↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
岩戸竜馬は返らない。  作者: てんたくろー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/29

9/理由ならある。あの男は、あまりにも怪物すぎるから

 私達は西校カルテット。高校入学以来、いくつもの騒動に首を突っ込んではそれを解決してきた、いわば西クォーツ高校の英雄四天王よ。

 頼れるリーダー如月裕也。華麗でクールな美山一葉。コメディチックだけど熱血漢の中村拓真と私、高橋千里。


 この四人が力を合わせれば、どんな難問だってクリアできた。校内の窃盗犯や不良達の打倒、はたまた生徒会選挙の応援や文化祭の助っ人だって。

 なんなら地域一帯を震撼させていた連続殺人鬼だって追い詰めたほどだ。あーでも、さすがに直接捕まえたのはお巡りさんだったらしいけど。

 ともかく、私達は今や学校ばかりか地域にも名の知れたヒーロでありヒロインなのよ。


「岩戸くん……」

「一葉……」

「会椿……! くっ、岩戸めっ」

「────何よ、これ」


 そんな私達が、今、バラバラになろうとしている。紡いだ絆、培った友情がリアルタイムで崩壊し、空中分解しかけているの。

 信じたくない現実。しかもそれをもたらした元凶が、よりにもよって"あの"岩戸竜馬だなんて。


 元々、私だけは岩戸と会椿さんとは同じ中学だった。だからこそアイツが中学2年の時に何をしでかしたか知っていて、それとなくみんなには気をつけるよう、避けるよう言っていたのに。

 気付けば早々に一葉はアイツのことをずっと見るようになっていて、そんな一葉を好きな裕也が、切なげな目ばかり彼女に向けるようになってしまった。


「なんで? なんでこうなるの? どうしてあんなのに、どうして」


 なんで? どうして? ……そればかりが頭のなかに渦巻く。理解できない、なんで一葉がアイツのことを好きになるの? 一葉は、裕也と付き合えばいいじゃない。

 私だってそしたら吹っ切れて、新しい何か大切なものに巡り会おうって気にもなれるのに、こんなんじゃ。


 さっきの授業前、一葉の気持ちはたしかに聞いた。岩戸が去年、乱暴されかけたあの子を助けたのは本当のことだよ、それは認める。

 でもだからってなんで好きになるの? どれだけチョロいのよ、ちょっと助けられたくらいで大袈裟すぎなんだよ、一葉は。少なくとも裕也の好意を振り切るほどの人間じゃ絶対にないよ、あの岩戸は。


 だって、今も鮮明に思い出す。

 中学の時、アイツが校庭で何を引き起こしたのか。血溜まりの池、倒れ伏す黒い服達、拳銃、刀、血、肉、血、肉。

 それなのにアイツは、少年院どころか留置所にも行くことなくすぐにクラスに戻ってきた。何食わぬ顔で、会椿さんに甲斐甲斐しく世話を焼かれながら、ラーメンの話ばかりして。


「竜馬ってば今日はおにぎりなんだ? しかも梅干し」

「ん、晩はてぇてぇ亭だしな。てかなんだ梅干しでなんか悪いかよ、ウメェだろ梅干しおむすび」

「いつもツナマヨしか勝たんみたいな勢いでおにぎり買うならツナマヨじゃん。どういう風の吹き回し?」

「いやあ……山陰だか山陽だかの連中に梅にぎりはええぞとかなんとか昨日、やたら推されちまってな。聞いてたら食いたくなっちまったんだよ。なんでも紀州南高梅が特におすすめらしいがよう分からんし、とりあえずスーパーの安いやつで良いかなって」

「ふうん? ……なんか知らないけどバイト関係、友達が増えてるんだねえ」

「別に。たまたま現場で出くわしたってだけだしな」


 そう、まさに今もやっているように。ラーメンじゃなくおにぎりの話だけれど、あの時もアイツはあんなふうに会椿と、何もかもなかったみたいに話をしていたんだ。


 狂ってる。岩戸も会椿さんも。とてもじゃないけど人間には見えない。

 アイツが野放しなのが私には信じられない。あとから聞いた話だと一応アイツはあくまで巻き込まれて、会椿さんを助けるなかでああいうことをしでかしたってことらしいけど……だからなんなのって話でしかない。


 アイツはイカれてる。あんなにたくさんの人を、大人を、それも相当ヤバい連中を一人でまとめて半殺しより酷い目に遭わせて。

 自分も大怪我してたのに。校庭とともに、私やあの時あの光景を見たみんなの中学生活をぐちゃぐちゃにしておいてなんの罪悪感も抱いてないなんて。


「一葉……気づいて、裕也も……! 岩戸はヤバいよ、本当にまずいんだよ。関わっちゃいけないやつなんだよ、そもそも学生なんてしてる資格のないやつなんだよ……!?」


 糾弾したい。今すぐ声をあげて、中学の頃のあの事件を高らかに叫んで岩戸の危険性を白日の下に晒したい。

 でもできない。それをしたら、もしかしたら私があの校庭の血溜まりにされるかもしれない。八つ裂きにされて、生きてることを後悔するような目に遭わされるかも、しれない。

 怖い。怖いよ。あまりにも怖い……!


 正直に言えば、一葉には嫉妬してる。裕也が好きな私からすれば、彼の視線の先にいる彼女を羨むくらい普通だと思う。

 なんならほかの男とくっついてしまえとさえ思ったよ。でも、でも岩戸だけは駄目だよ。一葉のことを嫌いだったり憎かったりしてるわけじゃないんだ、ちゃんと友達として好きなんだよ。


「だからさ、一葉。頼むから目を覚ましてよ、アイツだけは洒落にならないんだよう……」


 声にならない声で祈り願う。臆病な私にはこうするしかできない。

 どうか私の大切な友人達が、あの人外の化物なんかをこれ以上気にすることがありませんように、と。

 私は、そうするしかできないの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。