57マモ またお散歩
「マモットアーマーは人間に変身するの?」
「上腕二頭筋っ! まきゅまきゅ!」
筋肉隆々の大男に変身したガブがお腹から頭を覗かせながら楽しそうにサムズアップをしているのを横目に尋ねる。
「このマモットアーマーは、パイロットを幽体化して、魔力で形成した肉体に憑依させるシステムのようです。その証拠にガブの身体がいつもより小さいでしょう?」
たしかにガブの頭はいつもよりも小さくて小リスのようだ。ピギーと鳴いて頭を振る様子はどこからどう見ても可愛いけどね。
「ひ、にぇぇ、マーモットではなくて、もしかしてエイリアン? 私の顔に取り憑くのは無しでお願いします! わたわたわたはそこら辺にいるエイリアンの住む惑星に旅立つ主人公を見送る会社のモブ同僚役なので!」
ガブを見てプルプル震えてドン引きの鍵音が悲鳴をあげるけど、どこのフェイスハガーかな? 俺たちはマーモットだよ。
「この先、人間との話し合いも必要となるので良いアーマーだと思います。これでボスたちも自然に人間たちと合流できますね」
『アミ……それは少し甘いと思うよ、ほら、見てみて』
お腹から頭を突きだしているガブはお手々まで伸ばして、リリーとギュイーンをしようとしていた。もう人間アーマーは飽きたらしい。
『あれを見られたら、悪マが憑いてると思われて大騒ぎだよ。ガブたちの本能を抑えるためにも、使い所は考えないとね』
群衆の中でもマーモットは気にしないだろう。なので俺たちが気にしないとならない。多分ガブはキャベツを見たら、お腹からぴょいんと顔を覗かせるのは間違いない。
なので、このアーマーはマーモットの本能を抑えることのできる俺にしか装備できないだろう。まぁ、他の仲間に交渉をお願いしても厳しそうだから、別にいい。
「お~い、このアーマー、物凄い邪魔だから脱ぐけど良いよな? 眠たくなっちゃった」
もう飽きたガブは人間アーマーを脱いで、ヘソ天で寝ようとしていた。ほら、やっぱりこの装備無駄じゃん! 人化して喜ぶ小動物はいないんだよ!
ただし転生者を除く。
「さて、俺もマモットアーマーを使ってみようっと。俺が使わないという選択肢はないしね!」
ワクワクとリングをつけたお手々を翳して魔力を注ぐ。
パアッとリングが光ると、無数の魔力の糸が湧き出してきて寄り集まると、骨に筋肉組織に内臓にと変わっていき、皮膚が覆うと人間へと変わって行く。俺は幽体化して、小リスサイズとなると心臓部分に入り込み、人間アーマーを着るのであった。
流れる金糸のような美しい金髪をツインテールにして、煌めく碧眼は宝石のようで、小顔に収められた顔立ちは保護欲を誘う可愛らしくも儚げな様子だ。歳は15歳程度、背丈は140センチ程度で、ほっそりとした抱きしめると折れちゃうような華奢な肢体。フリルがたくさんついたフリフリと黒いゴシックドレスを着た美少女が爆誕した。というかモデルはこの間会った謎のメイドさんっぽい。
「俺のは女の子なの? ムキムキ大男タイプじゃないの?」
ぴょこんと胸元から頭を突き出すマーモットだ。
「うわぁ、美少女から顔を出すと完全にエイリアンですよ。絶対に他の人がいる前で顔を出さない方が良いです。外科手術で取り出せないかとか言われて拘束されちゃいますよ!」
「え~、美少女とマーモットが合体したら、最高の可愛い存在にならない?」
まきゅと、女の子の首を傾げて、同じように俺も首を傾げるので、最高の可愛い存在が爆誕した、と思う。
「爆誕してませんよっ! プラスとプラスなのに大幅にマイナスになってます! きっとデブリスを除去しようと紳士たちが襲いかかってきますよ。このアイテムは皆には内緒にしておきましょう、絶対に勘違いされるので、ここだけの約束ですよ? 良いですね?」
必死な形相で言ってくるので、これはおちゃらけてはいけない模様。マジにパラサイト扱いされそうだし黙っておくか。
「それじゃアンダーカバーが必要だよね。……そうだな、如月まきゅにしておこう。いや、まきゅじゃなくて真希ね。途中で出会った日本人の生存者って感じで」
「息を吐く様に偽名を思いつくなんて、もしかしてマーリンさんは悪いマーモット? 略して悪マなら悪魔契約できるかも?」
「魔本形態で齧られたいなら試しても良いよ」
ペチンと鍵音の頭を叩き、提督席に座ると足を組む。ふむふむ、思考だけで真希の身体は動くようだ。ピンチの時には、マーモット形態と叫んでマーモットになれば良いよね。
「ボロボロに齧られそうなので諦めます。では、このまま魔物退治に行きましょう。実は見野君から色々と聞いてまして、学校周りにはたくさんのゾンビが凍っているらしいんです。この地上揚陸艦ならあっさり倒せますよね? ゾンビ1体につきマモタイト1でもたくさん倒せば、山となる。それに気づいたんですけど、マモタイトをマモッカに変換もできるから、マ女の館でアイテムも買いやすくなるんですよ!」
なかなか頭のよい事を言うな。鍵音自身はまったく戦闘をしなくても良いというところが、本人的には良いんだろう。
でも、マモタイトってそんなに簡単に手にはいるのか? そこら辺リリー、どうなの?
