第六章、数万色の覚醒、画面が現実を超える日
そして二〇一五年。デジタルアートの歴史を完全に変える一人の天才が覚醒する。鈴木春信だ。
春信は、コミュニティ内で流行し始めていた、絵師たちが合同で制作するオリジナルデジタルカレンダーの共同制作企画に目をつけた。彼はまだ開発途上だった多色レイヤーの着色技術を極限まで進化させ、数万色を同時に表現できる、息を呑むような超美麗フルカラーイラストへと昇華させた。
「これからは、画面がそのまま『現実の美』を超える時代だ」
清信の放った泥臭い暴力の線や、政信が仕掛けた不謹慎な漆の毒に疲れ果てていたネットの住人たちは、春信が描き出す圧倒的な透明感に魂を奪われた。春信が放ったフルカラーの衝撃は、またたく間にネットの特産品となり、その画像データが高額で取引される臨戦態勢の狂騒曲を生み出した。
春信の快進撃はさらに続く。彼は遠い世界の雲の上の有名人ではなく、実在する街の人気カフェで働く、素朴だが強烈に目を引く一般の店員や、ごく普通の女子学生をモデルにした
「手の届きそうな日常」の絵を次々と投稿した。「手の届かない神様より、すぐ隣にいる可愛い女の子の方が、みんな見たいだろ?」さらに、誰もが知る古典文学や高尚な神話のワンシーンの構図をそのまま借り受け、現代の新しい街の風俗へと鮮やかに落とし込む、高度なパロディジャンルを確立した。大衆は画面をスクロールしながら、高尚な古典と卑俗な現代の日常が美しく重なる快感に、激しく酔いしれていった。




