8 初買い取り
ゾンビを攻撃しながら歩いていると、目の前を何かが通っていったよ。
「えっ! なに?」
「だーあー」
「みぃー」『矢にゃの。美紀ちゃんが罠を踏んじゃったの。罠から発射されたの』
下を見ると矢が転がっているね。上を見ると穴が見えるよ。あれが矢の発射口だね。
『あぶな! 罠、全然気づかなかったよ。どの罠に引っ掛かったの?』
「みぃー」『ジョーちゃん、美紀ちゃんの顔の前に透明な情報板を1枚出して美紀ちゃんの動きに合わせて動かすの』
「だー」
「みぃー」『ジョーちゃん、ありがとう。完璧にゃの』
『透明な情報板! 情報板って色を変えられたんだ!』
「みぃー」『罠の場所が赤く見えるの。アドバイスさんに頼んだから、どうやってるかわからにゃいの』
『見えたよ。赤く見えるこれが罠だね。見てもわからなかったよ。メグちゃんもジョーちゃんも、ありがとね』
ゾンビを攻撃しながら歩き続けて、奥の方まできたら、ゾンビの中に弓を撃つゾンビが混ざってきたよ。なんとかよけたけど。なんでゾンビが矢を撃ってくるのさ。さすがにおかしいよね。魔物学の授業でもそんな話はなかったよ。
矢ゾンビが増えてきて、矢の本数が増えてきたよ。仲間のゾンビが前にいてもお構いなし。ライトアローで矢を撃墜したり、よけたり、籠手でそらしたりしているけど、追いつかなくなってきたよ。
〈ゾンビ攻撃〉〈矢を攻撃〉〈矢を攻撃〉・・・
「みぃー」『ジョーちゃん、情報板を1枚出ちて、このファイアーボールの魔法陣を刻印するの』
「だーあ」
「みぃー」『ジョーちゃん、バッチリにゃの。美紀ちゃん、ファイアーボールを発射する時に、途中で分裂ちて、分裂したのが矢を追いかけるイメージで撃つの。やってみるの』
『アニメで見たことがあるよ。クラスターミサイルがたくさんの子ミサイルに分裂して、子ミサイルが敵を追いかけて当たっていくの』
〈ゾンビ攻撃〉・・・
〈矢群をクラスターミサイルで迎撃〉
情報板からミサイル形状のファイアボールが飛んでいって、空中で子ミサイルに分裂したよ。それぞれの子ミサイルが矢を追尾して、全部撃ち落とした!
『ライトアローよりファイアーボールの方が、矢を撃ち落とすのが楽だね。メグちゃんもジョーちゃんも、またありがとね』
「まーう」
「みぃー」『ぶっつけ本番で成功ちて良かったの。でもゾンビが矢を撃ってくるのは変にゃの』
『だよねー。わたしの知ってるゾンビと全然違うよ。ゾンビが集団で矢を撃ってくるなんて想定外だったよ』
ゾンビにライトアロー攻撃したり、魔石や魔核を拾ったり、魔石や魔核をあきらめたりしながら歩くこと50分、2階層に続くモノリスを見つけて、赤い四角マークに華麗にタッチしたよ。
◇
2階層の入口ホールに魔物はいなかったよ。2階層の入口ホールは1階層の入口ホールと同じ構造、広さだ。どこのダンジョンも階層の入口ホールはこんな感じらしいね。10階層毎のゲートキーパーがいる階層には出口のところに大きな扉がついてるそうだけど。
わたしは座りこんでひと休みだ。リュックからペットボトルに入れてきた水を出して水分補給。甘い物が欲しくなったけど、差し入れでもらったクリームパンは今日のお昼ご飯予定だから、どうしようかな? 食べちゃおうか? いや、まだダメだ。鼻ティッシュだし、このニオイの中で食べてもせっかくのおいしいクリームパンが……
「みぃー」『ゾンビの数もゾンビの行動もおかちかったの』
『ゾンビ多すぎだよね。メグちゃんとジョーちゃんがいなかったら、わたし死んじゃってたよ。魔石と魔核を拾うのを結構諦めたのに、もうリュックがいっぱいになってるし』
「みぃー」『1階層のゾンビたちは小走りくらいの早さだったの。このダンジョンおかちいの』
「まーうー」
『だよねー。小学6年の時にゾンビの氾濫のニュースを見たけど、その時は足をズルズル引きずってノロノロ歩く感じだったよ。手の動きもユラーって感じで遅かったし』
「あーうー」
わたしとメグちゃんはモノリスの裏側にまわって、真ん中の黄色い6つのマークを確認だ。やっぱり1階層の物と同じだね。ジョーちゃんはまたモノリスをペチペチして遊んでるよ。
『上上下下左右左右丸四角と。2階層も登録できたみたい』
わたしの前に、白く光る文字で[1階][2階]と表示されたよ。
『メグちゃんやジョーちゃんも登録しておいたら?』
「みぃー」『登録するなら本体を出さないといけないの。やめておくの』
「あーうー」
『そっかー。それじゃあ転移を試してみるね』
〈1階に転移〉
1階に転移と念じると、1階の文字が赤く点滅して表示が[1階に転移しますか? はい いいえ]に変わったよ。もちろん〈はい〉だ。
