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ちび白猫と小さな赤ちゃんと現代ダンジョンへ  作者: 南瓜と北狐


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91 入社式

 ビジネススーツにビジネスメイクをしっかり决めたわたしはMMJの本社兼宇和島工場にきたよ。メイクはかなり上達したと自負してる。もう達人と呼んでいいかもしれないね。

 事務棟の3階講堂に入ると正面には[MMJ入社式ー未来に向けて自由な発想を]と達筆な字の吊り看板がかかっていた。ほうほう。岩本社長が適当に考えてくれたMMJの社名の由来がこんなところにも使われているんだ。[MMJ入社式ーみきメグジョー]だとおかしいもんね。

 講堂の中にはパイプ椅子が並んでいて、100人ほどの新入社員たちは座っていたり、わたしを二度見したり、何人かでかたまって話したりしている。撫子ちゃん発見。今日の撫子ちゃんは、たぬきっぽいタレ目気味のドングリまなこをアイメイクでキリリとさせてる。新入社員仕様かな。パッツン前髪に肩までの艷やかな黒髪はいつも通りだ。


「おはようー、撫子ちゃん」

「おはようですわ、美紀ちゃん」

「海里ちゃんと弟くんの婚約式はどうだった?」

「つつがなく済みましたわ。おめでたいのに、なんだかグヌヌという複雑な感じでしたわ」

「なんとなくわかるよ。わたしの養護院の同期の由美ちゃんと智也がこの春に結婚してね。その時においていかれたみたいな変な感じがしたんだよ」


 撫子ちゃんがなんでMMJの入社式にいるかというと、就活やり直しになった撫子ちゃんに、わたしがMMJはどうかって声をかけたんだ。

 撫子ちゃんは、独立行政法人海外協力機構に内定をもらっていたけど、そこの理事に呼び出されてセクハラされそうになってね。セクハラを断わったら内定を取り消されちゃったんだよ。

 内定を取り消された時、撫子ちゃんはくやしくて泣いてたよ。セクハラ理事は軍閥貴族の天下りで、撫子ちゃんが海外協力機構にどう言ってもどうにもならなかったから、わたしとメグちゃんとジョーちゃんでいろいろ仕返しをしておいたけど。

 その理事は海外協力機構を辞めたし、軍閥貴族でもなくなったはずだから今はどうしてるかな。


「MMJはスマホや空間通信カードを作っている企業なのに思ったより新入社員の数が少ないですわ」

「MMJの生産の中心はフィリピン、タイ、ベトナム、ブラジルだからね。日本で採用されているのは将来の幹部候補や研究開発する人が中心だって」

「美紀ちゃん、詳しいのですわ」


 就活に疲れたわたしは専業探索者になるつもりだったけど、MMJの岩本社長から声がかかったんだよね。去年の日本の新入社員が半分も辞めてしまったから調べてみないかって。岩本社長は冗談まじりだったけど、お世話になってる岩本社長の初めてのお願いだから、わたしはがんばるよ。普通の社会人生活にあこがれもあるからね。

 撫子ちゃんにも任務のことは伝えているよ。


「フッフッフ。任務の一環だからね。わたしもちゃんとリサーチしてきたよ。フィリピンや他の国では毎月月始めに入社の説明会をやっているんだって。国毎に大学の制度や卒業時期も違うそうだよ」

「任務だったのですわ。わたくしも美紀ちゃんの任務を手伝おうと思っていたのですわ」

「ありがとね、撫子ちゃん。頼りにしてるよ。気になったことはなんでも言ってね」

「がんばるのですわ。早速なのですわ。入社式に父兄がきているのは違和感があるのですわ」

「やっぱり変だよねー。みんな当たり前みたいな顔をしているから、わたしの方がおかしいのかと思っていたよ。やっぱり入社式に父兄がきているのはおかしいよね」

「30人くらいいるのですわ」

「父兄席まであるし、なんだかびっくりだよ」


 ◇


 入社式は、フィリピンに行っている岩本社長や役員の動画メッセージがスマホで空中投影されて、宇和島工場長の山梨さんの話を経て、記念品のスマホを配って、つつがなく終了。


