第4話 好きなことをするのに理由なんているか?
ソラが専属メイドのリリアを撒き、荒野で魔術の練習に明け暮れている頃――
◆◆◆◆◆
俺は最近、小さな木刀の素振りにハマっている。
前世では体が弱くて、素振りなんてできなかった。
だが今は違う。
振れる。
それだけで嬉しいし、楽しい。
「997…998…999……1000」
俺は額に浮かんだ汗を腕で拭った。
「結構動いたな、1歳になったばかりの体にはちょっときつかったか?」
俺は一度休憩を取ることにした。家の屋敷の庭にあるベンチに腰掛け、水を飲む。
「ふぅ、この体。やっぱり最高だな、どんどん筋肉がついていってる気がする」
武術を極めるためにはまず基礎ができなければ話にならない。そのための素振りや走り込み、腕立てに腹筋などなどをする必要がある。
ただ、焦る必要はない。
前世では基礎を作ろうと思っても少し動いただけで息が上がり、ベッドに横たわるしかできなかったんだ。
だからこそ、この人生では一歩ずつ積み重ねていけばいい。
「リク様!お疲れ様です!1歳なのに鍛錬ですか?すごいですね!」
俺が休憩していると、専属メイドのミーナがやってきた。
「小さな時から鍛錬して強くなりたいんだ。」
「リク様はなぜ強くなりたいんですか?」
なぜ?……俺はその言葉に対する答えが浮かばなかった。確かに、俺はなんのために武術を極めたいと思ったのだろう。強くなりたいと思ったのだろう。
「……分からない」
「1歳の子への質問ではなかったですね。忘れてください。それでは、適度に休憩を挟みつつ頑張ってくださいね!ミーナは見守っていますから」
そう言ってミーナは屋敷へと入っていった。
俺はその後も素振りを続けた。
素振りを続けている最中も俺の頭の中はミーナに言われた言葉についてずっと考えていた。
俺はそのモヤモヤを抱えたままその日は寝た。
その翌朝。
俺は朝5時に起きて、いつものランニングを始めた。
家の屋敷の周りをぐるっと一周するのに今は30分ほどかかる。歩幅が小さくて全然進まないのとまだ体力が
ついてなくて、途中で歩くことがあるからだ。
屋敷の周りを2周するのを日課にしており、その後は腕立て伏せと瞑想をして朝の7時ごろになる。
俺はいつも朝ごはんは7時に済ませていたが、兄のソラはもっと遅い時間に起きてきてご飯を食べていると聞いたことがあった。だけど、昨日から兄は7時ごろに朝ごはんを食べるようになっていた。眠い目を擦りながらご飯を食べている兄。
そういえば、生まれた直後、異様な気配をこの兄から感じたはずなのに今は何にも感じない。生まれたてで気配察知が上手くできず、勘違いしたのじゃないかと今では思っている。
それより、あのリリアとかいうメイド、結構できる……うまいこと気配を隠してはいるが、俺にはわかる。あいつは強い。それも相当……
「ごちそうさまでした、ソラ兄さん、先に失礼します。」
「あ、リク。あとでさ俺の部屋に来てくれよ。ちょっと話したいことがあるんだ」
話したいこと?珍しい。今まで兄から話したいことがあるなんて言われたことがない。
「分かりました。では」
俺は朝ごはんを食べる広間から出た。
そして、1時間後ぐらいに兄の部屋を訪れる。そして、部屋の扉をノックする。
コン、コン、コン。
「どうぞ〜」
兄の声が聞こえたので部屋に入る。
「失礼します。ソラ兄さん、話したいことってなんですか?」
「あぁそれがなぁ……まぁなんだ、座って話そう」
兄は椅子に座りながら話しかけてくる。
「では失礼します。」
俺は近くにあった椅子に座った。
数秒の沈黙ののち、兄は口を開く。
「リク、なんか悩んでるのか?」
「え?なぜそう思ったのですか?」
「あぁ、いやまぁ誰かに聞いた……とかではないんだが、なんか朝ご飯を食べている時に感じた雰囲気がいつものお前とは全然違ってさ」
兄は俺のことなんてほとんど見ていないと思っていたが、そんなことはなかったのかもしれない。
「はい……実は今すごく悩んでいると言いますか、考えていることがあるのです。」
「やっぱりか、言ってみな。こんな兄でよければだけど」
「実は……昨日、いつも通り木刀を素振りしていて、休憩をしていたら、専属メイドのミーナがやってきて、俺に言ったんです。『リク様はなぜ強くなりたいんですか?』って、それからずっとなんで強くなりたいんだろうと考えていて。」
「なるほど、なるほどなぁ。リクは体を鍛えるのは好きか?強くなるのは好きか?」
「はい、体を鍛えるのは大好きです。強くなるのも自分で分かるとすごく達成感があって、好きです。」
「なら答えなんて決まってるじゃないか!」
「……え?」
俺は少し固まった。答えなんて決まっている?兄はなぜそこまで言い切れるのだろう……そう考えていると、兄は言った。
「好きなことをするのに理由なんているか?強くなるってのはリクにとって楽しいことなんだろ?なら、別に無理に理由なんていらないだろ。まぁもし、理由がどうしても欲しいっていうなら、『鍛えるのが楽しいから、強くなるのが楽しいから』で十分だろ。それ以上の理由なんていらないさ。それでお前の悩みは解決だ」
「好きなことをするのに……理由なんていらない……」
「まぁまた悩みがあったら俺に言えよ。俺はお前のたった1人のお兄ちゃんなんだから、いつでも気軽に相談しにこい!」
「ソラ兄……ありがとう、心のモヤモヤが取れた気がする!」
「それはよかったな!さて、俺もリクを見習って好きなことをやってくるかな」
そういえば、兄の好きなことってなんなのだろう。
「ソラ兄の好きなことってなんなのですか?」
「ん?俺か?俺は魔術が好きだ!この世界で1番魔術を愛してる自信がある!あ、これみんなには秘密な?俺とリクだけの秘密だぞ」
「魔術……はい!ソラ兄と俺だけの秘密です!」
俺はこうして、悩み事がなくなって兄の部屋を後にするのであった。