『マモタイトは幽体の精髄だから、雑魚なら百匹倒して1入れば良いものよ』
リリーとの念話は聞かなかったふりをしておこう。なぜならば━━。
「では、本屋さん。このマニュアルを読んでオペレーターと火器管制システムとその他色々を全て覚えてください」
マモベースの貴重な乗員の一人となるからだ。アミが辞書のような分厚い説明書を鍵音に手渡すと、鍵音はペラペラとページをめくり、顔を顰める。
「これ、全部読んで記憶するのに1週間はかかります。とりあえず運転を手伝える部分をパパっと覚えますね」
なんと信じられない言葉が返ってきてアミはもちろんのこと、俺も鍵音をまじまじと見るが本気で言っているようだ。彼女は天才的な暗記能力を持っているのか、もうシステムを操作し始めていた。
うんうん、これで乗員ゲットだぜ。
それなら鍵音の要望通り、散歩にでも行きますか。
「マモベース発進。目的地はこの間の学校にします」
真希の口を借りると、マシュマロのような可愛らしくて甘そうな女の子の声が出てくる。これならバレることもないかな?
そうして俺はコントローラーを片手に散歩に行くのであった。今度こそは、壁に激突したりしないぞ!
◇
今日は雪は降らないようで、久しぶりに晴れているが、残念ながら曇天で吹く風は冷たく氷のようだ。
「と思うんだけど、この身体は優秀だね。全然寒くないし、かじかみもしないよ。宇宙でも行動できる万能タイプとは本当のようだ」
白魚のように細く白い指をワキワキと動かしつつ、真希の身体の頑丈さに感心する。この身体は見た目は美少女だが、それは見た目だけで耐熱フィルターをつければ大気圏突入もできる魔力体らしい。なので、この程度の寒さなど、リゾート地で日光浴を楽しむレベルでびくともしない。
「ずずず、ずるいです。わたわたわた、こんなに寒いのに、鼻水が止まりません、寒いです〜」
真希の細い腰にしがみついて泣きそうな声をあげてるのは鍵音だ。寒さに震えて、今にも倒れそうだ。
極寒の風が吹く場所はどこかというと、揚陸艦の甲屋根に乗っています。風がツインテールを靡かせて、可愛らしい顔立ちの少女を舞う雪が通り過ぎ、面白そうに微笑む姿はとても幻想的であった。
腰に鍵音がしがみついていなければだけど。
「だって仕方ないじゃないですか。マモタイトを収集するには、マモベースの中にいたらだめらしいんですもん。離れないでくださいね? 絶対に離れないでくださいね? わたわたわた、私は屋根から落ちたら即死コースに進む予感がするので」
マモタイトのため、外に出た鍵音である。まるで産まれたての子鹿のように膝をガクガクと震わせて、自分よりも小さな子にしがみつく情けなさを見せるが、それでも危険な外に出るくらいには根性は座っている。
護衛として、俺を連れてくるくらいにはちゃっかりともしていた。まぁ、俺もこの身体の性能を確かめたかったし、いいんだけどさ。
幽体化して真希の体内にいるとコタツに入っているようでぽかぽかだ。鼻水を垂らして美少女の顔を無駄にしている鍵音とは一味違う。
マモベースは前回と違い、ビルに体当たりをすることもなく器用に進んで、数時間経過していた。放置車両を踏み潰してはいるが、その運転はかなり上手い。
「ニニー、うゆてんとくい? うまい? えへへ、あけせるぺたー。ぶおー、ぶおー」
コントローラーを握っているのは幼女なのにこれだけ上手いのはコントローラーが人間用だからであり、マーモットには合わなかったと弁解をしておくよ。
すんなりと走行しているために、そろそろ学校が見えてきてもおかしくないところだけど……凍ったゾンビがいないな。
「おかしいですね、見野君が言うには、ここらへんには大量のゾンビが凍っていて、春に動き始めたらしいんですけど?」
私のマモタイトはどこに? とキョロキョロと辺りを見回す鍵音だが、雪に埋まっているのか、どこにもいない。
「ううぅ、盲点でした。もしかして除雪してゾンビを探さないといけないのでしょうか」
「春まで凍っていたということは、その可能性が大きいけど、マモタイト稼ぎはなんとかなるかもな」
「え? なぜです?」
「ほら、ビル壁をよーく見てみなよ」
意気消沈する鍵音に、廃ビルの壁を指差す。壁には雪が積もっているとしか見えなかったが、よーく見ると━━。
「白い毛むくじゃらみたいなのが、なにか動いてますっ。なんですか、あれ?」
壁を白い毛むくじゃらたちが出っ張りに手をかけて、俺たちと並走するように動いていた。白い毛皮の中に赤い瞳が光り、俺たちが気づいたことを悟り歯を剥く。
「ウホッーーー!!!」
それは猿の雄叫びであった。あまりの大声に廃ビルの積もった雪が落ち、鍵音がふらふらと頭を揺らす。
「ピギーーー!!!」
もちろん俺も負けてはいない。対抗して胸から頭を出して、お手々をあげてマーモットの威嚇音だ。
「ウホッ!?」
「ナンダアレ。キモチワルッ」
「バケモノ? ドチラニシテモタベルウホッ」
辿々しくも驚きの言葉で騒がしい毛むくじゃらたちが、壁を蹴るとマモベースへと飛んでくる。
「バケモノとはマーモットに対する侮辱だね。如月真希の性能を見せてやるから覚悟しろよ」
飛び込んでくる毛むくじゃらへと俺は真希の体内に戻ると迎え撃つのであった。
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