目の前から赤く点滅する文字が消えて、わたしは入口ホールに立っていたよ。背後には大きなモノリスがドンとある。
『1階層に転移できてるかな?』
「みぃー」『できているの。転移成功にゃの』
『アドバイスさん情報に感謝だね。メグちゃんも教えてくれて感謝だよ。もちろんお手伝いしてくれているジョーちゃんもね』
「きゃーうー」
「みぃー」『ふっふっふーにゃの』
『一度外に出て、魔石と魔核を売ってくるよ。リュックがいっぱいだからね』
わたしたちはモノリスの青い四角マークに魔力を流して、ダンジョンの初探索を終えたよ。
またすぐにダンジョンに戻ってくるけどね。
◇
『きれいな青空だ。外の空気はおいしいね。でも暑いよ。夏の暑さが戻ってきたよ』
「みぃー」『アバターはカメラに写っちゃうから、わたちたちも本体に戻るの』
「あーうー」
『それがあったね』
わたしには本体とアバターが入れ替わっても見分けがつかない……って、メグちゃんとジョーちゃんが顔をしかめて、すごい勢いでわたしから離れていった。鼻を押えているよ。
「だーー」
「みゃーー」『くさーーにゃの。美紀ちゃん、くさーーにゃの』
『わたしショックを受けたよ。2人とも華麗な乙女に言うことじゃないからね』
「みぃー」『ジョーちゃん、浄化の魔法陣にゃの。情報板に刻印するの』
「だー」
「みぃー」『美紀ちゃん、それを使うの。ダンジョンのニオイがついてるの』
ニオイの大元は魔石と魔核だった。鼻ティッシュと鼻がバカになっているせいで、ニオイに気づかなかったよ。わたしや装備もほのかにかおっているそうな。
浄化の魔法陣は、1回だけだとダメ出しされて3回も使ったよ。浄化の魔法陣は、乙女の必須アイテムだね。あとで教えてもらわないと。
暑いから装備も外したよ。ダンジョンと外の気温差が大きいと大変だね。
◇
「こんにちはー。買い取りお願いしまーす」
わたしたちが探索者協会の出張所に行くと、スキンヘッドおじさんが、銀色のフルプレートアーマーをつけていたよ。カタログで見たけどミスリル製でメッチャお高いやつだ。あんなの持っている人が本当にいたんだ。背中には大きな剣を背負っている。ジョーちゃんがぴゅーっと飛んで見に行ったよ。めずらしいもんね。
「今からダンジョンですか?」
「……ひさしぶりに装備してみただけだ。お前は初めてのダンジョンは大丈夫だったか?」
「ゾンビが多くてびっくりしました。あんなにたくさんいるんですね。ゾンビのニオイで鼻がバカになっちゃいましたよ」
「そうか……うちは小さいから自動精算機は置いてないんだ。計量器を使うから、探索者免許を出してそこに入れてくれ」
リュックから計量器の箱にザバァーと流し込んだ結果がこれ。「今度から魔石と魔核は分けて持ってこい」って注意されたけどね。アンデッドの魔核は使い途がなくて需要も少ないから買い取り価格が安いんだって。
レベル5魔石 227個×500円=11万3500円
レベル5アンデッド魔核 103個×50円=5150円
計11万8650円
探索者税20%、協会手数料5%を引かれて8万8987円
いきなり大金持ちだ。1万円だけ現金でもらってお財布に。残りは探索者銀行の口座に。
◇
ダンジョン前でクリームパンのあまうま幸せもぐもぐタイムを過ごしたわたしは、また死闘に身を投じるよ。
「メグちゃん、ジョーちゃん、もうひと狩りいくよ。今度は魔石だけ拾うよ」
「だー」
「みぃー」『行くの! 大金持ちにゃの!』
『ふーふっふっふ。メグちゃんもお金の魅力に取り憑かれてしまったみたいだね』
「みぃー」『8万9000円もすごいの』
『メグちゃんもジョーちゃんもこのお金で好きな物を買っていいよ。わたしもバザーで組み紐を作ってお金をもらった時は本当にうれしかったもんね』
ジョーちゃんはあまりわかってなさそうな感じだね。今日の帰りにわたしオススメの100円ショップを見せてあげよう。それともおもちゃ売り場の方がいいかな。
駄菓子コーナーで養護院のみんなに初ダンジョン記念のお土産を買って帰るのもいいね。今度はわたしが差し入れをする番だ! 見てろよ、ちびっこたち、わたしの財力を。
「みゃーー」『刮目してみるの。必殺影うつちみの術にゃのーーー!』
「だーー」
ジョーちゃんがメグちゃんのところに飛んで行ってタカのポーズ。メグちゃんは太の字ポーズ。後ろが爆発、煙がモクモクだ。またやるんだね、アバターに代わる時の必殺技。一度見たせいか今度はお遊戯会を見ているようなかわいさを感じるよ。わたしはまたパチパチ拍手だ。2人ともがんばれーー。
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