第五章、実業家のせせら笑いと、縦長の魔術「規制の網? そんなもの、ただの新しい『遊び場のルール』ですよ」
二〇一一年。ネット空間が表現規制の嵐によって冷え切るなか、奥村政信はせせら笑いながら、みずから独立系の表現プラットフォームを立ち上げた。彼はただの絵師であることをやめ、メディアの商流そのものを支配する実業家へと変貌を遂げたのだ。
政信の仕掛けは止まらない。急速に普及し始めた高解像度な携帯端末の縦長画面に最適化した、超縦長の構図による絵を発案。画面の奥へと吸い込まれるような、独自の三次元透視パースをデジタルアートに開拓した。
「画面の平坦な嘘に騙されるな。奥行きを支配する者が、大衆の視線を支配する」
さらには、三枚の画面が横に繋がるマルチディスプレイ環境を想定した横長の大作データをリリースし、オタクたちの度肝を抜いた。ウケる規格は自分で創る。それが王の戦い方だと言わんばかりに、新たな画面のフォーマットを次々と定義した政信は、莫大な手数料ビジネスによって圧倒的な富を手に入れていった。
しかし、その画面の支配者がもたらしたシステムは、クリエイターたちにとって新たな地獄の始まりでもあった。プラットフォーム側が提示した規約は、絵の売上のじつに半分をシステム利用料として強制的に徴収するという、悪名高き五公五民の搾取構造そのものだった。
血の滲むような労力で描いた絵の価値を半分奪われる過酷な税制。さらに追い打ちをかけるように、世界的な経済危機の波が直撃する。多くの者が困窮し、画面の向こうの市場が閉塞感に包まれるなか、大衆の心を掴んだのは、数色を自動で重ねて合成できる初期のデジタル多色着色ツールの普及だった。
同時期にネット上では、かつての実在の大事件を題材にした壮大な歴史ファンタジーの連作動画が空前の大ヒットを記録。この新しいカラー技術が、その熱狂をさらに加速させた。さらに、経済的な余裕を持つ富裕層が、自費で絵師に好みの絵を依頼し、限定の物品や宣伝用の配布物として配る文化が定着。あまたの新進絵師たちが一斉に作画を開始し、市場は一気に群雄割拠の様様を呈し始める。大衆の日常は、いつでもどこでも、手のひらの上で鮮やかな色彩を消費する時代へと突入していた。




