6/平気な顔をしてばかりの、あなただから
竜馬のことを愛している。たぶん、生まれた時からずっと。
私、会椿リリィは少し特別な生まれだ。資産家だとか政治家だとかの血筋じゃなく、とてもオカルトな、スピリチュアルな意味での忌むべき特別。
科学全盛のこの世界に、そんなことを言い出すなんて頭がどうかしてると思われるかもしれないけど事実だ。社会の影、闇の奥底はむしろ光が色濃くなればなるほど深淵色を濃くしていく。
こんな世の中だからこそ。オカルトやスピリチュアルが裏社会では当たり前のこととして跳梁跋扈していた。
「……まあ、言っても私はそんなに詳しくないんだけどね。裏社会についてなんて」
「なんか言ったかぁ?」
「なーんでも! ねぇ竜馬ぁ、今日のおゆはん何にするー?」
「ラーメン」
「またそれ!? 駄目だよ栄養偏っちゃうから、今日はほうれん草のおひたしとお味噌汁と鯖の塩焼きね!」
「じゃあ最初から聞くなよな……」
「なんか言ったぁ!?」
「なんも言ってませぇん!!」
学校帰り、近所のスーパーマーケットを二人で見て回る。制服姿だからきっとカップルくらいにしか見られてないけど、私服だったら間違いなく鴛鴦夫婦だろうね。いえい。
当たり前のように二人で夕食を食べる流れになっているけど、これは本当に私達の日常になっていることだった。もう、半分どころかほぼ家族みたいなものなんだ、私と竜馬は。
私の家と竜馬の家は、隣り合っている。そして私の家は両親が共働きで帰ってくるのが夜遅くだし、竜馬の家族はそもそもいない。まだ子供の頃、亡くなって今の竜馬は祖父母の預かりとして一人暮らししている。
そして竜馬は大のラーメン好きで、放っておくとラーメンしか食べない極端すぎる食生活をすぐに送り始めると来た……これはもう、会椿リリィさんが一肌も二肌も脱ぐしかないってわけでした。
「まったく、家事も勉強もなんでもやれば人並み以上にやれるのに、なんで一人だとそんなに適当なんだろーねえ。竜馬ってば、リリィさんがいないとホントアレなんだから!」
「はいはい分かった分かった、良いから帰るぞ。カラスがかあかあ鳴いてんだ」
「気取ろうとして微妙になってるその言い回し、そろそろ直したらー? クラスでもあんまりウケてないよ?」
「こりゃ本業のほうのノリだよ、気にすんな。ハナから学校なんぞ取り繕いにしか思っとらん」
「まーた、そーゆーこと言う」
そっけなく学校を語る竜馬に、つい唇を尖らせる。彼は中学頃からずっとこんな調子で、学生生活に少しも価値を見出していない節が見られるのだ。
たぶん、裏の仕事を優先しているからだろう……"本業"がそれを指しているのなら、竜馬にとって学校なんてさしづめ"副業"なんだろうなってのは分かる。
そう、本業。私の特別性、この魂に宿る権能とも無関係ではいられない、裏社会の当たり前。それが、竜馬にとっての日常なんだ。
学生生活こそが非日常なんだと思う。だからいつも所在なさげにしているし、いたたまれなくて居眠りしたり、やる気なく過ごしているんだ。
私も詳しくは知らない。ただ、オカルトとスピリチュアルに満ちた深淵の世界だということだけは知っている。
数年前に一度だけ、深みに引きずり込まれかけたことがあるからだ……そんな私を助け出すためだけに、竜馬は超えるべきじゃなかった一線を越えて、私を助け出すのと引き換えに、日常と非日常が完全にひっくり返ってしまった。
『よう、リリィ……迎えに来たぜ、お姫さん』
『竜馬……!? どうして来たの、なんで!!』
『バカヤローおかしなこと言うな。お前がいないとラーメン食ったって後味悪いんだよ。いいから帰るぜ、お前は光に置いていく』
血塗れ、傷だらけの身体で──それでも圧倒的な力ですべてを薙ぎ倒して深淵の奥底、囚えられた私のところまで来てくれた。あの姿を一生忘れない。
そして、私を光に置いていくと言って自らは闇に残っていった、あの背中さえも。
思うに。きっと。間違いなく。
私を守るために、私を救うために。この人は何でもないような顔をして自分のすべてを捧げたんだ。そしてその代償に底知れない闇の奥底に沈みきって、溺れるように夢見るように生きている。
「…………だったら。今度は私が支えるんだよ、竜馬」
「なあやっぱカップラーメンくらいは食わせてくれよ、汁まで飲まねえとやる気出ねえんだ今日」
「ダメ~。諦めて健康な食生活を堪能しなさいって」
「っち、ああはいはいどうもどうも。ったく、まあ美味いから良いけどよ」
「ふふーん」
買い物を終えてスーパーを出る、夕暮れに染まる真っ赤な町を二人、肩を並べて歩く。
憎まれ口を叩きながら、でも私に向ける眼差しが優しい竜馬。この人とこれからもずっと、こうして生きていたいなって私はつくづく思う。
だから負けないよ。最近、竜馬はやたらモテ始めてる気がするけどやっぱり一番近いのは私だから。
カルテットの美山さんや保険の御手洗先生も、よく知らないけど関東? とかのあの女の人にだって、私は負けない。
そんな決意で、もう少しだけ彼に近づいて。
せめて陰だけは寄り添わせながら、私は彼とここにいた。




