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岩戸竜馬は返らない。  作者: てんたくろー


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11/29

11/理由をつけて、あなたの下へ

「ふうん? 西クォーツ高校にて三等級相当のケガレゴトが発生と」

「さようにございます、お嬢様」


 新たに側付きの従者に任命した、寺内がそう言って報告書を提出してくる。時代にそぐわない紙ベース、いい加減に関東もデジタル化に邁進すれば良いものを。

 さておき見ればこの近辺、西クォーツ高校内の一年生達の間で何やら起きているらしい。ケガレゴト──土地に溜まった負の想念が人心を掻き乱す逢魔事象の一つだろう。


 大した話ではない。規模によって等級分けされているなかでも、三等級は下から二つ目の小規模事変。

 本来ならばこの私、竜宮院みつきの下に話が行く前に誰かしら、どこかしらの組織の者によって塩梅よく祓われるのが常だ。それが今回手元に来たということは。

 私は寺内に視線をやり、短く問うた。


「特殊等級該当事案──理由は彼ね、岩戸竜馬。よりにもよって彼が通っている学校で起きているケガレゴトゆえに、どの組織も手出しするのを躊躇っていると」

「ご慧眼です、お嬢様。我ら関東退魔会はじめ山陰陽道、西海道連盟、近畿呪術局など……国内の名だたる組織すべてが彼の御仁の虎の尾を踏むことを恐れております」

「まあ、でしょうね。まかり間違って彼の怒りを買ったら、組織として当たり負けはせずとも確実に損害は受けるもの」


 通常にない特殊条件を満たしている場合にのみ振り分けられる、特殊等級。それが付いた案件は本来の等級に依らず難易度が跳ね上がるため、個人、組織人問わず私達の界隈で手出ししたがる者は少ない。

 今回の場合など特に、国内の関連組織ならば絶妙に迷うだろう。岩戸竜馬という紛れもなく最強の個人の膝下にて動くことになってしまうのだから。


 無論、彼も結局人間なのだから組織力を相手取るのは分が悪い。けれどそんなことになってしまえば、相対した組織のほうはあまりにも割に合わない損害を被る羽目になるだろう。

 台頭してわずか一年程度で複数の特殊極星等級の事案を単独解決した力量。それに伴い壊滅させた裏組織の数も片方の指では利かない。


 そんなのを、さしたる理由もないのにわざわざ相手になどする組織はそうなる前にて自壊している。そもそも、そうした組織からすれば敵対するより味方に引き入れたいのが普通だ。あの強さは、喉から手が出るほどにほしい。

 つまり西クォーツ高校の案件に手を出すならば、岩戸竜馬のテリトリーを踏み荒らす挙句、彼を自陣営に引き込む目を潰すということになりかねないのだ。

 どこの馬鹿がやるものかしらね。


「……だから、曲がりなりにも彼と知り合いの私が適任だと。関東の御老体方はそうおっしゃっているわけなのね」

「そうでございます。もっと言うならばおそらく、竜宮院家の旦那様も彼を知りたがっておられますゆえ」

「私が意図的に彼の情報を隠していると疑ってるのよねえ、お父様もお爺様も。残念ながらそんなことまったくなくて、シンプルにそこまで距離を縮められてないってだけなのに」

「お嬢様の美貌と家格を前に、まるで素気ないというのは私にも信じがたい話です」


 紳士的立ち居振る舞いの寺内は老人ゆえ、今一内心の読めない仕草と表情で褒めてくるけどまさにそこが悩みの種だった。

 私とて、岩戸竜馬とはそんなに親しいわけじゃない。彼を追う形で何度となく現場をともにしているけど、アレはまったく協力的ではなく独力で何もかもなんとでもしてしまうのだ。


 自分で言うのもなんだけれど、あの幼馴染のお嬢さんにも負けないくらいには魅力的だと思うのだけどね。彼ってば存外そのへんは無欲と言うか唐変木みたいで、そもそも恋愛ごととかには疎いのかも。

 でも、彼の話を聞いた竜宮院の父や祖父はしきりに彼との交流を気にしている。個人としては関東はおろか日本、あるいは世界でも最強クラスかもしれない逸材の血を、取り込める機会となれば必死にもなるのでしょう。


「多少とて彼と交流があるお嬢様ならば、彼のテリトリーで動いたとて不必要な敵対につながる可能性は低い。もっと言えば事前に交渉し、共同作戦といくことも期待できますな」

「望み薄なの分かって言ってるでしょう……けれど、アポなしで乗り込むのは論外だものね。せめて調査の許可だけでも得られれば、それをきっかけに彼のテリトリーに少しでも入り込めるかもしれない」

「件の高校の者達には悪いですが、あるいは我らにとっては好機ですなあ」

「思っても言うものではないわよ、寺内」


 腹黒さを隠しもしない寺内を嗜める。前の眞田は愚かなうえにそれを隠そうとして隠せていなかったけれど、この老爺は老爺で聡明ではあるものの性格の悪さを隠しもしない悪辣さがある。

 そうでもなければ竜宮院の付き人など、永年務めてこられなかったのでしょうから敬意は払うけれどもね。正直、言っていいことと悪いことの区別がつかないのはよろしくないわね。


 嘆息しつつスマホを手に取る。一応、過去に仕事した好ということで半ば強引に連絡先は交換している。

 善は急げというけれど、ひとまず交渉くらいはしてみましょうか。

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