29/混じり気のない青春のなかで(最終話)
「それで、美山さんはまたカルテットに戻ったと。でもちょくちょくこっちにも話をしにくるね」
「んあ? おう、なんか知らんがまあええんちゃう? 本人が良いなら別段俺も嫌なわけじゃなし」
西クォーツ高校の教室。机に突っ伏したまま、呑気に答える幼馴染に、私、会椿リリィはそういうものかなーとか軽くため息ひとつ。なんだかまた、竜馬を巡って強敵が現れちゃった気がするなあ。
一年生達の間で起きていた謎の暴力事件が、やはり今回も西校カルテット達の手によって解決されたという報せが届いてもう一週間が経つ。
結局犯人は外部の侵入者だったらしく、それを突き止めた如月くん達がまたしても大活躍しての捕物だったとか。表向きはね。
でも実際のところは今回、よりによって西校内で裏社会の案件が起きていたらしい。人に取り憑いたケガレが次々に犯行を行い、その過程でむしろカルテットは絶体絶命のピンチにさえ陥ったんだって。
……そして、そこを竜馬が助けに入った。私の時のように。あるいは美山さんや御手洗先生、竜宮院さんはじめ多くの人達のように。
「カルテットの人達、しばらく誰からの頼みも聞かないって言ってたよ。ちょっとこれまでやこれからを考えたいって。竜馬、何かしたの?」
「しとらんしとらん、あいつらには指一本だって触れとらんって。ケガレを仕留めたことで憑き物が落ちたとかって竜宮院は言っとったし、よく知らんけどそういうアレじゃねえの?」
「どういうアレ? もう、竜馬ってば興味ないことにはとことん無関心なんだから」
「みんなそうだろ……とりあえず落ち着きたいってんなら放っといてやれよリリィ。人間、生きてりゃそういう時期が必要なこともいくらでもあるんじゃねえの、知らんけど」
様子が違うカルテットに向けても、やっぱり竜馬はほぼ無反応。けれどかすかに彼らを語る言葉には、たしかな優しさが温かみとともに込められているように私には思える。
竜馬と私がいる席から、少し離れたところ……如月くんや中村くん、高橋さんや美山さんが集まっている席をチラと見る。特に二人、如月くんと美山さんが、しきりに竜馬を見ているのが分かった。
今回の事件でも、竜馬はきっと力を使ったんだ。そしてそれを目の当たりにした、彼らの心には何かの変化があったんじゃないかな。
身に覚えのある様子だもの。中学生の事件の時にも、他ならぬ私が彼らの立ち位置だった。
助けるだけ助けてくれた、けれど自分だけは誰にも助けさせようとしない影そのものと化した竜馬の姿。
それを目の当たりにした、かつての私と今の二人の姿が心のなかで重なる。
「……竜馬」
「なんだよ」
「今さらだけど、後悔してない? 私のせいで、そんなふうになっちゃったこと」
「くだらねーこと言うな。後悔する俺ならそもそもこうなってねえよ。そもそもハナっからリリィと幼馴染なんぞなれてなかったろ」
「でも」
「気にしてるんなら気にすんな。結局俺は俺のやりたいようにやってんだよ、今も昔も。勝手にお前を光に返したくて、勝手に俺がなったんだ。良いことも悪いことも、そりゃ選んだのが俺なら俺の勝手なんだよ」
聞くまい、聞くまいと思っていたけれど。どうしても我慢できなかった私の問いかけ。それにさえ当たり前のように気にするなと返す竜馬は、優しいけれどどこか人間離れしても見えて。
私が、この人をこうしてしまったんだと嫌でも理解してしまう。今の彼が嫌いなわけじゃもちろんないけど、たぶん、あの時を境に竜馬は竜馬のまま、竜馬でなくなってしまったんだって分かるから。
償いのつもりはない、と言ったら少しは嘘になるだろう。私のせいでこうなってしまったという負い目がある限り、たぶん死ぬまで私はそれを思い続ける。
けれど、やっぱり私はこの人のことを愛している。傍にいたい、いつもいつまでもどこまでも……たとえ死んでも、彼の影の一部になれたらどんなにか幸せかなって思いさえする。
だから、私は彼から離れない。何があっても絶対に。
彼が私の幸せを望んでくれるなら、彼の幸せが私の幸せでもあるんだ。彼とともに、彼と二人で幸せになりたいよ。
「竜馬」
「はいはい」
「幸せになろうね。これから先もずっと、ずーっと一緒に」
「藪から棒になんだよ。そういうなら今日の晩飯はラーメン特盛チャーシューごってりで頼むわ」
「それとこれとは話が別! 今日のお夕飯は豚肉の生姜焼きと野菜炒め、それからあさりのお味噌汁ね。たくわんも添えるよ」
「ちっ。ありがたくいただきますよ」
ぼやきながらでも、声はいくらか柔らかい。笑ってくれている。私の言葉で彼の心が和らいだのなら、それはとても嬉しいことだ。
こうやって、私は彼と過ごしていく。まあ竜宮院さんとか御手洗先生とか美山さんみたいな、彼に惹かれる女性も何人もいるだろうけど……それは構わないけど、彼の隣は譲る気はない。
あなたが返らないというのなら、それでも良い。
それさえ含めて、私はやっぱり傍にいる。光と影がともにあるように、私もあなたとともにありたいんだ。
だからね、竜馬。
これから先も、楽しく生きていこうね!
以上で完結となりますー!ご愛読ありがとうございました!
「周囲の人物の視点からヒーローの姿を浮き彫りにする」というコンセプトで試験的に書いてみましたが、個人的には結構楽しかったですー
12月からは大ダンジョン時代クロニクル第三部後編を始めますー
そちらもよろしくお願いしますー




