16/連想するは、あの日の校庭
よりによってこんなところで鉢合わせてしまった、岩戸竜馬と竜宮院さんにあからさまな反発を示す拓真に、私は背中が冷や汗でびっしょりになってるのを嫌でも自覚するしかなかった。
西校カルテット相手にどこまでも偉そうな岩戸や、なんでかアイツと行動をしている竜宮院さんが気に入らないのは分かるけど……わざわざ喧嘩を売りに行くなんて、どうかしてるよ。
「あー……帰ろかお姉さん。ひとまず状況は知れたんだ、ここにいたってしょうもないだろ」
「ですね。分かっていましたが内実自体はしょせん些事、あとはホシを追って処置すれば終いでしょう」
「なんならあとは勝手にやっといてくれて良いくらいだけどな。それはおたくの気が済まんのだろ」
「ふふふ、さすがよくお分かりで。仮にもここで動く以上は、間違ってもあなたを無下にはできませんもの」
「ここをシマにした覚えねえってんだよ、こっちは……」
拓真どころか、裕也さえ完全に無視して二人で話す岩戸と竜宮院さん。何かを知ろうとしてここに来ていた? なら、たぶんこの二人も例の事件を調査していたのかもしれない。
理由は分からないけど、口振りからして竜宮院さんが主体、なのかな。岩戸は相変わらずまったくやる気なさげに脱力した様子だし、背景が見えないけどたぶんそのへんだろう。
……そしてその竜宮院さんは、調べていた何かを指して些事、つまりは大したことじゃないって言っている。
西校カルテットたる私達がまだ、調査にも及んでないのに。今日この学校に来たばかりの人が、こんな短時間であらかたの事情を察知した? それで、解決は容易だなんてことまで言っているの?
これはさすがに私ですらもイラッときた。岩戸が恐ろしくてとても前に出られないけど、そんな私さえ腹が立つ物言いだ。
裕也や拓真にはなおのことだ。今のやり取りを聞いて、裕也がさらに一歩踏み出した。
「竜宮院さん。あなたはもしかして、例の暴力事件について調べていたんですか? そして、下手をするともう、真相に辿り着いている」
「そこの岩戸に何を気を使ってるか分かりませんけど、だったら俺達に協力してくれませんか? 俺達こそ、この事件を解決できる正義のヒーローなんですから!」
「こう言ってはなんですが、俺達カルテットはこうした事件の解決にはそれなりにノウハウがあります。岩戸くんが足手まといという気はありませんが、しょせんは素人の────」
「…………下らないわね、予想以上に」
裕也と拓真の言葉を冷たく切って吐き捨てる。竜宮院さんの底冷えするような声色と視線の鋭さが、不意に私達を襲った。
違う。さっきまでの彼女とは何かが明確に。呆れと嫌悪、侮蔑が明確に浮かんだ色合いの表情は、むしろそれまでの穏やかな竜宮院さんよりもずっとしっくり来る。
まさか、これがこの人の本性?
戸惑い後ずさる私達を一瞥し、竜宮院さんはまたしても岩戸に話しかけた。
「悪いことは言いませんから、この四人に対する評価を下方修正することをお勧めするわ岩戸くん。この子達に見るべきものはなく、ゆえに成し得ることなどない。公園の砂場での児戯を、大人の世界の偉業であると妄想に耽る幼児も同然よ」
「な……竜宮院、さん? あなたは、何を」
「学生風情が英雄気取り、それだけでも噴飯物をよりによって岩戸くんをも素人扱い。まったくもって話にならないわね、しょせん子供のごっこ遊びに過ぎないのよ、大人の社会に手出しをするなど言語道断ね」
「あ、アンタなんて言い草だよ!? 子供!? 英雄気取り!? 俺達が!?」
一方的すぎる罵倒。冷静なまでに私達西校カルテットを酷評する竜宮院さんの物言いがあまりに辛辣すぎて、私はすっかり絶句してしまった。
なんなの、この人。急に現れておいて、どうしてこの私達にそんな偉そうに言えるの……!?
裕也や拓真も困惑し、しかしその後にさすがに怒りを顕にした。無理もない、こんなの単なる誹謗中傷じゃない。
一葉だけはさっきからずっと、青褪めた顔色で俯いているけど。きっと竜宮院さんのあんまりひどい暴言に傷ついているんだと思う。それを考えると、余計に竜宮院さんへの怒りがこみ上げてくる。
「なんの、権利があってそんなことを……!!」
「もういいから帰りなさい、ここは大人のテリトリー。カラスももう鳴く頃合い、子供は帰ってお夕飯を食べて、お風呂に入ってお眠の時間よ────!?」
「何ですって…………!?」
思わず声をあげた私をも、冷たい瞳と言葉で言い返す竜宮院さんが不意に目を見開き身体を強張らせた。反論しかけた私や裕也が、次いでその正体に気づく。遅れて拓真や、一葉もだ。
岩戸が、彼女を睨みつけている。静かに、けれど怒気を立ち上らせて。瞬間、私の脳裏にあの校庭の光景がよみがえる。
血と肉に塗れた人の山。傷だらけで佇む、岩戸竜馬。
あの時を彷彿とさせる表情と気迫で、彼は大きな舌打ちをして竜宮院さんに怒りを向けていた。
「ひぃっ!?」
「おい、関東の。おめえも大概ごちゃごちゃうるせぇんだよ」
「っ、岩戸くん!?」
「テリトリーがどうのと吐かしといておたくは俺のテリトリーとやらに踏み込んでる分際じゃねえか。人様に偉そうに説教垂れるなら帰れよ関東に。あとは俺一人でやっとくからよ」
引きつる私の声が、物静かな後者に響く。それをも無視して、岩戸は一方的に竜宮院さんを叱っていた。
私達に向けられた言葉や感情を、咎めるように。年上で大人である竜宮院さんに、私達と同じ子供のはずの彼が、叱咤していたのだ。




