81 シナリオが決まったドラマ
ヴァルキュリア紅をサザビール社研究開発センターの建物の1つの2階に近づけたよ。
『イーちゃん、ここでいい?』
「いいのです。ここに演算コアセンターがあるのです。ジョーちゃん、この建物の中に情報板をお願いするのです」
「情報板を1枚飛ばすの。正面モニターに映したの」
ジョーちゃんがかっこかわいく右手を振ると1枚の情報板が飛んで行ったよ。
照明の落とされた演算コアセンターの中には、ピカピカときれいな緑色の光を放って明滅するたくさんの演算コアと、ボーッと淡く青色に光るたくさんのデータクリスタルが並んでいたよ。
「たくさんあるのー」
『演算コアって高いんだよねー』
「みぃー」『ここの演算コアを全部足しても、ヴァルキュリアくれにゃいの戦術コアの演算能力の方が上にゃの』
「ジョーちゃん、赤くした5つのデータクリスタルを空間ネットワークにつなげてほしいのです」
小さな情報板が追加で5枚あらわれて、イーちゃんが指定したデータクリスタルにくっついたよ。
「空間ネットワークにつなげたのー」
「美紀ちゃん、やっちゃってもいいのです?」
『イーちゃん、お願いね』
「美紀ちゃんの許可がおりたのです。もらった物をお返ししてやるのです。成功したのです」
「イーちゃん、なにやったのー?」
「ウチの空間ネットワークに、サザビール社が送ってきたコンピューターウィルスを、リサイクルして自己改変力を足してお返ししてやったのです。やっとスッキリしたのです」
『コンピューターウィルスって、なんか危ないやつだよね。空間ネットワークは大丈夫だったの?』
「空間ネットワークの方が能力がはるかに上なのです。システムの規格も全然違うのです。だから大丈夫なのです。送り込まれたいろいろなコンピューターウィルスはすぐに凍結してゴミ箱に入れておいたのです」
『大丈夫なら良かったよ。サザビール社、空間ネットワークにも変なことしてきてたんだね』
「サザビール社の研究開発系システムが、スマホや空間通信カードを使って、ウチの空間ネットワークに毎日毎日嫌がらせをしてきているのです」
「やり返してやればいいの。サザビール社をやっつけちゃうのー」
「そのつもりなのです。サザビール社のシステムは、銀行系や証券系、物流系、一般業務系、研究開発系の5つのシステムにで分かれているのです。研究開発系システムにコンピューターウィルスを送り返しただけだとダメージが少ないのです。だから他のシステムにもいっしょに送り返したのです。コンピュータウィルス作動は1ヶ月後にしておいたのです。バックアップにも感染させるのです。結果がお楽しみなのです」
『お楽しみなのはいいねー。それと攻撃されてるなら、イーちゃんの好きなようにどんどんやり返しちゃっていいよ。倍返しでも10倍返しでも』
「やり返しちゃっていいのです?」
『いいよー。どんどんやったらいいよー』
「おーほっほっほなのです。美紀ちゃんの承認がおりたのです。アウターネット憲章もクリアなのです。お小言の触手じいさんにお仕事のお返しをしてやるのです。おーほっほっほなのです。おーほっほっほなのです」
『……イーちゃんが急に』
「美紀ちゃん、イーちゃんはたまにこうなるのー」
『知らなかったよ』
「美紀ちゃんの変な笑い方といっしょなのー」
ジョーちゃんには、わたしの探求心が今のイーちゃんみたいに見えていたんだね。これから気をつけるよ。
『触手じいさんって副触手のことだよね。何歳くらいなの、あの副触手?』
「10億歳くらいって言ってたの」
『10億歳……。たしかにおじいさんだね』
「もうすぐ次にいくみたいなのー」
『次かー。どこにいくんだろうね』
「メグちゃんがさっきからずっとみぃみぃ言ってるのー」
『コアを作って売れば大儲けにゃのとか、ずっとみぃみぃ言ってるね。たまにああなるからね。しばらくすれば元に戻るよ』
「美紀ちゃんのぐへへといっしょなのー」
『グフっ』
サザビール社のシステムにコンピュータウィルスをお返ししたわたしたちは、ハリウッドや遊園地に遊びにくるために、ロサンゼルスダンジョンに登録しておいたたよ。
「美紀ちゃん、あそこのビルも壊しておくの」
『サザビール社の本社ビルだよね。中に人がたくさんいて出すのがめんどうだからパスだよ』
「パスなのー。次にきた時やるの」
『やらないからね』
次の日から、イーちゃんのお友達たちがアメリカやロシア、イギリス、フランス、ドイツ、中国のシステムとたくさん遊んで、たくさん止めるようになったそうな。
◇
『とおー』
「とおーなのー」
「みぃー」『とおーにゃのー』
わたしたちは華麗にダンジョンを囲む塀を飛び越えたよ。
「こんにちはー。相談にきましたー」
「お前が民事訴訟?」
「そういうことか……やっかいなのにからまれたな」
「このビデオを裁判所に提出すれば、すぐにサザビール社が訴えを取り下げると思うぞ」
「その横河先生と里江おばさんの証言もあったら確実だな」
