ、今はそれよりも、おうちに帰りたいけどさ」
廃墟街が綺麗さっぱり更地となった風景を見て、俺は大きくあくびをするのだった。
「お~い、無事か〜」
「莫邪の能力を見せることができなかったのが残念だったうさよ〜」
空からガブたちが降りてきて、前からマモベースが近づいてくる。どうやらスパイスの効いたお散歩は終わりらしい。
◇
「総武大蛇? なんだそれ? 超巨大な蛇? もしかして、ヨルムンガンドのことか?」
おうちに戻って、食堂で暇してた見野へと問いかけてみると、巨大な大蛇というところで反応があった。
「ヨルムンガンドって、神話の世界を飲み込む蛇と言うやつですか?」
倉庫から持ち出してきた物資の一つ、サイダーを手渡しながら尋ねる。ちなみに今の俺は助けられた生存者ツインテールゴスロリ娘です。ゴスロリという所は、この服を着ていると高ステータスになるという固有スキル持ちだと説明してます。
「あぁ、山を呑み込む大きさでさ、ヨルムンガンドの移動経路にある街や村は100%食われるんだ。30年後は、そのせいで世界の3割がヨルムンガンドに食われて、更地となっていたな」
「ふむふむ、そうですか。あの総武大蛇を放置しているとそこまで巨大化してしまうんですね」
納得。それだけの脅威であれば、世界を滅亡させる者と判断されても当然である。
たった一ヶ月かそこらで、あれだけ巨大化していたのだ。春には誰も倒せない大きさにまで育ってたのかもね。あいつを倒すチャンスは今しかなかったというわけか。
「な~んか、俺の知ってる未来と変わってるよなぁ。なんでだ? 君のような美少女と出会うこともなかったし、えへへ、君の名前はなんていうんだ?」
「私の名前は本屋鍵音と申します」
途中で下手くそなナンパをしてくる見野を放置して、俺は考えることがあるねと、応接室に戻るために立ち上がる。
なにせ、考えることは山とあるのだ。
食堂を出ようとすると、受付ロビーから歓声が響いてくる。マモベースが持ってきた倉庫の物資を見て、皆は喜んでいるのだ。
少し興味が出てきて、受付ロビーに行くと、早速とばかりに衣料品が配られていた。
「皆さん、落ち着いてくださいであります。衣料品は大量にありますし、また、他の倉庫からも大量の物資を確認しておりますので、足りないということはありません」
ひょっこり覗くとアミがリーダー的な存在となって、皆を指揮している。アミの後ろにはこの危険な世界で頼りになる揚陸艦と、大量の物資があるので、どんな後ろ盾よりも今は強い。
そのため、抗議が上がることもなく、皆は大人しく列を作り、衣料品を受け取っていた。
「は~い、並んで並んで〜。サイズピッタリとはいかないけど、見栄を張ってキツめのサイズを選ばないでね〜。あとで交換してと言われても、無理かもしんないから」
ランが冗談を言い、少し太めの人が揶揄われていたりする。まぁ、この世界でそんなことをする人はいないと思うけどね。
「ようやくカーテンの服から卒業できたよ。あれも楽と言えば楽だったけど、原始人になった気分だったからなぁ」
「そうね。特に下着とか足りないのが大変だったわ。臭ってないか気になって、周りの人から距離をとってましたもの」
「作業用には、汚い服でもいいんだがな。やはり清潔な服を着ると気分が違うよ」
皆は和気あいあいと服を受け取り、着替えに向かう。人間はやはり清潔な服は嬉しいらしい。マーモットになって、無くした常識の一つだ。なんとなくそれが人間としての意識を削られたような気がして、少し寂しい。
「食べ物は配らないのかね? なんというか、贅沢を言うわけではないのだが、その、野菜だけは飽きたというか……」
勇気あるおっさんが気まずそうに手を挙げるが、それは周りの人たちも同様のようで、積み重なる段ボール箱をチラチラと見ている。キャベツがあれば満足な俺たちマーモットとは違い、人間は不便な生命体だ。
「きゅー、キュキュー!!!」
そしてその視線は段ボール箱を運んでいた兎たちにも届き、兎たちは抗議するように一斉に鳴く。抗議というか実際怒ってる。兎語のわかる俺はなんと鳴いてるのか分かるのだ。
ちなみにこう叫んでる。
「うさたちは狩るの禁止うさよ!? うさたちを狙う奴らは、きっちりと血の報復を受けることを宣言するうさ!」
なにせ兎たちは狩りで初心者が狩る代表的な獣だ。身の危険を感じるのは当たり前だった。白いもふもふがキュキューと一斉に鳴き、人々はなにを鳴いてるんだろうと戸惑う。
うん、ほとんどの日本人は兎を狩って食べるという意識がそもそもない。彼らにとって肉とはパックに入っているものであり、生命を食べている意識はないからだ。
