61マモ 特兎部隊
マモベース内に警告音が響き、赤灯が点滅する。ロロは口を突き出して人参スティックに齧りつく悪マたちをケリケリと蹴り上げて防ぎつつ、ハッチを開けて外に飛び出る。
外にさえ出れば安心だ。頼もしい仲間たちが待機しており、ロロを助けてくれるから。
元々ロロは普通の家庭のペットだった。家の中で放し飼いされており、良い子な兎のロロはコードを齧ったりすることなく、外に出れなくても、いつも暖かで、襲われることなく、優しく撫でられている兎生に満足していたものだ。不満は餌がカリカリ君が多くて、大好物の人参を食べる機会が少ないことであったが、野生の生活よりも遥かにマシだったと、今は知っている。
兎を狙うのは魔物だけにおさまらず、肉食動物にも食べられそうになるし、人間だって狩ろうとしてきて、危険な世界だった。
しかしそこに現れたのが、テセウス閣下だ。皆を助けてくれて、拠点も用意してくれた。そして、助けられた仲間たちは強い絆で結ばれたのだ。
「うさーっ、ロロ脱出うさよ!」
「ロロ大佐が出てきたうさ!」
「大尉じゃなかったっけ?」
「どちらでも良いよ。助けないと!」
なので、包囲している味方へと守ってもらおうと駆ける。
仲間たちは、ロロを見て慌てて手を伸ばして保護しようとしてくれる。その行動が嬉しい。
皆に保護されたら、人参スティックを見せつけて、得意げにカリカリと食べてあげるんだと、味方たちへと駆け寄ろうとする。
「貴重物資を持っていることを確認!」
「早くこっちにくるうさ!」
「へい、その物資をパス、パース!」
味方は白い毛皮に包まれた短いお手々を伸ばす。
赤い瞳もギラギラとしていた。
ついでに口元から涎もダラダラ垂らしていた。
ロロは綺麗に直角に曲がると外へと駆け出した。
「あっ! ロロ、こっちに来るうさよ! せめてその貴重物資を置いてけうさ」
「貴重物資を置いてくだけでいいうさ」
「なんならロロは必要ないうさ」
わらわらと群がってくる仲間たち。いや、もはや仲間ではない、敵だ! 昨日の味方は今日は敵。戦場は過酷で非情で裏切りの横行する世界だった。
「ふざけんなうさ。この人参スティックはぜ~んぶ、ロロのもんなんだうさよ」
しっかと人参スティックの束を抱えると、ロロは逃げて、仲間は悪マと共に追いかけてくるのであった。
こうして、包囲している兎軍はロロを追いかけて50匹ほど減ったのだった。
◇
「カバー入れうさ、各員、戦艦の制圧を急げ!」
マモベースはマーリンとアミ、ニニーと鍵音しかいないため、内部に入られると防衛はほとんど不可能だ。
残り50匹の兎たちは、特務部隊の黒い防弾チョッキを着て、サブマシンガンやショットガンを手に、ぴょんぴょんと内部に入ってくると、制圧を開始し始める。
「寝室発見うさ!」
「お布団ふかふかうさ」
「寝心地確認!」
「ぬくぬくうさね〜」
寝室を発見した兎たちは罠がないかと、お布団の中に油断なく入り込むと、体を寄せ合って久しぶりの暖かなお布団の中を制圧するのであった。その数は20匹。
「娯楽室発見!」
「ねーねー、このテレビ、12000本も映画やドラマを観れるんだって」
