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9.

 二人の背中を追うマサトは、自分の作品が動き出して言葉を発するという非現実的な光景を目の当たりにして、まだ酔いが醒めていないのかと疑った。でも、頬をつねってみても痛みを感じるので、目の前の二人は幻ではない。ホログラフィー装置がおかしくなったとしても、部屋の外まで3次元像が歩いて行くはずがない。


 ――となると、これは現実なのだ。


 引き返してアニマトリンを問い詰めようとも思ったが、このまま二人がマンションを出て夜道を(かつ)()されては、酔狂なコスプレイヤーが街に繰り出したでは済まされない。何せ、剣を持ち歩く勇者ハイネマンは銃刀不法所持の典型だ。巡回している警官に職務質問されたハイネマンが「詳しいことはマサトに()け」なんて口走ったら、思わぬとばっちりを受ける。


 幸い、玄関のドアに鍵をかけておいたので、開け方がわからないハイネマンが難儀しているところに追いついた。


「だから、待って! そんな剣を持ったまま外を歩いたら警察に捕まるから!」


「あん? けいさつ?」


「まあ、警備隊……兵士みたいなものさ」


 異世界にありそうな適当な単語を並べてみる。


「だったら、しまえばいいんだな? ……って鞘がないぞ」


 そういえば鞘を書いていなかったことに、今更ながらマサトは気づいた。勇者シュヴァルツの方は背中に鞘を背負っていたことを思い出す。


「じゃあ、この家に置いておくとか」


「馬鹿言え! 勇者が手ぶらで歩けるか!」


「それは魔物が住む世界の話。ここの世界はそんな心配は要らないから――」


「あのよ。悪いが……お前さんの忠告には従えねぇ。たとえ、創造主(クレアトール)だとしても」


 ハイネマンが剣を構えたので、マサトが両手を肩まで上げて後ずさりした。


「この扉を開けろ」


「剣を向けられると、そっちに行けないよ」


「アガーテに開け方を教えろ」


「なら、そこのチェーンを外して。……そう、それ。……えっ? 無理?」


 アガーテがチェーンに苦戦しているので、マサトは「いいよ。やるから、どいて」とアガーテを自分の後ろに退かせ、剣の横をおっかなびっくり通りながら、扉の前に立って手早く解錠した。


「じゃあな」


 二人が扉を向こうへ押して出て行こうとするので、マサトは「どこへ行くのか教えてくれ」と声をかけた。


「場所まで知らねえよ」


「呼ばれているからって、知らないところへホイホイと行くのかい?」


「この建物の外に出ろと言われているだけだ。出て行きゃわかるだろうよ」


「誰に呼ばれているの?」


 と、その時、玄関の扉がギーッと音を立てて独りでに全開になり、ハイネマンの肩越しに堂々たる巨躯の執事風の男が現れた。白髪だが顔は壮年。肩幅が異様に広く、プロレスラーがピチピチの服を着ているかのようで、力こぶを見せるだけで服が破けそうだ。マサトは、この男をイラストで見た記憶があるが、名前までは思い出せなかった。誰かがホログラフィーでこの世界に出現させたのだろうか。


「何をしている。お前たち、早く来い」


 男がドスの効いた声を響かせたので、マサトは付近の住人が何事かと顔を出さないか心配になった。


「おおよ」


 男に促されてハイネマンとアガーテが扉の外に出た。それをマサトが追いかける。


「あのー、この二人をどこへ連れて行くんですか?」


 勇気を振り絞って男に声をかけたところ、ギラギラした目で睨まれて足がすくんだ。


「お前は誰だ?」


 男の問いにハイネマンが代理で答えた。


「かく……なんとかマサトって言う、俺らの創造主(クレアトール)だ」


「ほう。こいつがか」


 男は、マサトの頭から足下までじっくり眺めた後、


「来るか、一緒に?」


 この提案に、つばをゴクリと飲み込んだマサトは、ゆっくりと頷いた。

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