第七章、隣の女神たちと、始祖の急逝
このフルカラーの時代に、画面の向こうで人気を集めるインフルエンサーたちのリアルな顔立ちを描く「収集用の似顔絵データ」を、息の合った合作で創造したのが、一筆斎文調と勝川春章の二人だった。
「あなたの線は綺麗すぎる。もっと泥臭い人間の、本物の顔を描くべきだ」
そう語られる春章の、人間の骨格を容赦なく捉える写実性と、文調の洗練された叙情性が組み合わさった絵は、ファンの間で爆発的な人気を誇った。美しいだけの記号だった画面の中の顔に、本物の個人の体温が宿り始めた瞬間だった。
だが二〇一七年、天才・鈴木春信が突然の病により急逝する。フルカラーの始祖を失った業界は凄まじいパニックに陥り、画面の向こうは大きな喪失感に包まれた。大衆は春信の抜けた穴を埋めるかのように、生き残った一筆斎文調への注文を異常なまでに殺到させた。
しかし、文調はその狂気的な狂騒に、あまりにも早く疲れ果ててしまう。「春信のいない画面で、これ以上、誰のために描けばいいんだ」
絵の具の調合やレイヤーの緻密な計算を共有し、互いに技術を高め合っていた唯一無二のライバルを失った絶望。文調は人気の絶頂期のなかで、静かにペンを置き、業界から永久に身を引いた。
追い打ちをかけるように、大規模なネットインフラのサーバー崩壊が業界を直撃し、データ市場は一時、混沌とする。その暗雲のなかで次に台頭したのは磯田湖竜斎だった。彼は春信の緻密な色彩を受け継ぎながらも、より量産に適した技術を開拓し、若者たちの最新のトレンドを完全に捉えたファッショングラフィックの連載を発表した。これが現代のファッション誌の表紙を飾るかのごとき空前のダウンロード数を記録し、湖竜斎は春信亡き後のトップへと躍り出た。画面の向こうの流行は、より実用的で、大量に消費されるデザインの時代へとシフトしていった。