「ウォーターサーバーあったうさ。お水用意するね」
「兎滅の刃の無限新幹線編ってある? 元のご主人は見たいところだけ繰り返して見るから、通して見てないうさ」
「あるある。俺たちを膝の上に乗せてアニメとか見るのはいいんだけど、通して見ないんだよ」
「ジーク斧を観るよ〜。第一話からで良いうさ? これコメディって本当?」
さらに20匹の兎たちは娯楽室でブービートラップがないかとテレビの前に座って、アニメを見始めちゃうのである。
こうして訓練された兎軍は、あっさりと娯楽室を制圧。
残りの10匹がブリッジ制圧を目指して、攻めて来るのであった。
◇
人参スティックの誘惑にも負けず、ふかふかお布団にもテレビにも負けなかった兎たちは精鋭だ。訓練された動きでブリッジへと向かってくる。
だが、そう簡単には行かせないのが俺たちだ。俺は真希として、アミと鍵音を連れて防衛に入った。幼女は危険なのでお留守番だ。
「アミ、射撃開始!」
「了解であります。牽制をしつつ、突出した敵を倒します」
金属製のデスクを廊下に横倒しに置いて、簡易バリケードを築き、俺たちは迎え撃つ。
アミはリーンから、ぴょんぴょんと走ってくる兎へと一射。アサルトライフルが火を吹き、撃たれた兎が跳ねるように後ろに吹き飛ぶ。
「敵兵確認うさ! 衛生兵、トッドを治すうさよ」
「こちらもバリケードを用意!」
「オーケーうさ。段ボール箱を持ってきたよ」
「段ボール箱じゃダメじゃない?」
ヨチヨチと段ボール箱を運んできて、兎たちはバリケード代わりに通路に設置していき、撃たれた兎は衛生兵とやらに運ばれて、頭を撃たれたわけでもないのに、後方で頭に包帯を巻かれていた。
驚くべきことに、それだけで撃たれた箇所が逆再生のように治っていき、元に戻ってしまった。
「あいつ、治癒スキル持ちなのか!」
「どうやら一気に倒すのは難しいようでありますよ」
驚く俺に、アミが再び斉射をして兎を狙う。兎たちは素早く段ボール箱の陰に隠れるが、アサルトライフルの軍用弾は鉄板すらもやすやすと貫く威力を持つ。段ボール箱などあっさりと貫き、ボロボロにできるかと思いきや━━。
キキキンと金属を引っ掻いた音がして、ライフル弾は全て弾かれてしまった。
「な、なにあれ? あの段ボール箱は無敵状態? ゲームの背景アイテム?」
目を疑う光景を見て驚愕する俺たちに、兎がぴょこんと顔を出すと、得意げに万年筆を揺らす。
「見たかうさ? これは神器『万能ペン』うさ! このペンで書かれた物は一時的に記載された性能を持つうさよ! この段ボール箱は『鉄の箱』と書いたうさ!」
得意げに鼻をスンスン鳴らす兎だ。ついで、もう1羽が顔を出し包帯を振ってみせる。
「これは、神器『ゲーム包帯』うさ。この包帯に巻かれると欠損しても、元の状態に癒やす奇跡の神器うさ。羨ましい? 羨ましー?」
どうやら兎たちは自慢したくて仕方ない模様。他のうさぎたちも、致命傷を無かったことにする神器や夜目でも昼間と同じように見えるサングラスなどを自慢してくる。
信じられないことだが、全員神器持ちらしい。一体全体どうなってるわけ?
