20/慣れるべきじゃないけれど、それは自然にあるものだから
話を聞いていて、私、竜宮院みつきは頭が痛くなるのを禁じ得なかった。
西クォーツ高校という場所のあまりの異常性、あるいは地域ぐるみで異変が起きていることに今の今まで気づけなかったのだ。
呑気に話す岩戸くんと会椿さんは、どこか違和感を覚えつつもそれが当たり前のこととしている。汚染されていたり認知を歪められている節はない。
つまり完全に慣れているのだ。これはこれで厄介ね、まったく。
「あの……慣れきっているからでしょうけど、明らかにおかしいわよそのカルテットも、西クォーツ高校自身も。異界とまではいかなくても、それに近しい性質を持った場所、怪異頻発点なのかもしれないわね」
「おおー……やっぱり。いやなんかおかしいとは思ってたんだけどよ。いくらなんでも変なこと起きすぎちゃうかこの高校ってよ。んでもってカルテットがやたら活躍しすぎじゃねえかってのも」
「でも、そんな土地なら竜馬がさっさと気づいてどうにかしてそうなものだけど。ほら、前みたいにドカーッボコボコメッタメターって」
「どういう擬音……? いえ、まあそもそもそうした土地はよほど探知能力に長けた異能でもなければ薄っすら違和感があるくらいのものなのよ。私も、今の話を聞かなければおかしいと思わなかったかもしれないわ」
肩をすくめる。実際、今日ここに来て二人からヒアリングできたのは僥倖だったわね。たまにあるのよ、こういう自然的に不自然な事象が集中して頻発する、怪異頻発点が。
質が悪いことに、こういうところは自然の摂理に組み込まれているそうで、私達のようなアウトロー側の異能者であっても気づくことは容易じゃない。
そして摂理であるがゆえに、私達が持つ異能では土地そのものを根絶することは難しい。こればかりは力や腕っ節でどうなるものではないのだ。気づいたところでどうしようもない。
まあ、かといって被害を受けることもないんだけど……特に岩戸くんほどの力がある場合はね。
「それに岩戸くんは戦闘面ではそれこそ無敵に近い能力だけれど、感知や探知は人並み程度なのよ。それこそ、普段通っている一年生の校舎がケガレてることに気づけてなかったくらいに」
「依頼を受けて動くなんでも屋だかんな。自分からなんか探し出してくスタイルじゃないのは、そもそも探しようがないからだ」
「ふーん……竜宮院さんはそういう察知? にも長けてるんだ?」
「まあ、人並み以上には。これでも関東退魔会筆頭ですから」
ちょっと自慢するけど、本当にちょっとだけだ。関東退魔会筆頭と言ったところで目の前の本物の怪物の前にはどうにもならないのだから、下手に粋がってまた怒りを買うのは避けたい。
そんな岩戸くんが、戦闘力以外はほぼ一般人同然なのはそこだけが私達普通のアウトローにとっては幸いだろう。これで感知能力まで私以上にあったらいよいよ手が付けられない。
たしか、この辺を根城にしてる関西祓魔協会は正式に岩戸くんにノータッチという姿勢になってるのだったかしらね。賢明といえるし、愚かとも言える。
彼は歴史的に見ても極めて貴重な"怪異人間"なのだから、他組織のように利用しようとするなりせめて友好関係を結ぶなり考えなかったのかしら?
……触らぬ神に祟りなし、か。関西は特に歴史があるし、手出し無用なモノに対する扱いは慣れたものなのかもしれないわね。
まあその分、関東がつけ入る隙もあるわけだけどとほくそ笑む。そんな私を見ながら、岩戸くんはそして尋ねてきた。
「そんで例の校舎のケガレもその影響と。下手すると去年の例の殺人鬼くんも関係あったりすんのかい、あっちでも表向きカルテットが追い詰めた形にはなっとるが」
「ないとは言い切れないわね。というか、そう……あの子達なのね、あの怪異を表側から追及して追い詰めたのは。それで裏に逃げ戻ったところを、あなたが仕留めたというわけ。思ってもないところでつながっちゃった」
「おう、だからアイツらには借りがあるわけだ微妙にな。まあだからって知ったうえで首突っ込んでくるなら死ぬなりなんなり好きにしやがれって話だが、そうでなくまた巻き込まれそうならそれなりに返さんと据わりが悪いんだな俺も」
そう言って、チンジャオロースをやはり食べる岩戸くん。会椿さんもふんふんうなずきながら味噌汁を飲んでいる。牧歌的ね。
私ももちろん、美味しく食事しているけれど今の話はいろいろ合点の行くものだったわね。まさか去年の特殊二等級、あろうことか表に出て殺し始めた怪異案件にカルテットが絡んでいたとはね。
あの事件はその経緯上、表と裏の二社会からの連携が行われた珍しい成り行きとなった。
その、表側での動きに大きく寄与した、何も知らない地域の少年グループがあったのは聞いていたけど、あの四人だったのね。
彼らは殺人鬼として成立した怪異を追い詰め、表の世界にいられなくして裏へと逃げ戻させた。
そして逃げ戻った裏側で、待ち構えていた岩戸くんがやつを打倒した。意図していなかったし結局互いに認識し合うことはなかったはずだけれど、たしかにあの時、裏社会と表社会は力を合わせていたのだ。
「なるほど、律儀ね。彼らも、あるいは土地に選ばれた側面はあるかもしれないなら放置がモアベターかしら……とはいえ今回は明確にケガレゴトだから、やはり深入りする前に止めるから先に解決するかすべきだけれど」
「同感だ。まあすぐ片付くだろ、ケガレゴトなら俺やアンタを放置しとかんしな……ごちそうさま」
「よろしゅう! うんうん、今日もたくさん食べたね!」
最後にそう締めくくり、岩戸くんは会椿さんに向けて合掌し謝意を示した。ごちそうになったことを告げる合図だ。
取りも直さず私もごちそうさまでしたとつぶやく。食卓にてするべきでない話が多かった気もするけど、いろいろ貴重な話や納得する話、そしてこれからのざっくばらんとした話もできたし、これはこれで良かったと思える夕飯時だった。