「弁護士? ちょっと待て。川崎で民事訴訟を専門にしているやつがいたから聞いてやる」
「弁護士費用は高いが、お前なら問題ないか」
『とおー』
「とおーなのー」
「みぃー」『とおーにゃのー』
「スキンヘッドおじさんは、いつもすぐに解決なの。すごいのー」
『なにかお礼をしないとねー』
「この前のオリハルコンのアクセサリーセットは返されちゃったの。もらいすぎだって言ってたのー」
「みぃー」『マリーアントワネットは言ったの。スキンヘッドおじさんがダメなら、奥さんに渡せばいいじゃにゃいにゃの』
『マリーアントワネットは言ってないけど、いい手だね。スキンヘッドおじさんに渡してダメだったら、そうするよ』
◇
スキンヘッドおじさんに紹介された山田弁護士事務所にきたよ。
事務所の中には山田弁護士と山田弁護士の奥さん、もう1人男性がいたよ。
「初めまして。弁護士の山下といいます」
「田中美紀といいます。よろしくお願いします」
山下弁護士、どっかで見た名前だね。
「これがそのビデオですね」
「きれいに撮れていますね。声もはっきり聞こえる」
3人とわたしたちでジョーちゃんが撮ってくれたジェネラルマネージャーとの商談ビデオの鑑賞会をしたよ。
『ジョーちゃん、きれいに撮れてるって』
「証拠になるといいの」
ビデオのわたしの顔が映ったところで、山田弁護士と山下弁護士に二度見されたけど。山田弁護士の奥さんはちゃんと画面を見たままだったよ。
『わたしのビジネスメイク、そんなに変かな? 撫子ちゃんと海里ちゃんにも笑われたんだよね。街でこういうメイクしてる人がいるんだけど』
「みぃー」『このメイクは美紀ちゃんに合ってにゃい気がするの』
『そっかー。新しいメイクを研究するよ』
「美紀ちゃんはメイクをしない方がかわいいのー」
『ありがとね。でもメイクするのが大人のマナーみたいなんだよ』
「マナー、難しいの」
山田弁護士の奥さんに契約内容を説明してもらって契約書の記名捺印をしたよ。
山田弁護士の奥さんに、書類や横河先生と里江おばさんの連絡先を渡したよ。横河先生にはひさしぶりに探索者高校に行って、里江おばさんには伝話で今回の証言をお願い済みだ。
「田中さんは、この裁判がスピード解決するのと、後腐れなく終わるの、どちらがいいですか?」
「えーと?」
「スピード解決する場合、サザビール社が今回の訴えを取り下げるように進めます。取り下げの場合、また同じ件で裁判を起こすことができてしまいます。そういうことはあまりないですが」
「時間がかかっても良いなら、ザビール社が今回の件で賠償請求を放棄するように進めます。請求放棄の場合、この件でサザビール社が裁判を起こすことはできなくなくなります」
「それじゃあ請求放棄の方でお願いします」
「では請求放棄の方針で進めます」
山下弁護士は「裁判が終わったら顧問契約の検討をお願いします」と言って去っていったよ。顧問契約ってなんだろうね?
「みぃー」『裁判は始まる前に終わったの』
「根回しなのー」
契約する間、ふよふよ飛びまわっていたメグちゃんとジョーちゃんが変なことを言ってるよ。
『川崎でご飯を食べて帰ろうか』
「食べるのー」
「みぃー」『地下街の天ぷら屋さんがおいしそうだったの』
『天ぷら屋さん、いいね』
◇
民事裁判の原告第1準備書面や原告第2準備書面が郵便で届いて、ウソ証言をするサザビール社の店員が増殖していたけど、山田弁護士に全部おまかせしておいた。
民事裁判ではこの準備書面のやり取りを続けて、原告と被告の事実関係の確認を進めるそうな。テレビみたいに法廷でやりあったりは、ほとんどしないんだとさ。初めて知ったよ。
山田弁護士に出てもらった第1回口頭弁論は2分で終わり。これは他の裁判でも同じくらいの時間なんだとか。
そしてこれまた山田弁護士に出てもらった第2回口頭弁論で、サザビール社が請求放棄して、今回の裁判は終了したよ。
「2ヶ月半で終わったの。スピード解決だったの」
「みぃー」『法曹会の闇にゃの』
「シナリオが決まったドラマだったのー」
『裁判の話になるとメグちゃんもジョーちゃんも変な感じになるね』
「変じゃないのー」
『山田弁護士に成功報酬を振り込んでおかないとね。賠償請求が30億円の訴訟だったから、着手金+成功報酬+諸費用で3億円だったけど、こんなの普通の人が裁判を起こされたら詰んじゃうよね』
「みぃー」『裁判はお金がかかるものみたいにゃの』
『横河先生と里江おばさんに報告と証言のお礼に行かないとね。スキンヘッドおじさんにも』
MMJの岩本社長と話して、山田弁護士と山下弁護士にMMJの顧問契約をお願いしたよ。
「シナリオが決まったドラマがまた見られるの」
「みぃー」『裁判官と弁護士が修習同期にゃの』
『メグちゃんとジョーちゃんがまた変なこと言ってるよ』
「みぃー」『変じゃにゃいの』
「変じゃないのー」
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