「岩本社長や役員の方はみんなフィリピンやベトナムやタイやブラジルに行っているのですわ」

「日本に残っている役員は、社外取締役を除けば山梨工場長だけだって。みんな海外でいそがしくしているからね。MMJは慢性的な人手不足って話だよ」


 岩本社長を始め、鈴木魔機社時代からの人はほとんどがフィリピン他の海外に行っちゃってて、日本に残っているのは、山梨さんたち15人くらいしかいないそうな。スマホの生産はMMJになってから雇った人たちがメインでやっているそうだよ。


「日本で工場を増やさないのですわ?」

「スマホも空間通信カードを日本で作っても、日本から他の国への輸出が承認されないし、日本での販売許可もおりないからね。軍閥貴族がいなくなったから、そのうち変わるかもだけど」

「金髪派閥、滅びればいいのですわ」


 海外協力機構の金髪理事のことがあってから、撫子ちゃんもジョーちゃんみたいなことを言うようになったよ。


「貴族じゃなくなったのはいいけど、まだ軍閥貴族系の財閥や企業がたくさんあるからね」

「クローエアリエル聖樹国に期待するのですわ」


 午後からはMMJの会社や組織の説明があって、その日は終了。わたしは宇和島ダンジョン経由で松高のポップル社のマンションに帰宅したよ。


 ◇


『ただいまー』

「おかえりーなの」

「おかえりーなのです」

「みぃー」『おかえりーにゃの。MMJはどうだったの?』

『入社式をやって、会社の説明を聞いて終わり。大学の入学式みたいな感じだったよ。新入社員の人たちもみんな普通な感じだったね。みんなは今日はどうだった?』

「みぃー」『わたしはパソコン作りにいそがしかったの』

『メグちゃん、お疲れさまー。パソコンももう少しで完成だったよね』


 パソコン作りにいそがしいメグちゃんは、身長20センチの白いちび子猫で、空色の瞳にキラリと光る額の赤い宝石がきれいだよ。ピンクのワンピースが好きでよく着てるけど、今は緑のジャージ姿だね。


「わたしはメル友がもう1人増えたのー」

『お友達が増えたんだー。ジョーちゃん、良かったねー』

「のじゃちゃんなの。おもしろい子なの。エルフさんの娘なのー」

『エルフさん、娘さんいたんだー』


 メル友が増えたジョーちゃんは、身長20センチの小さな小さな金髪黒目の女の子。もうすぐ8歳なんだけど、まだ赤ちゃんに見えるところは、もうすぐ23歳なのに小学生に見えてしまうわたしと同じだね。


「わたしはまた触手じいさんに呼び出されたのです。またお仕事だったのです。木を植えたのです。明日も続きなのです。大変なのです」

『イーちゃん、お疲れさまー。木を植えたっていうと盆栽みたいな感じ?』


 イーちゃんは身長20センチのちび黒猫で金色の瞳をしている。イーちゃんにそっくりな部下みたいなお友達が7億人もいるそうな。もうびっくりだよ。


「そんなかわいいものじゃなかったのです。絶対お仕事のお返しをしてやるのです。逆襲なのです」

「イーちゃん、あきらめた方がいいのー」

「ジョーちゃん、人はそこにプリンがあると食べてしまうものなのです。わたしも触手じいさんにお仕事のお返しをしたくなるものなのです。同じなのです」

「プリンと同じなの? プリンならしかたがないのー」

『同じかなー? そう言えばジョーちゃんに質問があります』

「質問なの? なんでも聞くの」

『今日プリンを何個食べたか教えてほしいなー』

「……9個なのー」

『本当かなー? バケツプリン屋さんから、工場の冷蔵庫が1つ壊れたから明日の予約分は30個に減らしてほしいって伝話がきたよ。今日の分は50個だって聞いたよ。ジョーちゃんの携帯につながらなかったから、わたしの携帯に伝話したんだって』

「しまったの。ここは撤退なの」

『ジョーちゃん、すぐに晩ご飯にするよ』

「撤退は晩ご飯のあとにするの」


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