21/らしくない俺達だけど、それでも
一年校舎での一件から数日。俺達西校カルテットの雰囲気は最悪で、もっと言うなら一葉が本当に一時離脱してしまったのがあまりにも痛かった。
俺、如月裕也は痛む心を抑えて教室のなか、自分の席から一葉を見た。いつも傍にいた君が、まさかこんなにも遠くなってしまうなんて。
「岩戸くん! さっきの授業も寝てたね、ふふ!」
「あ? おお、まあ眠かったもんで眠気には勝てんし。いや起きたいと思っとるのよ? でもどうしてもこの、重たい瞼がなかなか手強くてだな」
「竜馬の瞼は鉄のシャッターだねえ。ていうか美山さん、カルテットはいいの? こないだから何かとこっちに来てるけど」
「うん、いいの。私がこうしたいって思ってこうしてるんだから」
「ふーん」
視線の先、一葉はいつもと違う場所にいて、いつもと違う人と話している。
岩戸竜馬と会椿リリィ。俺達西校カルテットの仲を、こんなふうにした男のところに行ってしまったんだ。
……いや、分かってる。本当は分かってる、分かっていた。
最近、一葉が俺達と距離を置きたがっているのも。俺達が、最近どうしても英雄扱いに調子づいてしまっているのも、分かっているんだ。
この間の一葉の糾弾に、少なくとも俺は否応なくその事実を突き向けられたし気付かされたよ。
「ゆ、裕也……俺達、どうすりゃいいんだ、これから……」
「なんで、一葉……そんなに私達が嫌なの? そんなに岩戸が良かったの? でも、でも私達は西校カルテットじゃない……!」
「拓真、千里……」
残った仲間、拓真と千里も完全に動揺して憔悴してしまっている。無理もない、あんなにも幾多の難事件を乗り越えてきた俺達西校カルテットでも、今回ばかりは正直まいった。
岩戸は悪くない。竜宮院さんだって。俺達がどこまで行こうがしょせんは子供なのはたしかなんだし、今までやってきたことも、それそのものは誇らしいことだけど……岩戸から見れば子供の遊び、みたいなものだったんだろうな。
だけど、それでも。俺は、俺達は俺達なりに頑張ってやってきた。正しいことのためでもあるし、困っている人達のためでもあるし。
そして何より、俺達がそうしたいと思ったからでもある。誰にどう否定されても、それだけは変わらない、変えられない。
だから。
拓真と千里へ、俺はどうにか答えてみせた。
「二人とも……とにかく、今は事件の調査と解決のために頑張ろう。一葉のことは気がかりだけど、まずは学校を守る」
「で、でもよ……! 俺達は四人揃ってカルテットなんだぜ? 一葉がいないと」
「それでもだ。たとえ子供の遊びでも、ごっこにすぎなくても、それでも……俺達には俺達にしかできないことがきっとある。だったらそれさえ放棄するなんて、本当に拗ねた子供でしかないじゃないか」
「ゆ、裕也……」
そうだ、それとこれとは別なんだ。竜宮院さんの辛辣な言葉や岩戸との違いも、一葉が俺達に愛想を尽かしたみたいに離脱したことも……今、まさに謎の暴力事件に怯えている学生や先生達にはなんの関係もない。
彼らが呼んでいる、俺達を。助けを求めて西校カルテットを頼っている。だったら、ガキでもごっこでも構わない。俺達は俺達にできることをするんだ、彼らや、俺達自身のために。
「岩戸や、竜宮院さんや……一葉がどう言おうと思おうと関係ない。俺達にも俺達だからこその何かがある。だろ? 拓真、千里」
「お、おう……わかった」
「できるのかな、私達に」
「できるできないかじゃないさ、千里。できる限りを尽くすんだ。命ある限り……な」
自分に言い聞かせるように、千里や拓真に想いを伝える。そだ、俺達だけじゃない。
生きてる限り誰だって、いつだってできる限りを尽くしているんだ。岩戸だってそうだ。だからってわけじゃないけど俺達もそうするんだ。誰もが生きているうちはそうしているんだから。
正直、岩戸を思うと敗北感と劣等感が堪えず渦巻く。悔しいよ、子供でしかないだろう俺が。憎いよ、一葉を振り向かせられない俺が。
だけど。そんな俺達さえ超えて、それでももっと大切にしなきゃいけないものがある。こんな俺達を頼ってくれた人達を、それでも守らなくちゃ。
「俺達は偽物かもしれない。ヒーローなんかじゃなくて、本当は頼られるようなもんでもないのかもしれない。それでも……それでも、やっていこう。できる限り、やれることをやっていこう。それはきっと、無駄じゃないはずだ」
「……わかった。裕也、お前となら頑張れるぜ、もう少しだけ」
「……そう、だね」
「ありがとう、二人とも」
悩みは尽きないだろうに、それでも俺を信じてうなずいてくれた拓真と千里に感謝する。
そして一葉を一度、見つめた。きっと、俺達の道は、もう。
それでも、君のことを好きでいることを、どうか許してほしい────心のなかでつぶやく、そんな俺を。
一葉の傍らに座る岩戸は、どこか厳粛に、暖かささえ感じる眼差しで、見つめていたのが印象的だった。




