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岩戸竜馬は返らない。  作者: てんたくろー


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3/29

3/激しい想いが、私に渦巻く

 私含めた西校カルテットと、岩戸くんと会椿くんは同じクラスだ。だから言えることなんだけれど、基本的に岩戸くんの授業中の態度は良くない。

 別段、うるさくしたりしているわけじゃなく、ただ寝ているのだ。ずっと、ひたすらに。


「岩戸。岩戸! 岩戸ぉー!」

「ん、んん。ぁい、なんでございましょうこちら岩戸なんでも屋」

「馬鹿、ここは教室だ! 目ぇ覚まして読め、教科書69ページの三行目から!」

「ぁぃぁい。えーっと春はあけぼの、横綱どっこい」

「四股を踏んだら桜が散った。じゃあないんだよ馬鹿!」


 古典の先生に叱られても、まるで悪びれずに頭を掻く岩戸くん。彼はどんな授業でもこんな感じに眠りこけては起こされて、とぼけておどけて、そして叱られている。

 まるで道化じみたテンポと仕草。クラスのなかでも彼の、そうしたコントか漫才みたいなやり取りに対しては評価が分かれている。


「まーた岩戸だよ。懲りねえな、あいつ」

「すげえよなあ、どんな時でもあの調子ときた。ある意味尊敬するわ」

「っつーか先公相手にあんだけおちょくれるの、割とリスペクトだわー」

「それな。先生もなんかあいつには気さくだし」



「はぁ、だる……また岩戸くん」

「ああやって人の目を惹こうとしてんのかね。ほら、あいつ陰キャっぽいだろ」

「ありえそー。てかうっざ、あーゆーのってそれこそ陽キャがやるから笑えるっつーのに。陰キャがやってもシラケるだけだし」

「シンプルキモいんよね。会椿もかわいそーだよ、幼馴染なばっかりに岩戸係でさ」


 その振る舞いを自由とし、ある種の憧れを抱く人達がいる。

 その振る舞いを身勝手とし、嫌悪と侮蔑を抱く人達もいる。

 そしてそのいずれをも気にせず振る舞う、岩戸くんと会椿さんがいる。


「あはは、竜馬はいつでも竜馬だねえ」

「んん、まあしゃーない。眠たかったら人間寝るもんだ。三大欲求って昔から言うだろ、ほら睡眠欲に食欲に性欲に」

「その理屈で言ったら竜馬は食べたい時に食べて、ヤりたい時にヤるわけだけど……そこんとこどうなの?」

「ああなしなし、食うには食うけどヤるにはヤらん。こちとら生まれついての童貞様よ」

「みんな生まれつきそうだと思うけど……」

「岩戸ぉ! 会椿も喋るな! 授業中だぞ!!」

「あいあいさー!」


 何もかもをまるで構わず、やりとりする二人はなんとも運命的なことに隣り合ってる席同士だ。羨ましい。

 私も、彼の近くの席だったらあんなふうに話に混ざれるだろうか。いや、きっと無理だろう。


 あれは、会椿リリィという人だからこその距離感だ。たぶん、恋人ではないだろうけど幼馴染としての特殊な立ち位置。

 前に、二人並んで歩くのをすぐ近くでしばらく見ていたことがある。去年の夏休み、たまたま彼の家の近くをうろついていた時のことだ。


『ねーねー竜馬ぁ。私達なんか、恋人みたいに見られてるみたいだよー』

『は? はあ、どこの誰にいつ』

『家の近所の井戸端会議隊についさっきー。んふふー、嬉しい?』

『妹みたいなのとくっつけと急かされてもなあ』

『んーだとー』


 仲睦まじく歩く姿は、私でなくとも恋人と誤認するだろう。井戸端会議隊なる、おそらくはご近所の主婦様方が囃し立てるのも無理からぬことかもしれない。

 けれど。けれど、けれど。けれど!

 岩戸くんはたしかに言ったのだ、妹みたいなのと。ただの、妹、みたいなもの、と。


 つまりそういうことなのだ。会椿さんのほうはたぶん、いえ確実に岩戸くんのことを好きなんだろうけど、肝心の岩戸くんのほうは彼女を妹のような幼馴染としてしか見ていないのだ。

 ────なら、私にも、まだ。


「……よ、お疲れ一葉。また岩戸のやつ、先生に叱られてたな」

「あ、お疲れ如月くん。そうだね、ふふ。岩戸くんらしいといえばらしいよね」

「毎回寝てるよね、アイツ。きっと夜遊びばっかしてるのよ」

「違いねえ。会椿も連れ回してたりしてんのかな、心配だな……」


 いつの間にか授業が終わっていたみたい。気づけばいつものさわやかさで如月くんが寄ってきて、次いで千里と中村が集まってきた。西校カルテットは、大体こんな感じで引っ付いている。

 もちろん素晴らしい友人達で、この三人と知り合いともに肩を並べて悪と立ち向かう青春を過ごせていることは生涯の誇りだ……でも、何かにつけて岩戸くんを悪く言う千里と中村はいただけないかな。

 中村のほうはたぶん、会椿さんのことを好きなんだと思うけど。


「あー、眠。昨日もまあダルいバイトでもうてんやわんやでな。なんであんなとこにカタギのねーちゃんがうろついてたんだか。いや迷子のペットを探しに来たとか言ってたけど」

「そうなんだ? でも、助けたんでしょ?」

「ペットもつけてしっかり家まで届けたよ。おかげで東の助っ人さんとの合流に遅れて大目玉よ。やっぱ急造チームなんて組むもんじゃねえな、俺ぁ一人が性に合ってる」


 岩戸くんと会椿さんは相変わらず寄り添いあって、気の負えないやりとりをしている。バイトをしていたみたいだけど、カタギとか東の助っ人ってどういうことなのか。

 でも、どうも岩戸くんのテリトリーはかなりアウトロー寄りの世界らしいから……私達の物差しでは測れないのかもしれない。


 そこも、ミステリアスで素敵なんだけれどね。

 友人達が話し込むなか、私は彼の横顔をただ、見ていた。

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