15/誰が上で、誰が下なんだ?
岩戸の野郎が、なぜか竜宮院さんとそこにいた。俺、中村拓真は瞬間的に膨らむ嫌悪感に顔が歪むのを自覚していた。
最近、一々アイツが俺達西校カルテットの視界にチラついて仕方ない。一葉がやけにアイツのことを気にしてるのもあるし、俺にとっては会椿につきまとうストーカーまがいのやつだってこともあるしな。
だがそれでも、さすがに一年生校舎の廊下に竜宮院さんと並んで立ってるのはおかしいだろ。なんでこんなところに。
裕也や一葉、千里も同じ疑問を抱いたみたいだった。慌てて引き下がって隠れ、あの二人の様子をこっそりうかがうことにした。
「四人組のおでましかい、勤労で結構なもんだ。で、どうするつもりなんだ? まさかアイツら泳がすつもりじゃないだろうな」
「ふむ。組織人としてはそれも効果的かと思いますが、あなたとしてはそれは好まないようですね」
「好むとかそういう話以前に人間としてどうかって話なんだよ。おたくね、染まりすぎると良くないよ。そういうのは呆けた爺さん婆さんに机のうえでこねくり回させとくもんだと思うぞ俺は」
「同感です。ふふふ、思ったとおりあなたはそういう方ですのね。闇に身を置く光の腕、其が伸ばす手は堕ちたる者を光へ返す……」
「はいはい、買い被りはよしてねホント。期待されたって応えられるもんじゃないんだよ」
……どうやら、岩戸は予想以上に鋭いらしいな。俺達が隠れてるのもさっさと見抜いちまった。
しかもそのうえで大した反応もしやがらねえで、竜宮院さんと呑気に話している。まるで俺達なんてどうでもいいみたいに、ここにいようがいまいが構わないみたいに。
さすがに腹が立つものを覚えた。裕也も同じ思いでいてくれるみたいで、顔を険しくしつつ見合わせてうなずく。
竜宮院さんはともかくあんなやつに、舐められっぱなしでたまるかよ!
「…………っ!!」
「あ、ちょっ二人とも!?」
「な、何してんの裕也、中村!?」
「やあ竜宮院さん、奇遇ですね。岩戸と二人でこんなところで何してるんですか?」
プライドを刺激されちまったらもう駄目だ、俺も裕也も男の子なんだよ。一葉や千里が止めるのも構わず、俺達は竜宮院さんと岩戸の前に出た。
リーダーの裕也がフレンドリーに話しかける──けれどその声音にはたしかな意志と意地が感じられて、俺は思わずブルっちまった。
こうなった裕也は無敵だぜ、俺の憧れるヒーローそのものなんだ!
「ここって一年生の校舎ですよ。少なくとも竜宮院さんが来る理由はないと思いますけど。ああ、ちなみに俺達は今からこの学校のため、みんなのために半月前から続いてる暴力事件を調査するんです」
「ふぅん。あなた達、なんだったかしらなんとか四人組とかって言われてるみたいだけど。大変なのね、学生なのにまるで探偵か警察みたいなことをして。普通、大人に任せるものじゃないの?」
「西校カルテットですよ、竜宮院さん! それに私達にはこれまで、たくさんの校内外の事件を解決してきた実績があるんです。それを見込まれるのは、何もおかしなことじゃないでしょう?」
「…………なるほど。手元に頭痛薬があったら今すぐにでも飲みたくなるわね、これは」
「ど、どういうことだよ竜宮院さん」
大義は、正義は俺達西校カルテットにこそある。竜宮院さんがなんでここにいるのかは知らねえけど、この場は俺達が預かるってなったら大人しく従ってもらうのが正しいことなんだ。
裕也の丁寧な説明で、そこんとこ分かってくれるもんだと信じてたんだけど……竜宮院さんはむしろ、頭痛を堪えるように頭を押さえて、深く溜息なんか吐いちまった。なんだ、この反応?
しかも助けを求めるように、横並んで黙りこくってる岩戸を見てる始末だ。そもそもそこがおかしいんだよ、なんでこの場にそんな奴までいるんだ?
俺の疑問をよそに、岩戸のやつは明後日のほうを向いて相変わらずの、気怠げな様子で彼女に応えていた。
「ノーコメント」
「いやでも、さすがにこれは明らかにちょっと……」
「ノーコメントだって。まあ一応言っとくとよ、普段はここまでの案件には首突っ込むことはしてねぇからなそいつらも。今回ばかりは大人も子供も見立てが甘かったってだけだ。大人はちと怪しいが」
「そういうこと……にしても乗せられるほうも乗せられるほうだと思うのだけれどね、私としては」
「あんまり言うなよ。別に悪さしてるわけじゃねんだし、そこの四人がうちの学校、どころか地域内でも頼られてるヒーロー達なのは事実だしな」
「あなた、なんだかんだそういうところはしっかり闇側よねー」
偉そうに、上から目線で俺達西校カルテットを語る岩戸と、それをクスクス笑う竜宮院さん。そして見ているだけの、俺達。
馬鹿にされている。明らかに岩戸は俺達を下に見ている。だのにどこか、それがあまりにも自然な振る舞いでただ圧倒されてしまう。
そうだ、まるでこれじゃ、大人を前にした子供みたいだ。どんなに子供の世界で活躍しても、本物の大人の前じゃ俺達はまだまだガキなんだって思っちまうみたいな感じを今、俺は岩戸なんかを相手に思っちまっている。
裕也も、千里も一葉も同じなんだろう。悔しげだったり、怯えだったりあるいは恥ずかしげに俯いて。
ちくしょう。ちくしょう、ちくしょう!
────そして俺は、反発するみたいに岩戸に対する怒りを憎悪に変えて睨みつけた。
そんな振る舞いさえ、どうしようもなくガキっぽいと自覚しながらも、そうするしかできなかった。




