18/付き合いきれない。私は私の青春を……
西校カルテットの空気は、もうほとんど壊れていた。
先程の岩戸くんと竜宮院さんとのやり取りで、完全に破綻してしまっていたのだ。
私、美山一葉は一歩引いたところから三人を静かに見ていた。
「なんだよ、あの女! 人が優しくしてたらつけあがって!」
「岩戸も岩戸だ。なんであんなに偉そうなのか理解に苦しむ……竜宮院さんまでもが、アイツには大人しく従うなんて」
「おかしい、おかしいおかしい……! やっぱり岩戸、アイツヤバいよ……!!」
「…………みんな」
何故か二人でいた彼らの言葉の数々。特に竜宮院さんからの嫌味と言うか、罵倒? は正直、堪えた。
中村なんかはすっかり逆上してるけど、その姿がすべてを物語っているように私には思える。如月くんさえ明らかにいつもと違う、敵意のような感情を岩戸くんに向けているし、千里は……なんだろう、二人とは別口に彼に怯えている感じがある。
千里は違う方向な気がするからなんとも言えないけど、如月くんと中村は私から見ても明らかに様子がおかしい。岩戸くんを意識しすぎて、いつもの彼らじゃなくなっている。
本来の如月くんはここまで他人に攻撃的じゃないし、中村だって調子乗りではあるけど、こんなに人を見下したりする人じゃない。
そしてたぶん、それは私も。
静かにつぶやく。三人の目が、夕陽照らす校舎を背景に私に集まっていた。
「…………落ち着こうよ。みんな」
「っ、一葉」
「一葉、なんだよお前まで! どうしちまったんだよ!?」
「それはこっちの台詞。三人とも、ちょっと前からどう考えてもおかしいよ。いつもとまるで違う、人が変わっちゃってる」
指摘する。今の西校カルテットのおかしさを。
思い出してほしい、私達はこんなんじゃなかった。自分達の見栄やカッコつけばかり気にして、正義とか英雄だとかなんて自惚れたりしていたわけじゃなかった。
絶対におかしい、こんなの間違ってる。
こんなふうに増長して、幼稚な子供のままふんぞり返るみたいなのが私達だなんて、そんなの絶対に嫌だ!
「竜宮院さんの言うことは合ってるよ……ねえ、私達いつからヒーローとか英雄なんてことになったの? 正義とか信念なんてことで、こんなことやってきたの? これまでの一年と少しを!」
「それ、は」
「最近みんなおかしいよ! こんなの青春じゃない! 馬鹿な子供が四人、自分達のみっともなさも分からないまま調子に乗って粋がってるだけじゃないの!!」
「一葉、お前……」
「思い出してよ! 私達はなんのためとか誰かのためとかじゃなくて、ただ! ……ただ、目の前で何かが起きて、自分達にも何かできそうってそれだけでがむしゃらだったじゃない」
吐露しながら、涙が溢れてくる。あまりの情けなさと恥ずかしさで、耐えきれずに零れ落ちた涙だった。
竜宮院さんの言っていたこと、あまりに辛辣だったけど大体当たってる。砂場で子供がやる遊び、それを大人の仕事だと勘違いしている馬鹿な私達。
しかも最後には、私以外の誰もが散々敵視していた岩戸くんに助けられて。これが情けなくなければ一体何なのか。
そしてそれを指摘されるまで、まともに気づこうとしなかった三人の、顔が赤くなったり青くなったり。そういうところもまた、竜宮院さんのほうがやっぱり"大人"なんだよ。そして私達はどこまでいっても"子供"なの。
「最近、みんなといても楽しくないよ……これじゃ、みんなして褒められるために危ないことに首突っ込んでるだけじゃない……」
「一葉……! お前何言ってんだよ、自分が何言ってるか分かってんのかよ!」
「嘘でしょ一葉、あんたまで岩戸なんかに毒されて」
「いい加減にして! 岩戸くんも会椿さんも竜宮院さんも関係ない! 昔の私達が、今の私達を見たら絶対おかしいって言うわよ!!」
「や……やめろ、みんな! 落ち着け、喧嘩はよせ!」
ここまで言ってもわからず屋な中村と千里が、反論してくるのに私も激昂していつしか言い合いになっていた。それが余計悲しくて、私は本格的にボロボロと涙を流し始めてしまった。
どうしてこうなったの? いつからこんなになっちゃったの? いよいよ無視できなくなってきた違和感、今の自分達への嫌悪感が溢れ出す。
それを見かねて、如月くんが止めに入った。彼らしい、いつでも穏便にことを済ませようという姿勢。
けれど今はそこに、保身というか、体裁を取り繕いたいっていうエゴイズムを感じられるのは私の気のせいじゃない……だってほら、周囲に人が何人かいる。まだ帰ってない一年生の子達が、何事かと集まってきているんだもの。
西校カルテットのトラブルなんて、リーダーの如月くんとしては絶対に衆目に晒したくないスキャンダルだもんね。分かるよ。
「……今日は帰ろう。それで頭を冷やして、もう一回明日、腹を割って話し合おう」
「私はもう言いたいことはぜんぶ言ったよ。あとはあなた達がどう思うか、それだけ……どうしても合わないなら、そこまで。もう私、今のカルテットには付き合いきれないもの」
「なんだとぉ!?」
「だから待てって! 一葉も! そのことも含めて明日、明日話そう! 落ち着いて!!」
「もういや……ぜんぶアイツのせいよ、岩戸竜馬……!」
昔の私ならそんな如月くんを、リーダーとしてふさわしい頼れる姿として見ていたかもね。でももう無理。拓真と千里を諌められない君と、私は一緒にいたいとは思えない。
だから私は一人、踵を返して帰ることにした。呼び止める声も知らない。罪悪感と解放感。
やっと言えた。岩戸くんのこととは関係なく、ずっと燻っていたものをようやく吐き出せた。
やっぱりおかしいんだよ、今の私達は。変な見栄に酔っ払って、本当に大切なことが何かを忘れてるとしか思えない。
だから私は一抜けだ。私は、私の青春のために生きたい。




