7 初戦闘
わたしは鼻にティッシュを詰めて、ダンジョンの中に立っていた。わたしの背後にはモノリスがそびえ立っている。メグちゃんとジョーちゃんは情報板領域の中で、メグアバターとジョーアバターを操作しているよ。やっぱり本物と見分けがつかないね。
入口ホールは灰色の石造りの広い部屋になっている。天井も高いね。3階建ての中学校の校舎くらいの高さだ。天井全体が光っていて明るい。晩ご飯を食べている時の養護院の食堂くらいの明るさだ。この入口ホールはダンジョンの各階層毎にあって、入口ホールには、魔物氾濫の時以外は魔物が入ってこないから安全なんだって。ダンジョン学の授業で習ったよ。
島屋ダンジョンの気温は約15℃。外の暑さとはうってかわってダンジョンの中は肌寒いくらいだね。待ちにまったお楽しみのダンジョンデビューだ。これからわたしたちの華麗な冒険が始まるよ。
『鼻ティッシュも、あまり効かないね』
「みぃー」『効かないの?』
「あーうー」
『息をしてたらニオイがきちゃうね。さっきよりはマシだから、ダンジョン探索はちゃんとできるよ』
「みぃー」『浄化の魔法陣をアドバイスさんがおちえてくれたの。でも効果が数秒にゃの。このアンデッドダンジョンには対応できにゃいの。密閉型魔道甲冑にゃら、ニオイもシャットアウトにゃの』
『密閉型魔道甲冑かー。市販の魔道甲冑は開放型だから、どっかの研究所か軍くらいしか持ってないと思うよ』
「みぃー」『隣の基地から、ちょっと借りてくればいいの』
『捕まってダンジョンどころじゃなくなっちゃうよ』
「むーあー」
わたしは周囲を油断なく見回す。石造りの大きなホールになっていて魔物の姿はないね。まずはアレをやっておかないとね。
わたしとメグちゃんはモノリスの裏側にまわって、真ん中の黄色い6つのマークを確認したよ。上三角、下三角、左三角、右三角、丸、四角だ。ジョーちゃんはモノリスをペチペチして遊んでいるね。
『成功したら大発見だね』
「みぃー」『アドバイスさん情報にゃの。登録ちた階層に転移できれば、レベル上げも楽ににゃるの。この情報はわたちたちだからおちえてくれたの。軍事組織には絶対に知られにゃいようにするの。他の人におちえる時は伝達禁止の魔法契約が必須にゃの。それでも100人以上の人間が階層転移機能を使っていると、機能が変更されて使えなくなる可能性が高いそうにゃの』
『100人だと使っているところを見られるのもダメそう。佳代ねえや清美ちゃんたちには教えたかったけどダメかー』
「みぃー」『軍学校は軍事組織にゃの。清美ちゃんたちもたぶん軍学校に行くの。おちえるのきんちにゃの』
『教えようと思っても魔法契約の用紙は高くて買えないよ』
「みぃー」『買えなければ作ればいいの。美紀ちゃんの刻印魔法で簡単に作れるの。材料は魔紙とエルダートレントの魔核があればいいの』
『エルダートレントってめっちゃ強いやつだよね』
「みぃー」『このちまやダンジョンにもエルダートレントの亜種がいるの。お楽ちみにゃの』
『お楽しみかー。楽に倒せたらいいけどね。それじゃあやってみるね』
『上三角、上三角、下三角、下三角、左三角、右三角、左三角、右三角、丸、四角と!』
6つの黄色マークに魔力を流しながら順番にふれると、わたしの前に、白く光る[1階]の文字が浮かんでいたよ。
『1階という字がわたしの前に表示されたよ。登録できたみたい。日本語なところが不思議だね』
「みぃ」『その数字は本人ちか見えないの。その人の使っている言語で表示される親切設計にゃの。次は2階層で転移をためちてみるの』
◇
わたしたちはダンジョンを探索するために1階層の入口ホールを一歩出てみたよ。初ダンジョンだ。人類にとっては小さな一歩でもわたしたちには大きな一歩だね。メグちゃんとジョーちゃんにはわたしの肩の上にいてもらってるよ。誤射の危険があるからね。
『第1魔物発見』
「まーうー」
さっそく魔物発見。ゾンビがこっちにスタスタと歩いてきているよ。わたしの小走りくらいのスピードだ。思っていたより動きが早いね。ゾンビは脚を引きずってノロノロ歩いているイメージがあったのに。
ジョーちゃんの興奮した声が聞こえるよ。ゾンビの姿を見ても大丈夫みたいだね。わたしの肩をフミフミしてるよ。
〈ゾンビの頭を攻撃〉
ゾンビの頭に光初級魔法のライトアローが当たるとゾンビは光になって消えて、魔石と魔核が残ったよ。こうして緊張感あふれる初戦闘が終わった。
わたしが周囲を警戒していると、メグちゃんとジョーちゃんが魔石と魔核を拾ってきてくれたよ。助かるね。
『メグちゃん、ジョーちゃん、お手伝いありがとね。助かるよ』
「うーあー」
「みぃー」『ふふふーにゃの』
魔石と魔核は、愛用のリュックの横につけている袋にポイッだ。袋がいっぱいになったら、リュック移すよ。
メグちゃんの案内で2階層に向かう。ゾンビとの遭遇はもう30体を超えたよ。
『ゾンビ多いね。なんでこんなに』
