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岩戸竜馬は返らない。  作者: てんたくろー


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19/29

19/ねえ、なんでその人もいっしょに?

「……それで、竜宮院さんまで家で食べていく流れになったんだ?」

「帰れっつったんだがな。なんでもリリィの飯が気になったんだと」

「案外食への好奇心は強いのよ、ふふ」


 白々しい笑い声をあげる竜宮院さんに私、会椿リリィは呆れつつ内心にて警戒した。前に会った時といい今日と良い、絶対この人竜馬に気があるよ。

 あまりに分かりやすすぎて敵意も持てないレベル、いや嘘結構敵かもこの人。竜馬の傍にいる女の子なんて私だけで良いのに、なんでか最近この手の人が増えてるんだよね。困っちゃうよ。


 さすがに追い返すのも悪いし、そもそも年上の大人相手にそんなことできっこないから仕方なく迎え撃つよ。竜馬の家、私の家の隣の一軒家でおゆはん作ってた私は彼女を迎え入れる。

 今日の献立はチンジャオロース。それとニンジンしりしりとお味噌汁。結構頑張って作ったけど、いいとこのお嬢様の口には合わないかもね。


「……美味しいわね。とても温かくて、真心の籠もった料理。岩戸くんが気に入るのも分かります」

「へ? あ、ああそれは、どうも? その、正直意外なお褒めの言葉です」

「普段高級なものばかり食べてるだろう、と? 否定はしませんが、それとこれとは話が別です。そも、誰かが誰かのために頑張って作るものに貴賤はありません。味も品質ももちろん大切ですが、それらは舌と身体を満たせても心までは満たせませんよ」

「は、はあ……ありがとうございます」

「そんなに固くならないで、岩戸くんみたいに砕けた口調でお願い。私もそうするから、ね?」


 意外だ。このお嬢様、めっちゃ良い人だった。竜馬のいる裏の社会の人なんだし、てっきり腹の底までドス黒い、今だけ金だけ自分だけの権化みたいな人かと。

 思ってた以上にまともな竜宮院さんに戸惑う。困るよ、普通に褒められると悪い気しないじゃん。


 いつもの二人、だけじゃなくゲストの一人も加えて三人で囲む食卓は、思いの外楽しくて過ごしやすい一時。

 だからつい錯覚しそうになるんだ……私と、この二人は同じ世界に肩を並べていられてるって。だけど、そんな想いはすぐに現実に押し流される。

 チンジャオロースを食べながら、竜馬が口火を切った。


「ところで竜宮院さんよ。気づいてたとは思うがあの校舎自体ケガレとったな。ありゃあ予想より影響デカいぜ」

「……そうですね。それに、あのカルテットでしたか? あの方々の何人か、すでにいくらか毒されてました。一年に知り合いがいて校舎に出向く機会が多かったのか、はたまた」

「一年坊のなかでも特に毒されたのがわざわざ、アイツらに接触したかだなあ。なんせ人気者だからよ、毎日連日アイツら目当てに学校中のやつらが集まんだ」

「まるでアイドルか何か……それだけ彼らの功績が、少なくとも西クォーツ高校内では轟いているということですか。ねえ会椿さん、あなたから見てもそうなのかしら?」

「へっ……あ、まあ。そりゃ、去年の春から今にかけて、あの四人のやってきたことは学校どころか地域中でも語り草だもん」


 急に始まる裏の世界、闇の社会の話。ケガレゴト……私もよくは知らないけど、竜馬や竜宮院さんのような人達が相手にしてる、敵のようなナニカ。

 そんなのが校内にも現れているなんて。でもそういえばこれまでにも、なんだか学校内で不思議なまでに不穏な、物騒な事件が時折起きていた時期がある。


 その時も含めて、やっぱり事件解決を成してきたのは西校カルテットなんだ。

 関東から来て、この辺の地域の事情にも西校のことにも詳しくなさそうな竜宮院さんに、かいつまんで説明する。


「ええと、最初はなんだったかな……そうそう、去年の春先に校内でも有名な不良が暴れまわったんだ。まずそれがカルテット最初の事件」

「のっけから物騒……それからも、似たような事件が頻発したの?」

「うーん、規模や内容は様々だけど。それからもええと、校内連続窃盗事件とか、生徒会内不正選挙事件とか。あと元教頭先生の修学旅行費着服事件の解決とかもカルテットがしたし、北校との不良同士の抗争を収めて地域の人達を安心させたって話もあるよね」

「待って? ちょっと待って……ええと、なんのジョーク? 半世紀くらい前の治安の悪い学校か何か?」

「やっぱそういう感想になるよな、普通。いや俺も前からなんかおかしいおかしいとは思ってんだが、やっぱおかしいんよなこんなの。慣れちゃっただけで」


 去年、私と竜馬が入学して以降に校内や地域で起きた、そしてカルテットが解決してきた事件をかるーく挙げていく。

 これでも私から見て印象深いものってだけで、細かいのや私の知らないところでいつの間にか解決してたものまで含めるとたぶん、この倍以上はあるかな。


 それを聞いて竜宮院さん、すっかり唖然としちゃった。だよね、普通はそうなるよ。私や竜馬はもう慣れちゃったけど、そういえば去年の夏くらいまでは同じように二人してドン引きしてた覚えがあるもん。

 竜馬も同じ記憶を辿ったみたいで、白米を頬張り味噌汁を啜りつつうんうんうなずいている。入学時にはもう大概アウトローに染まってた彼をも引かせたんだから、おそるべき西クォーツ高校ってなるよね。

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