『プレイヤー、わかりましたよ。これは恐らくは兎将の能力です。小動物一覧表を見た所、相手にふさわしい神器を作り出す能力だって、書いてありました!』
『それ言っていいやつ? その一覧表を俺にも見せてくれないかな?』
『あんまり覗くとバレて怒られちゃうから駄目です! ママは怒るととても怖いゲフンゲフン、私の能力にも限界があるんです』
『そういうことにしておくよ』
ママの怒りが怖いレイは放置して、兎たちに向き直る。これは弱いと思ってたのに意外と苦戦するかもしれない。
アミが撃とうとリーンをすると、素早く撃ってきて、射撃を妨害する。弾丸が尽きてリロードタイムになると他のうさぎたちが援護に入るし、近づこうとしてもショットガンを連射して面制圧をしてくるので、凄腕であるはずのアミでも手も足も出ない。
予想以上に息の合った部隊だ。たとえ人間の特殊部隊を前にしても、余裕で倒せるレベルである。
「むぅ、あんまり時間はかけたくないな。鍵音、ヴォラクを召喚して、敵を捕らえるんだ」
「ひぇ~、銃弾が飛んできます。でもここで活躍するんです。なにか私やっちゃいました? なにか私やっちゃいました?」
『サモンヴォラク』
銃弾から震えて身を隠しながら念仏のように一度言ってみたいセリフを繰り返し、鍵音がヴォラクを召喚する。
「うわっ、なにあれ?」
「化け物婆!?」
人間が見ても恐れる化け物のヴォラクだ。突然現れた巨体の老婆を見て、兎たちも怯んだのか、少しだけ弾幕が薄くなる。
「ふぇふぇふぇふぇ、私を喚び出して何をさせるつもりじゃ?」
「ヴォラクに本屋鍵音の名のもとに命じる。骨牢獄を使用して敵を全員捕まえてっ!」
その様子を見て鼻で笑い余裕そうに腕を組むヴォラクに、鍵音がここが私の輝くときとばかりにヴォラクへと命じる。
「はっ、たかだか兎を倒すのに私を召喚するとは阿呆な小娘じゃが業腹じゃが命令には従ってやろうぞ。大悪魔ヴォラクの力を見て、兎鍋になるがいいじゃろうて」
『骨牢獄』
召喚されたヴォラクが嘲笑の笑みで、皺だらけの手を振るうと、兎たちの足元から囲うように複数の節くれ立った骨が生まれて、木のように伸びると牢獄へと変わり、兎たちを閉じ込めようとする。大悪魔の拘束魔法だ、兎たちなど防ぎようがないと思われたが、赤い瞳がギラリと光ると、掻き消えるように素早い動きで骨が閉じる前に逃げてしまった。
「この化け物野郎っ、これでも喰らえうさ!」
それどころか、逃げる間にサブマシンガンの銃口をヴォラクに向けて反撃をして来る始末。サブマシンガンの連続の銃声と、ショットガンの爆発するかのような銃声が響き、ヴォラクを襲う。
「無駄じゃっ、この私は銃如き、ぐわっ、グエッ、こ、こ奴ら、魔法障壁を貫通するとは、その弾丸は魔力で作られて、ごはっ」
それでも銃弾など、自身の魔法障壁で防げると考えて余裕なヴォラクであったが、なんと魔法障壁を貫かれて、うめき声をあげ血だらけになっていく。
「ああっ! わたわたわたのヴォラクが倒されちゃいます! ヒットポイントがみるみるうちに減っていく〜、銃が弱点属性だったんですか!」
悲鳴をあげる鍵音だが、俺としては問題ない。魔物を退治していると聞いて、この可能性は読んでいた。
となると、どうするかというと━━。
「ヴォラクシールドバッシュ!」
ヴォラクの背中を押して盾にしつつ、一気に距離を詰めるプランBだ!
「ぎぁぁぁ、いだっ! お主悪マか! 年寄りを盾にするんじゃないわい!」
「俺はマーモットだから難しいことよくわかんない」
どうせ復活できるんだからと、ヴォラクシールドを構えて敵のバリケード内に突入。賢い俺の作戦を見て、うろたえる敵へとアイテムボックスから取り出したロープを投げて━━。
「悪いけど、ここでゲームオーバーだぜ、テレキネシスロープ!」
アイテムボックスからロープを取り出すとテレキネシスにて兎の耳に結んでいき、ぶら~んと吊るしちゃったのである。
「やられちゃった」
「ぶら~ん」
「ブラッシングして〜」
どうやら兎は耳を掴まれると戦意を失くすようだった。銃を捨てて暴れるのをやめて諦める。
「見事だ。まさか100羽の部隊が全滅するとはな」
「お褒めにあずかりどーも」
通路の奥から、軍服を着たナイスミドルが、現れて、褒めるように拍手をするのであった。
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