59マモ 旅人うさ
戦闘を終えて、ブリッジに戻ると魔本から戻った鍵音がペチペチデスクを叩いてきた。
「酷いですっ! 私を武器かわりに使うなんて、お天道様は許しても、私が許しませんっ!」
「良いじゃん、悪魔ジャックフロストは封印できなかったけど、マモタイトはたくさん手に入れたんでしょ?」
「たしかに10000近く手に入りましたけど……私は血塗れになって、よだれまみれになって、毛だるまになって……でもこれだけマモタイトが手に入れば良いですかね? えへへ」
泣きながら抗議していたと思いきや、手元にある宝石を眺めて嬉しそうに笑う現金な鍵音である。とはいえ、予想よりも遥かに多くのマモタイトが手に入ったことと、経験値まで取得できたのは良かった。多分王を倒したからだ。
「マモタイトをマモッカに交換すれば、何人かの装備は揃えられるよね。ロングソードは5000マモッカだったっけ? 木の盾が3000マモッカだから、100人分は余裕で用意できるよね?」
たしかレートは158マモッカだから、158万マモッカが手に入る。とりあえず拠点を守り、戦闘を行える最低人数の兵士は欲しい。
「ナチュラルに私の稼ぎを奪うようなことを言わないでくださいっ。これだけあればヴォラクを召喚してぷいぷい言わせられるんですよ? あの子はいったい……とか、皆が驚くんです」
「最前線で一人で戦いたいなら止めはしないけど」
「100人分なら半分くらいですか。それくらい今日の稼ぎなら余裕で出せます」
手のひらをくるくると回転させる鍵音だが、これでどうやら戦力は揃えられそうだ。1日の稼ぎとしてはまぁまぁじゃないだろうか。
「ボス、これからどうするでありますか? 拠点に戻りますか?」
「まだまだ余裕はあるし、お昼にもなっていないから、まだ探索を続けよう」
探索は始まったばかりだ。イエティの毛皮を剥ぎ取っても良かったけど……なんとなーく嫌な予感もするので、放置しておく。どうせすぐに魔物が死体を食べて痕跡を消してしまうだろう。
「そんじゃ、ニニーがうんてんしゅるね。ぶおーぶおー」
幼女が再びコントローラーを手に、マモベースを発進させる。
━━だが、1キロも走る前にまた停車することになるのであった。
なぜならば、新たなる生存者を発見したからだった。
◇
雪積もる道路の真ん中に、よろよろとよろめきながら歩く姿が見えた。どうやら傷ついており、その服装もボロボロで、今にも倒れそうだ。
「た、助けてくれ……」
震える手を突き出して助けを求める姿は哀れな旅人にしか見えないが……。
「アクセルベタ踏みで」
「轢き殺していいと思います」
「ラスアスのイベントを自分もできるなんてサイコーです。あれは盗賊の囮ですよ! あ、でも少し可哀想なので、機関砲で牽制して追い払いませんか?」
俺以下アミも鍵音も同意見だった。ちなみにガブとルーは隅っこで体を寄せ合い、すよすよと気持ちよさそうに寝てます。
鍵音がるんるんとはしゃいで、ネタバレをしているので、マモベースは再発進……しない。
「あれ? 運転手はどこ?」
デスクにコントローラーは放置されて、幼女はどこにもいなかった。どこかなと嫌な予感に探すけど━━。
「うさちゃん! うさちゃん、今たしゅけるね!」
ハッチを開けて、飛び出すと怪しい旅人を抱き上げていた。
旅人というか小兎だった。
純白の毛皮、つぶらな赤い瞳、スンスンと鼻を鳴らす姿がとてもラブリ~な小動物だ。
でも、古着を着て人語を操る小兎とか、怪しいを通り越している存在にしかみえないよ!?
止める暇もなく、高ステータスのニニーは幼女とは思えない速さでマモベースを飛び出していたのだ。そして、出ていった時と同様に今度は高速でブリッジに戻ってきて、デスクの上に小兎を乗せる。
「だいじょーぶでしゅか? 怪我してるの? お腹空いたでしゅ? 人参たべう?」
「お腹空いたうさ! 人参食べるうさよ〜」
人参と聞いた途端に小兎はニニーにスリスリと体を擦り寄せて、キラキラした瞳でお手々を伸ばす。ニニーはポッケに手を突っ込むと、スチャッと人参スティックを取り出して小兎に上げるのであった。
「んまーい! ロロ、ペットフードばかりで、久しぶりに人参食べたうさよ。もしかして幼女は天使の化身とかうさ? そしてこいつらは悪マうさ?」
夢中になって、ポリポリと人参を齧る小兎がニニーを敬愛の瞳で見て、そして、俺たちを蛇蝎のように嫌った目で睨んでくる。
なんで初対面でこれだけ嫌われているかわからないな。怪しい!
