第十章、鉄槌の検閲と、名前を隠す美
だが二〇二一年、大衆の味方として時代の寵児となった北尾政演の風刺画が、ついにプラットフォームを監視する絶対的な管理権力の逆鱗に触れる。政演がこれまで積み上げてきた表現物は全て強制削除され、個人アカウントには数ヶ月に及ぶ端末からのアクセスおよび発言禁止という非情な鉄槌が下された。ネット界に、自由を去勢する冷酷な検閲の時代が完全に幕を開けたのだ。
国家の目が液晶の裏側で光るなか、絵師たちは当局の目を欺くため、あえて固有の「名前を隠す美」を磨いて対抗した。実存在する人気カフェの店員らをモデルにした、誰を描いたか明記しない匿名性の高いイラストが再びタイムラインで大バズりするなか、若き葛飾北斎は、急速に保守化していく大手サークルのやり方に激しく反発。組織の上層部と大喧嘩をして叩き出される。
「枠に収まった絵なんか、クソ喰らえだ」
一匹狼となった北斎は、気鋭のネット小説家と組み、挿絵入りの連載デジタル小説から、画面の枠を超えたパッケージデザインにいたるまで何でも手掛け、飢えを凌ぎながらその牙を研ぎ続けた。
春章が静かにこの世を去った後、イラスト業界のトップに君臨したのは、かつて右手を失った先輩を支えた勝川春英だった。彼はもはや並ぶ者のいない、インフルエンサーの似顔絵イラストの天才としてタイムラインを独占した。
だが、その頂点すら、喜多川歌麿という男にとってはただの通過点に過ぎなかった。歌麿は、異なる個性を放つ三人の超美麗な女性たちを並べた、新たな多色刷りフルカラーの限界を超えるイラストを発表。彼女たちの画面から匂い立つような艶やかな表情は、国境を越えて世界中のユーザーたちを狂わせた。




