10/塗り潰されたその青春の色は、何
最近また、西クォーツ高校内が騒がしくなってきた。今度は学内での暴力事件が頻発しているらしく、一年生が何人か後ろから殴られているという。
怪我の具合はそこまで深いものじゃないけど、おそらく同一犯による犯行だと私達西校カルテットは見ている。去年、暴れていた不良達みたいな連中は一年にも何人かいるのは有名な話だ。
「よし。俺達西校カルテットで今回の件も解決するぞ」
「へへっ! しばらく暇だったからなんだか腕が鳴るぜ!」
「仕方ないわね……! ま、私らにかかればすぐに解決でしょ!」
春頃に起きた、生徒会選挙不正疑惑の告発事件を解決してから一ヶ月は間が空いていた今。まさにしばしの平穏が破られたことに、私たち西校カルテットは怒りと裏腹の胸の高鳴りを覚えているのは事実だ。
如月くん、千里、中村、そして私、美山一葉。この四人がまたしても事件に挑み、そして解決に導いてみせる。
その思いで意気込む教室の放課後。ホームルームも終わったばかりでまだ、いくらかクラスメイトも残っている。
……岩戸くんもその一人だ。会椿さんと帰る支度をしながら、猛るこっちを見ていつもの調子で話し合っているのが聞こえた。
「アイツら、またなんぞ首突っ込むつもりか? 青春ってそこまでトラブル求めんといかんのかね」
「そういう言い方よくないよ竜馬。カルテットは去年からずーっと学校とか地域のためにいろいろしてくれてるって話じゃない」
「批判はしとらん疑問に思っただけだっての。ま、一年同士の小競り合いってんなら大事にもならんだろうしすぐ収まんだろうしなんでもいいやな。おし行くぞリリィ、てぇてぇ亭でチャーシューメンだ」
「はぁい。もう、結局ずーっとラーメンのことばっかし!」
相変わらずの冷めた、というか平然とした視線と言葉。彼から見ると、たぶん私達のこういう活動はいかにも馬鹿馬鹿しい、取るに足らない子供の遊びなのだろう。
青春に取り憑かれて功績を求める幼稚な学生の集まり。岩戸くんが本当に危険な世界で戦っているのを知っている私には、彼が言外にそんなニュアンスを込めているような気がしてならなかった。
「岩戸の野郎め、なんだよ。俺達の正義に水差しやがって、しかも会椿連れてラーメン屋って」
「あんなのほっておきなよ、関わるだけ損だよ。絶対に」
「千里の言うとおりさ、拓真。彼じゃ、俺達の背負うものはきっと理解できない」
「裕也……そうだな! 俺達はアイツなんかとは違う、本当のことのために戦うんだ!」
私以外の仲間達が、岩戸くんに反発するような言葉ばかり吐いて三人で盛り上がっている。
私は……その輪に入れなかった。入る気も起きなかった。たぶん、岩戸くん寄りの意見になっているからだって自覚はあった。
カルテットとして去年からずっと、世のため人のために動いてきた。それは間違いなく私にとっても誇りだ。だけど、今の如月くんや千里や中村みたいに大層なことを言うのも違う気がしている。
背負うものとか、本当のことのためとか。そんなの、私達は気にしながら動いてたかな。本当に?
少なくとも様々な事件において、途中からはそんなことになってた気はする。でもどれもこれも発端は気まぐれとか、たまたまとか、あるいは頼まれてみたいな受動的なもので能動的な理由付けなんてどこにもなかったはずだ。
それが今じゃ、何? まるでヒーローやヒロインぶって使命感に燃える、四人の地元の英雄だなんて持ち上げられて。しかもそれで良い気になって。
岩戸くんがさっきみたいなことを言うのも当然だ。これじゃ、人の不幸や事件を踏み台にしてるのと変わらない。
彼を知る前の私なら、きっと何も考えずに三人と一緒に気炎を吐いていた。真に裏社会で戦い続ける人の存在を知らなければ、私はずっと幸福な無知のままでいてしまっていたかもしれない。だけど。もう。
「……私、は」
「一葉! さあ行こう、俺達の助けを待ってる人がいる」
「そうだぜ一葉、どうしたんだよらしくねえ。いつもどおり正義に向かって頑張っていこうぜ」
「一葉……アレの言葉は、もう聞かないで……」
かけがえのない仲間。そのはずの人達に促されて教室を出る。正しいことをしているはずなのに、どうしても拭えない何かがある。
ボタンを、いつの間にか掛け違えているような……そんな感覚ばかりが、私の胸に滲んで染みて。
「ほら、竜馬! 行こ行こ、今日は奢ってくれるんでしょ?」
「へへ、任せろい。こー見えてそれなりに稼ぎはあんだ、ていうかなけりゃやってらんねえよあんなこと」
「いよっお大尽! じゃあてぇてぇ亭の次は純喫茶"のんある"でパフェとジュースね! ごちになりやす!」
「おお任せ、おお? お前ラーメンにパフェまで行く気か、太るぞ?」
「乙女は太らない!!」
「アッハイ。承知しました、はい」
そして、その横を、会椿さんに手を引かれた岩戸くんが通り過ぎていって。
私は、咄嗟に思ってしまったのだった。
────こんなの、私の青春じゃ、ない。




