26/決してあなたは認めないでしょう。それでもあなたはヒーローです
カルテットの三人を操り私、竜宮院みつきは校舎の外まで下がらせる。
校門の外まで来れば大丈夫だろう、感覚的にケガレを頻発させる土地柄は、校舎内に限っているみたいだから。
術の効果が消えたため、校舎を出た途端に三人は気を取り戻し、青褪めた顔をして周囲を見回している。
「──!? な、ここは!?」
「うわっ!? ……こ、校門? なんだ!?」
「私達、いつの間に!?」
「静かになさい、三人とも」
混乱するのも当然ながら、あまり騒がれるのも具合が悪いのでピシャリと制する。なんだかんだとそれなりに聡明な彼ら彼女らは、それだけでピタリと静まりこちらを見た。
……そう。なんだかんだ認めなければならないのだけれど聡明なのは聡明なのよね、この子達。
先日は変にヒロイズムに酔っていたきらいがあったため、辛辣になったところはあるものの。
岩戸くんや会椿さんの話を聞くに、またこの土地の性質を考えるに、それらは後天的に毒されて身についたものだというのは容易に想像がつく。
怪異頻発点は概ねそんなものなのだ。ケガレや怪異を誘き寄せるに留まらず、周辺に暮らす人々の負の想念を肥大化させる。
カルテットは要するにあてられたクチだろう……元よりずいぶんとチヤホヤされていたようだし土壌は元からあったところに、自尊心やプライド、虚栄心を肥大化した形になるならばああも思い上がるのも分かるわ。
「り、竜宮院さん? ……っ、そうだ岩戸が! 岩戸が変な学生に!」
「そっちは大丈夫よ、彼に任せておきなさいな。それよりあなた達、怪我はない? アレに触れられたりはしてないわよね?」
「し、してねえです、けど。あ、あいつは一体」
「あまりあなた達が知るようなことでもないのだけど、まあ巻き込まれてしまったからには多少は仕方ないか……アレは怪異が学生を乗っ取った姿。あなた達がここしばらく気にしていた暴力事件の犯人はアレよ」
「か、怪異!? そんな、非科学的な」
「昔からよくあることよ、そういうオカルトな事象も現象も、それからソレを中核として成立する裏の社会もね。私も岩戸くんも、要はそこに住まう闇の住人ってところかしら」
さすがにここまで来て、この事態を迎えてこの三人に何も伝えず終いはあまりに酷だろう。彼らとて何気なく調査していた矢先のことなのだから、意図的に闇に足を突っ込んだわけでもなし。
であれば、最低限のことくらいはね。かい摘んで当たり障りない部分を彼らに話す。科学世界の表社会では、なかなか受け入られないだろう事実をね。
「そんな。それじゃ、まさか会椿も!?」
「彼女は違うわ。以前巻き込まれたことはあったけど、岩戸くんが身代わりになって事なきを得たそうよ」
「み……がわ、り?」
「文字通りのね。以来、彼はああなってしまった。自分のすべてを闇に差し出し、闇そのものに成り果ててなお光にいるべき者を護る選択をした。その決断とその覚悟は、この私をもってしても測りきれるものじゃない」
「岩戸が? あなたは、一体何を」
「百聞は一見にしかず。じきに分かるわ、ほら、アレがそのソレよ」
カルテットのうち一人、特に弁えてなさそうな少年は会椿さんのことが好きなのかしら? 気の毒だけど絶対に無理だから諦めたほうがいいと、私は校庭を指差した。
じきに分かる。会椿リリィが岩戸竜馬に尽くするわけを。私が知る限りであったとてあれだけのことをされてしまえば、もう彼しか見えなくなるのはあまりにも理解ができる。
────空気を引き裂く闇が走った。物質化した影が長く伸び、校庭に無数の剣山を形成していく。
そのなかを吹き飛ばされるモノ一つ、追うモノ一つ。学生服をずたずたにされて傷まみれの、ケガレに塗れた少年一人と、そしてそれを成した闇そのものの魔人。
「っ、さっきの一年! それに……なんだ、あれは」
「影? ……人型の、影? 闇の、固まったような」
「まさか竜宮院さん、あれが岩戸だと?!」
「さすがに理解するわね。そうよそのとおり、あの影よ」
会話の流れでもう、分かるでしょう。彼を指さす。
影の針山、触れるものすべてを貫き殺しかねない鋭利さをものともせず、一等高い棘の頂点に片足立つは闇と影。
手足の生えた闇。人の形をした影。まさしく怪異そのものの異形。
岩戸竜馬。その正体──あるいは末路がアレだ。超特例措置認可済人型怪異・極星等級"影踏み鬼"。
人の身にてただ一人の幼馴染を護るため、その存在すべてをもって影を踏む鬼を喰らい、喰らわれ、もはやどちらでもなくなるほどに混じり合った歴史的に見てもきわめて珍しい存在、怪異人間。
「"闇に身を置く光の腕。其が伸ばす手は堕ちたる者を光へ返す"。あえて言うけれど彼こそが本当のヒーローでしょう。決して光を浴びること叶わぬまま、けれど闇に穢されんとする無垢なる者を、孤独に救い続ける永遠の人型災厄」
「ひ、ヒーロー……あ、あいつが……」
「もっとも彼は、そんなふうに言われることは望むまいでしょうけどね。いつもそうよ。助ける側はあまりに一方的で、助けられる側が何かをしてあげたくても、何もさせてくれないのよ────たとえ世界中の誰もがあなたを光と認めても、あなた一人がそれを認めない」
実体験からの愚痴もついでに少し。本当、堪ったものじゃないわよ。あんまり助けてくれてばかりで、私は未だに何も返せてないんだもの。
会椿さんだって同じ気持ちだろう。あるいは他にも同じような人がいるかもしれない。なんでもないような顔をして、当たり前のことだからと何も受け取ってくれないんだから!




