第四章、暗黒期のしがみつき、次なる爆発の予兆
二〇一〇年。絵師たちが次々と消えていく暗黒期のなか、生き残った奥村政信と鳥居清信は、死に物狂いで液晶の光にしがみついていた。
「データが偽物だって言うならよ、人間の手で本物の血を混ぜてやるよ!」
清信は狂ったように画面に向かい、白黒のデジタル線画データに、人間の手作業で「赤」のレイヤーを一枚ずつ重ねて合成していく彩色技術を開発する。それは、印刷技術の限界を逆手に取り、一色ずつ命を吹き込む、泥臭くも新しい表現の夜明けだった。
政信はその赤に, さらに独自のギミックを仕込んだ。
「フッ、ただの赤じゃまだ足りない。まるで漆のような艶やかな黒や光沢をデジタル上で再現するんです。名付けて『漆絵テクスチャ』。これなら、画面から死と性の匂いが引き出せる」
そのドロリとした艶気が画面を侵食するなか、ネット上では男女の心中をテーマにした悲劇的な小説や楽曲が流行し、二人はその退廃的な美を画面に焼き付け続けた。
当然、プラットフォーム側は即座に徹底した取り締まり令を発布。過激な心中表現を繰り返すアカウントは容赦なく凍結されていく。表現の自由が完全に去勢されようとする暗黒の嵐のなか、清信はペンを強く握り直し、政信は不敵に笑う。彼らは、この四角い画面の奥底で、次なる表現の爆発を確実に狙っていた。