「みぃー」『たぶん誰も討伐にきてにゃいの。魔物がたまってるの。もちかちたら氾濫の一歩手前かもちれないの』
『軍も年1回しか来ないって言ってたね。外にこんなのが溢れたら、パンデミックだよ。アメリカのゾンビ映画で見たよ』
「みぃー」『周りからどんどん集まってるの』
〈左ゾンビ攻撃〉〈右ゾンビ攻撃〉〈中央ゾンビ攻撃〉・・・
『ゾンビが多すぎて魔石と魔核を拾えないくらいだね。メグちゃんもジョーちゃんもゾンビがたくさんきてるから、お手伝いはあとで大丈夫だよ。わたしの頭のところにいてね』
「だー」
「みぃー」『美紀ちゃん、うちろの左の道から16体近づいてきてるの』
『前ももっときてるよ』
「みぃー」『ジョーちゃん、情報板を2枚出すの。1枚にライトアローの魔法陣を刻印して、うちろにまわすの。もう1枚にはわたちが、うちろの映像を表示するの』
「だーうー」
「みぃー」『美紀ちゃん、うちろにライトアローの魔法陣を出ちたの。うちろの映像を見にゃがら、うちろも攻撃するの』
『ありがとう。これでいけるかな』
〈後方左ゾンビ攻撃〉〈後方右ゾンビ攻撃〉〈後方中央ゾンビ攻撃〉〈後方左ゾンビ攻撃〉〈後方右ゾンビ攻撃〉〈後方中央ゾンビ攻撃〉〈後方左ゾンビ攻撃〉〈後方右ゾンビ攻撃〉〈後方中央ゾンビ攻撃〉〈後方左ゾンビ攻撃〉〈後方右ゾンビ攻撃〉〈後方中央ゾンビ攻撃〉〈左ゾンビ攻撃〉〈右ゾンビ攻撃〉〈中央ゾンビ攻撃〉〈左ゾンビ攻撃〉〈右ゾンビ攻撃〉〈中央ゾンビ攻撃〉〈左ゾンビ攻撃〉〈右ゾンビ攻撃〉〈中央ゾンビ攻撃〉〈左ゾンビ攻撃〉〈右ゾンビ攻撃〉〈中央ゾンビ攻撃〉・・・
「みぃー」『まずいの。倒すのが追いつかないの。横にきちゃったの』
「だあーー」
わたし死んじゃうかも。周り全部ゾンビに囲まれちゃったよ。攻撃が追いつかない。やっぱり戦いは数だったんだ。
ジョーちゃんが右のゾンビに体当たりしたら、ゾンビが溶けるように消えた。なに? なんなの? ジョーちゃんが飛んでいる右側のゾンビが次々と溶けて消えていくよ。メグちゃんも左のゾンビたちに次々と体当たりをして消してくれてる。
わたしは前と後ろのゾンビたちに専念すれば、大丈夫みたい。
〈後方左ゾンビ攻撃〉〈後方右ゾンビ攻撃〉〈後方中央ゾンビ攻撃〉〈左ゾンビ攻撃〉〈右ゾンビ攻撃〉〈中央ゾンビ攻撃〉・・・
『なんとかゾンビ大襲来がおさまったね。メグちゃん、ジョーちゃん、助けてくれて本当にありがとう。もう少しで死んじゃうところだったよ』
「うーあー」
「みぃー」『ゾンビたちがもうすこちで美紀ちゃんを掴むところだったの。ギリギリセーフだったの。ジョーちゃんが大活躍だったの』
「まーうー」
『そうだね。体当たりした時はびっくりしたよ、って話している間にゾンビがきたよ』
〈ゾンビ攻撃〉〈ゾンビ攻撃〉・・・
『ゾンビがこんなにくると魔石も魔核も拾えないね。ほうきで掃いて集めた方が早いくらい転がってるし』
「みぃー」『どんどん周りから集まってきてるの』
〈ゾンビ攻撃〉〈ゾンビ攻撃〉・・・
『全部拾うの無理だね。拾える物だけ拾って、あとはあきらめた方がいいね』
「あーうー」
「みぃー」『そうちた方がいいの。止まったらゾンビに囲まれるの』
〈ゾンビ攻撃〉〈ゾンビ攻撃〉・・・
メグちゃんの案内で2階向かって歩きながら、さっきの体当たり攻撃のことをメグちゃんに聞いてみたよ。
「みぃー」『えーと、アドバイスさんの説明がたくさん書かれているの。読んでみるの。ダンジョンの魔物は、魔力でできているの。魔核の構成情報をもとに魔力が形ににゃってるの。だからダンジョンの魔物を倒すと魔核と魔石だけが残るの』
「みぃー」『アバターが、ゾンビに当たったの。その時にアバターの高密度魔素が、ゾンビの低密度魔素の魔素体殻をこわちたの。そこからゾンビの魔素体に高密度魔素がちんとうちたの』
「みぃー」『ちんとうした魔素で、ゾンビのちんたい構成情報が4割くらい壊れたの。魔核の構成情報は3割くらい壊れたの。それでゾンビの魔素体は構成を維持できなくて自壊ちたの。アドバイスさんの説明はこれで全部にゃの』
わたしはなんとなくわかったような気になって、フンフンとうなづいてみたよ。立ち止まらずに、ゾンビへの攻撃も忘れずにね。
「みぃー」『アドバイスさんの追加説明がきたの。魔素密度を見ると、アバターの体当たりで倒せるのはレベル20くらいまでの魔物にゃの。アバターの体当たりで魔物を倒すと、魔核も魔石も壊れて何も残らないの。美紀ちゃんのレベルも上がらにゃいの』
『ありがとう。体当たり攻撃だと、魔石も魔核も残らないしレベルも上がらないんだね。それなら、わたしがピンチの時に助けてくれるヒーローに、メグちゃんとジョーちゃんがなってくれるといいね。戦闘の不安もなくなるよ』
「だーうー」
「みぃー」『まかせるの。美紀ちゃんのヒーローににゃるの』
『メグちゃんもジョーちゃんもありがとう。お願いするね』
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