10.
自分が描いたキャラクターの後ろを歩く不思議。現実の世界で起こっているとは到底考えにくいが、実際に起きているのだからこれは認めざるを得ない。
男の後に従うマサトたちが建物の外に出て歩道に立つと、幸い人通りがなかった。マンションの通路や階段でも人とすれ違わなかったので、ここまではホッとしたマサトだが、この先をみなでゾロゾロと歩いて行くことを思うと、気が気ではない。
「あのー、どこへ――」
男の後頭部に向かって行き先を問うた途端、男の周囲に空間の歪みが波紋のように現れ、空中に吸い込まれるように姿が消えていく。ハイネマンもアガーテも、それに驚いた様子はなく、ズンズンと歩いて行って、やはり波紋が現れて姿が消えていった。まるで、そこに水の壁でもあって、ザブンと入っていくかのようだ。
さすがのマサトも、これには躊躇した。自分がこの世界から消えてしまうという恐怖が彼の足を釘付けにする。
行くか行くまいか迷っていると、空中に男の顔が波紋とともに現れた。
「来ないなら置いていくぞ」
生首が浮いているようで不気味極まりないが、勇気を出して尋ねてみる。
「そこは異世界の門ですか? それとも結界か何か?」
「空間転移だ。一足飛びにN公園まで行く」
冗談じゃない。N公園は、ここから100キロメートル以上先にある隣の県の桜の名所だ。
「行ったら、ここへ帰って来れるんですか?」
「ああ。送り届けてやる」
そう言って男の顔が消えた。好奇心に突き動かされたマサトは歩みだし、男が消えた辺りでドキドキしながら足を踏み入れた。
それから1歩進んだマサトは、周囲の景色が一瞬にして変わったので、仰天して立ち止まる。辺りを見渡すと、見覚えのある公園――N公園だった。
空間転移に感動していると、すでに男たち三人との距離が開いていたので、急いで後を追いかける。
しばらく歩いていると、他にも同じ方向を歩いている人影が見えてきた。みな、二人あるいは三人の組になって歩いている。よく見ると、普段着を着た一人とアニメのコスプレイヤーが一人ないし二人の組み合わせだ。その様子から、自分と同じようにイラストのキャラクターが現実世界に現れて作者と一緒に歩いている気がしてきた。
と、その時、見覚えのある後ろ姿があった。
「えっ? ミユキ?」
そう。今日コンサートで一緒だったミユキが、同じ服を着て前を歩いているのだ。左隣に鞘を背負った男が歩いているが、なんとなく見覚えがある。
「おーい、ミユキ!」
思い切って声をかけて見ると、二人が同時に振り返った。それは公園の照明に映し出されたミユキと勇者シュヴァルツだった。
「え? えええっ!? ミユキって……まさか、T-M!?」
すると、ミユキの表情が困惑色に染まり、周囲をキョロキョロする。T-Mの名前に反応したのか、その前を歩いていた数組が振り返った。
「マサト? 何でそこにいるの?」
「いや、その……あの……」
「まさか、そこの三人って、マサトのイラストのキャラクター?」
「勇者と魔法少女は、そう。執事は違うけど」
「嘘!? マサトって絵師!?」
「そう言うミユキも……いや、ごめん、名前をバラしちゃって……ミユキも絵師?」
「……一応」
クラシック音楽のオタクかと思っていたら、こんな趣味まであったのかと、マサトは驚きを隠せない。ショルダーバッグにぶら下がっていた人形や缶バッジがその趣味の一端を表していたのなら今更ながら納得がいく。
普段着姿の人たちが数人、ミユキの方へ集まってきた。
「T-Mさんですか?」
「初めまして、私は――」
ミユキ――T-Mを中心とした絵師同士の自己紹介が始まった。でも、マサトには誰も寄ってこない。人気の差を思い知らされた瞬間だった。
この後、電脳世界の崩壊とそれを救済するキャラクターの奮闘を予定していますが、他の作品の更新を優先させますので、別の時期に掲載します。