だが、その意識も段々と変わるかもしれない。俺も元人間だから分かるけど、人間はお肉好きな人多いんだよ。
「兎たちの数は常に把握している。この先、誰が相手でも手を出す者は死を与えると私が警告しよう。想像心が足りないものでも、銃を向けられたらどうなるか分かるであろう?」
釘を刺したのは、タラップから降りてくる男だった。というか、ダンディな中年男性に化けたテセウスだ。軍服であることもあり威圧感が半端ない。眼光は鋭いナイフのようで、気弱な人は何人か俯いて視線から逃れる始末だ。
だが、あれなら大丈夫だろう。ロロたちも強いし、正直人間などにやられるわけがない。そう思ってると、油断してやられちゃうから口にはしないけどさ。
「さわさわさわ」
「オバケみたいな登場だけど、俺もこの姿だと苦手になった?」
この数日で聞き慣れた声に苦笑いしつつ、後ろを振り向くと鍵音がサイダーを片手に立っていた。物資を手に入れた報酬として、鍵音はいち早く食べ物を手に入れたのだ。
「いえ、普通に周囲にも人が大勢いるので緊張してるんです。さすがに真希さんには緊張しません。それよりも、もう少し女の子っぽい話し方をしないと変に思われますよ」
人間相手にはお化けのように話すコミュ障の有難い忠告である。でも、それは一理あるな。
「一理しかないから、気にしないけどさ。で、何の用? 見野と遠藤に取り憑いてる悪魔を封印してほしいとか?」
「なぜに悪魔で確定しているかは分かりませんが違います。遠藤さんたちは暫く放置したほうが強くなれますし、冬の間は放置しておこうと思ってるんです。王と違い他の人たちも自分自身の姿を変えられてしまう可能性は無さそうなんで」
「やだやだ、これが人間だよね。目先の利益を考えて、起こりうる可能性の危険を無視する。知ってる? 戦後まもなくは目が冴えて元気になるって、ヒロポンは合法だったんだよ? でも、副作用が強くて違法となった。そして中毒者は違法でも使い続けることになるんだよ」
「なんか常々思ってたんですけど、マーリンさんって人間みたいな考えとか知識を持ってますよね?」
ギクッ。ヤバい、喋りすぎた。
「俺もマ王になった時にある程度の知識は得たんだ。で、悪魔封印が目的でないなら、なんの用?」
「それがですね……。総武大蛇を倒した際に、私は報酬を得られたんです!」
胸を張る自慢げな鍵音だけど、俺も大量の経験値を貰えたよ? 小動物の加護で鍵音の十倍だけどさ。
「ジャジャーン! なんとコストゼロの魔造悪魔なんですよ。名前は『ゴーストトレイン』なんです!」
鍵音の手のひらにカードが現れる。そのカードにはさっき倒した総武大蛇に似た電車が描かれていた。
「コストゼロ!? というか、人間は経験値の他にアイテム貰えるの? フェニックスの尾で一撃で倒されそうだけど、それは凄いね!」
「ですよね? ですよね? えへへ、遂に私の時代来たる、ですよ! これなら倉庫に残った物資も確保できますし、この無敵電車なら周囲を探索する一助となります。私は国土交通大臣に任命されますかね?」
「人間は経験値の他にアイテムやスキルを手に入れられるってことなのかな……。小動物優位のシステムだと思ってたけど、そうでもないのか」
よくできたシステムだ。これなら急速に強くすることも可能。よほど凄い偉業を打ち立てないとだけどね。世界を救うレベルの業績なら、これだけの報酬が手に入っても当然か。
「で、この電車で明日散歩に行きませんか? 最初、テセウスさんを誘ったんですけど、一瞥されて鼻で笑われました。砲もついていない乗り物に乗るつもりはないようです。冷たいと思いませんか? あの人は兎だとしても苦手なんですけど?」
それが用件か。きっと進水式のように大げさに出発したいのだろう下心も透けて見える。
「そっか。でも断るよ」
「え!? 絶対に面白いと言って乗ってくれると思ったのに! 電車だけに乗ってくれると思いましたのに!」
「俺にもやることがあるんだよ。ランやロロを誘いなよ」
「ランちゃんは誘いますがロロさんたちは不可能かと」
鍵音の指差す先にいる兎たちは、なぜか狂気の形相で走り回っていた。いや、理由はわかる。
「人参が飛んでるうさよ!?」
「あそこにはキャベツもいるうさ!」
「楽園はここにあったうさね!」
叫びながら、ポップした魔物に齧りつく兎たち。その狂乱の様子を見るに暫くは使い物にならないな……。
でも俺もやることがあるのだ。
なにせ、ジャックフロストを倒した時に3回目の飯屋が使用可能となったのだから。
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