03 サウストリア(3)
「それで、そっちにいる彼は誰? カリーナの護衛?」
「ファリス様は、先生よ。私も少しだけ風の魔力を使えるから、教えてもらっているの」
「ファリス? 風の魔力って、お前、あの“風使いのファリス”なのか?」
「えっ?」
「何の話でしょう」
「お前、二年くらい前“スーの海軍”にいただろう」
「知りませんよ」
「覚えが無いとは言わせないぞ、秋の手合わせで、おれはお前にボコボコにされたんだからな」
「そんな昔の話、覚えていません」
「失礼します」
そう言って、ファリス先生が離れて行く。
「くそっ」
悔しそうにダナーが続ける。
「あいつ“風使い”だろう?」
「そうだと思うけど、そんなに大きな風を起こしたのは見たこと無いわ」
「凄かったぜ、あいつが本気になると。あいつ変な形の魔道具を首からかけているだろう?」
確かに彼に貸して貰った魔道具が、今はカリーナの首に掛かっている。
「本気になるとさ、あの魔道具が光るんだ。そうなるともうお手上げさ、こっちが水をいくら操っても手も足も出ない」
「船を操るなら、風の方が有利でしょう?」
「まぁ、河や湖ならね。でも海だとそうでも無いんだ、波や潮の流れもあるし、、、こっちは生まれた時から知ってる場所で全く歯が立たないんだから落ち込みもしたさ」
「ダナー、貴方が敵わなかったの?」
「その頃はね、今なら何とかなると思うけど、二人揃われたら無理だろうな」
「二人?」
「もう一人一緒にいた奴がいてさ、そいつがとにかく強かったんだ」
「その子も風使いだったのかい?」
「多分、炎の使い手だと思うけど、、、」
「なら、ダナーの方が相性いいでしょう?」
「無理だと思うよ、そいつ無茶苦茶だったんだ」
「無茶苦茶?」
「海の魔物ってさ、陸の魔物より狩るの結構大変なんだ。海の中だと炎も通用しないし、雷の耐性を持ってる奴多いしね、おまけに潜られると魔物がどこにいるか分からなくなる。それなのに、全然関係ないって感じで狩っちまうんだ」
「それは凄いわね」
「戦い慣れていたし、二人揃われると、海の上でも無理だろうな」
「貴方がそんな風に言うのも珍しいわね」
「その位、凄かったんだよ」
「まぁ、それは会ってみたかったわねぇ」
「前にさ、ファーレン様がウエストリアのエリスって人、連れて来た事あっただろ?
ちょっと感じが似てるかな」
「そんなに強い人だと、ちょっと怖いわ」
カリーナが言うと、安心させるようにダナーが答える。
「魔物だったらね、容赦ないって感じでさ、喋らないし、最初は怖がられたみたいだよ。
あの頃、海が荒れて魔物が多くてさ、被害が陸の方にまで広がっていたし、実際、あの二人がいなかったら大変だったと思うよ」
「スーの海軍にそんな子が入っていたとは知らなかったわねぇ」
「俺も詳しくは知らないんだ、あの頃、少しでも魔力があるなら簡単に人を雇ってたからな」
「確かにそうだったわね。それで、一人があの子だったとして、もう一人はどんな子だったの?」
「知らない。ずっとフード被っててさ、誰も顔を見た事がなかったみたいだ。
一年くらいいてさ、知らない間に居なくなったって、スーの親父が嘆いてたよ」
「まぁ、それは残念な事をしたのねぇ」
「なぁ、俺、、、ちょっと手合わせしたいんだけど」
「やめて頂戴、貴方の水と彼の風がこの辺りで暴れたら、花畑が全滅してしまうわ」
ファーネおばあ様とダナーが話しているのを聞きながら、自分が何も知らなかった事に驚かされる。
アレス様が“赤の騎士”と呼ばれるくらい強いなんて知らなかったと驚いていたら、ファリス先生まで違う呼び名で呼ばれているなんて。
おじ様が言った事って本当だわ。
『考えるためにはね、色々な事を知らなければいけないよ。そうでないと正しい答えを見つける事ができないからね』
本当の事を知ってみると、彼らが今までとは全く違った人に見えてくる。




