6.
20秒後に自作の――と言ってもアニマトリンがかなり手を加えたのだが――勇者ハイネマンの3次元像が現れた。先ほどのシュヴァルツと背丈は変わらないし、装備の大きさもあまり変わらないが、表示が速いということはデータ量の違いだ。言い換えれば、衣服や装備等を細部まで描いているかが影響する。
「うーん。格好いいんだけど、あれを見ちゃうと雑に見えてくる」
シュヴァルツがランキング上位という先入観を捨てても、比較すると目の前の勇者が見劣りしてきた。
マサトはハイネマンの周りをグルグル回りながら考えたが、顔の表情は良くても、装備の質感が安っぽい印象を与えることに気づいた。金をケチって安物の肩当てや胸当てを着けているイケメン勇者では、上位に食い込めない。
「アニマトリン。装備を格好良く出来ないかな?」
「ご主人様。格好良くって、装備のどこをどう変えるのでしょうか?」
いくらAI相手でも曖昧な指示だったと反省したマサトは、具体的に言おうとした途端、答えに詰まった。
喉まで出かかっているのに言葉にならないもどかしさ。あの肩当てをこうしたい、というのが言葉にならない。簡単なのは「あの勇者シュヴァルツみたいに」だが、それでは人気作を真似しているのと何も変わらないのだ。
「なんか、こう……。うーん、なんて言うか……。ええい! コピーして手直しする!」
言葉にならないのなら、手を動かすしかない。マサトは急いで机に向かい、データをコピーして作業画面を表示させ、スタイラスペンを手にした。
「この辺りをこうして……」
大剣を振り下ろされてもビクともしないような硬質な物にしたい。重量感も出したい。でも、どうやって……。
マサトは良いアイデアが浮かばず、ペンのお尻で頭を掻いていると、背後の空気が乱れるのを感じた。何かが動いた気配だ。
動くイコール誰かいる!
急に、背筋がゾクッとした彼は、咄嗟に振り向けず、油の切れたロボットのようにジリジリと顔を後ろへ向けた。
すると、間近に勇者ハイネマンの顔があり、翡翠色の目が睨んでいる。彼が口を開いたので、マサトは息を飲んだ。
「おい、なんで俺の絵を描いているんだ?」
若々しい青年の声だ。蛇に睨まれた蛙のように身動きできないマサトが答えられないでいると、ハイネマンが眉をひそめた。
「答えろ」
少し怒気を含む声に肝が冷えたマサトは、つばをゴクリと飲み込んで声を絞り出すように答える。
「ぼ、僕の描いた作品ですから……」
「作品? 何だ、作品って?」
「いえ、何というか……この絵を描いたのは僕で、そのデータをホログラフィーで表示したら、君が動き出して――」
「意味わかんねえこと言うな!」
ハイネマンの一喝に、マサトは頭を抱えて首を引っ込め、目を閉じた。ハイネマンが呆れたようにため息を吐く。
「お前、俺の絵を描いたら、俺が出てきたと言うのか?」
「は、はい……」
少しは理解してもらえそうなので、マサトは薄目を開けた。
「本当か?」
「本当です」
「嘘は言っていないな?」
「言っていません!」
すると、ハイネマンが目を見開いた。
「おい。まさか、お前、創造主か?」