「ロロの人参を奪おうとするんじゃないうさ! 反対側から齧るな、こら!」
「マーモット界の掟を知らないようだな、仲間が食べてたら、必ず奪い取るのが俺様たちのルールだろ」
「天才たる僕は世界の理だと理解してますからね。異論はありませんよ」
「とりあえず、マーモットモード!」
誰かがご飯を食べていたらとりあえず奪い取るのが俺たちマーモットたちだ。うさぎ界と少し文明が違うかもしれないけど、郷に入ってはマーモットに従えというよね。
細長い人参スティックは反対側から齧るのに適している。俺たちは顔を突き出してカリカリと人参スティックを齧り、なぜか小兎は激怒していた。
「けんかしたら、メッだお。ほら、まだ人参スティックはあるでしゅよ」
タクトのように人参スティックを振る幼女に、俺たちは押し合いへし合い、人参スティックを貰おうと近づく。小兎は俺たちの鉄壁のディフェンスを前にコロリンと転がされて人参スティックに近づけなかった。
「な、なんて野蛮な種族うさ! 普通は他人のご飯はとらないうさなのに、まったく気にすることなく奪おうとするなんて蛮族としかマーモットは言いようがないうさね!」
なんか小兎が毒舌を吐いているけど、どこか変だった? とりあえず人参スティックを食べてから考えようかな。
◇
「ロロの名前はロシナンテ。あだ名はロロうさ、天使はロロの頭を撫でていいうさよ」
すっかり幼女に懐いたロロは、ニニーに抱っこされてご機嫌だ。俺たちが近づくと、シッシッと足で蹴るフリをするのでとても怪しい。きっと騙されやすい幼女を狙っているに違いない。
「あのあのあの、うさちゃん、撫でてもいいです?」
早くも裏切り者が出た! マーモットの頭を撫でればいいと思うのに、うさぎに恐る恐る近づいている。
「人参スティック持ってるうさ?」
「えと、えと、食べ物は持ってません……すいません」
「それじゃ駄目うさね」
利益にならないと知ったら、バッサリと切って捨てる小兎である。
「で、ロロはなんで言葉を話せるわけ? なんでここらへんで彷徨いてたの?」
膝をついて落ち込む裏切り者は放置して、とりあえず尋問するべく、幼女の膝の上で丸まって寝ようとするロロに問いかける。
「え~と、なんだったか忘れたうさ……なんか大事なことがあった気もするけど、人参スティック食べたら全部忘れたうさよ」
本当に用件を忘れたらしく、コテリと首を傾げて不思議そうにして、足をプラプラと振る。兎の本能はご飯を前に活性化した模様。
(まぁ、俺には裏技があるからいいんだけどさ。『理解』発動!)
ロロを視界に入れて、素性を確認。
『兎将の配下となったと思われる兎。王の配下となったため、知性を持ちステータスも高くなっていると思われます。人参が大好き』
予想外の結果が表示されて、少し驚いてしまう。将なんてクラスもあったのか……。
『兎将とは王のワンランク下のクラスを示します』
あまり役に立つ情報はなかったけど、一つだけ気になるところがあるな。
(兎将? そうか、俺と同じような存在の配下となったためにステータスに上昇付与がされたんだ! ということはこの小兎は人間とかではなく元から兎なのか)
幼女のお膝の上ですよすよと寝る兎が元はおっさんとかだとしたらどうしようと思ってたけど、単に元ペットだったようで安堵する。
安堵すると同時に、この小兎の怪しさは急上昇。将軍に仕えているということは、このマモベースに乗ったのも、なにか目的があるからだ。
足を伸ばしてピクピクと震わせ、この世の楽園うさねと、欠伸をしてリラックスする警戒心ゼロのアホウサギ。
「なぁなぁ、ロロは仲間がいるんじゃないの?」
なので、仕方なく誘導すると、ロロはガバリと立ち上がり、焦った顔になると叫ぶ。
「そうだったうさ! この戦艦を閣下が欲しがったから、制圧するために罠に掛けるために来たんだったうさよ! 大変大変遅れちゃ大変うさ! あ!」
「……」
「……」
なるほど。
「えーと、内緒にして欲しいうさ。ここだけの話にして欲しいうさよ」
俺たちがジト目で見つめると、シーと手のひらで口を押さえて、ロロがお願いをしてくる。マーモットの次に可愛いと噂される小動物のため、そのお願いは人間なら聞きたくなるんだろうけど、マーモットは通じないよ。
というか罠にかけようとする相手に黙ってほしいとか、小動物のアホさを感じて哀しくなるぜ。
「悪いけど、ここで」
むぎゅうとロロを抱きしめるニニー。
「え~と、ここで」
うるうると瞳を潤ませる幼女。
「んと」
頬をフグのように膨らませて、抗議する幼女を前にため息をついちゃう。これ以上責めると次は泣くのは目に見えている。
しかし、この戦艦を奪おうとする相手を放置するのは危険だ。どうするか……。
ウサギだから頭も弱いが肉体的にも弱そうではあるし、将軍とか言ってたな。
「分かったよ、黙っておくから、この先の予定を教えてくれ」
「え~と、ポケットにちゃんとメモを書いた紙切れを入れておいたうさ」
紙切れを取り出すと、ふんふんと頷き━━。
「これ漢字も混ざってるからロロ読めないうさよ。代わりに読んでほしいうさ」
俺には紙切れを手渡してきた。うん、暗躍する時は誰にも頼らないようにしようっと。
「なになに? この先の廃墟倉庫に怪我人が多数いるから助けてほしいとお願いし、待ち伏せした仲間たちにより戦艦を制圧する。単純だけどよい作戦かもね」
茶番極まりない。極まりないが、同じ小動物だ。どうせ弱いだろうし、保護してやるか。
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