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岩戸竜馬は返らない。  作者: てんたくろー


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28/29

28/やっと、私達は正しく躓ける

 私……美山一葉が辿り着いた時には、もう、すべてが終わっていたみたいだった。正門の前、竜宮院さんと如月くん、中村、それに千里が黙りこくって立っている。

 そして、校庭のほうからゆっくりと歩いてくる、西クォーツ高校の制服を着た人を片手に抱える、影形をしたナニカも。


「み、みんな……! 大丈夫!?」

「っ、一葉! どうしてここに?」

「い、岩戸くんからメッセージが。カルテットが危ないから迎えに来てって、それでその、岩戸くんは?」

「岩戸……岩戸は、あの、アレだ」

「……え」


 駆けつけて声をかける。ここに来たのはたまたまでない、岩戸くんにメッセージをもらったからだ。"カルテットが危ないから迎えに来てやれ。竜宮院さんと一緒にいる"って。

 たとえ今は仲違いしていても、それでも三人は大切な友人だ。迎えに行くのに、助けに行くのに迷うわけはなかった。


 幸い、みんなは怪我もないようだ。竜宮院さんがきっと護ってくれたんだろう。それに、岩戸くんも。

 それで、その岩戸くんがどこかを問えば……四人揃って校庭を歩く影の塊、人型の影を見た。


 私も、釣られてソレを見る。影が緩んで、解けるように消えていく。やがてそこから覗けてくる、その人は見知った人、私のクラスメイト。

 そして気になる少年、岩戸竜馬だった。


「……岩戸、くん?」

「なんだよ、アレ……怪異人間? クラスメイトが、あんな……」

「化物……」

「二人とも、やめろ。俺達は助けられたんだ、それは絶対に否定しちゃいけない」


 唖然とする私をよそに、中村と千里はあからさまに恐怖に引きつって小さくつぶやいている。そしてそれを強く制する、如月くんの言葉も合わせて印象的なものだ。

 私も、理解ができなかった。さっきの影は、何? まるで世界中の影をひとまとめにしたような塊は間違いなく人型だったけど、なんでそのなかから岩戸くんが。


「お疲れ様です、岩戸くん。やはり圧倒的ですわね、その力……今のケガレ、関東退魔会のなかではそれなりの腕利きを数人揃えて対処するくらいには凶悪だったわよ」

「おう、ああそう。まあ倒せりゃ遅かれ早かれ一緒だろ。それよかこれ、ケガレに憑かれとったから後のことは任す。こいつも光に返したってくれ」

「もちろん。またあなたには助けられましたね。呪術師としても人間としても、深い敬意と感謝を捧げたいわ」

「いらんいらん、強いていうなら今度てぇてぇ亭の逸品奢ってくれや」

「てぇてぇ……何?」

「ラーメン屋。ガキの頃からお気になんだよ」


 完全に元通りの姿になった岩戸くんが、あまりにも当たり前のように、何事もなかったように担いだ学生を竜宮院さんに渡しながら雑談している。

 てぇてぇ亭が彼のお気に入り、いや違うそんなこと心に刻んでる場合じゃない。まるでわけがわからない、岩戸くんの今の姿は、いったい?


「き、如月くん。あ、あの岩戸くんは」

「……怪異人間、とかって言うらしい。竜宮院さんはそう言っていた。会椿さんを救うために、ああ成り果てた姿だと」

「か、会椿さんを……?」

「ああやって、彼は今までいろんな人を救ってきたらしい。さっきみたいな化物、ケガレっていうのか? そういうのを相手に。たぶん、去年の一葉とかもそうだし、今しがたの俺達だってそうだろう」


 静かに語る如月くんの、様子が今日の日中とはまるで違っているのが私にも分かった。どことなく漂っていた嫌な感じが、雲散霧消している。

 中村や千里もそうだった。岩戸くんに悪態を吐き怯えているけど、そこにはつい最近頻繁に感じていた良くない感じがなくなっていた──私がよく知る、三人に戻っている。

 けれど知らない、表情をも浮かべている。


 たぶん、それは挫折。

 慢心して傲慢になっていた天狗鼻を、根本からへし折られた人の顔つきになっていたんだ。


「俺達は……何を、思い上がっていたんだ? なんで、あんなに舐めたことを考えていたんだ」

「西校カルテットって、は、はは……馬鹿みてぇだ。みんなに煽てられて、のぼせ上がって危ないことに首突っ込んで」

「あ、挙句の果てに岩戸に助けられて……!! どうかしてた。こんなの、私達じゃなかった。一葉は正しかった、私達は、おかしくなってた……!!」

「み、みんな……」


 そして口々につぶやく、これまでの日々の反省。少しだけ早く私が気づいた現状の危うさ、愚かさに三人も気づいたんだ。

 岩戸くんのことは、驚きだけど、でも納得もいく。あまり詳しくは知らないけど、つまり会椿さんを助けるために得た力で、彼は私や御手洗先生、竜宮院さんやこの三人のようにたくさんの人をこれまでにも助けてきたんだ。


 人知れず。誰にも理解されないような深い闇の底で。

 その覚悟と強さの前に、私達カルテットがやってたことがどれだけ浅はかな子供のごっこ遊びか──私も含め、改めて突きつけられた気がしていた。


「おい、なんかわけ分からんことで落ち込んでんだけどなんだあれ? ケガレにでも憑かれたか?」

「いろんなことが一度に起きたショックで、文字通り憑き物が落ちたんでしょう。これまでの反動で少し自己否定しすぎな気もするけど、まあ……そこはあなたがフォローなりしてみたらどうかしら? 一目置いてるでしょ、なんやかんや」

「いや知らんわ、そこまで面倒見れるか。どうせそのうち立ち直るだろ、味方がわんさかいるんだし。大体如月なんてのはケガレに立ち向かうなんざ、まるでヒーローじゃねえのよ、立派じゃねえか」

「そこは同感。人間、自分で思うほど大したものじゃないけど、自分で思うほど駄目なものでもないのよね、結局」


 落ち込む私達に、岩戸くんや竜宮院さんの言葉が聞こえてくる。特に如月くんを褒める二人の言葉は、きっと、いくらかでも救いだと思いたい。

 どのみち、しばらく西校カルテットは休止だ……今は立ち止まって、落ち着いて、自分達を見つめ直す必要があると思うから。

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