70 ヴァルキュリア紅、緊急発進
「解答やめ。鉛筆や消しゴムを置いて問題冊子を閉じてください」
大学共通テストの試験室に、午前の試験時間終了を知らせる試験監督の声が響いたよ。
『解答は全部うめたし、見直しもした。たぶんいい点がとれているはず』
メグちゃんがピューって飛んできたよ。どうしたんだろうね?
「みぃー」『美紀ちゃん、大変にゃのー! 中国軍の艦隊が沖縄本島に攻めてきてるの!』
『……うそ……ほんとに……』
「みぃー」『本当にゃの。中国が10時に日本に宣戦布告したの。東シナ海で軍事演習していた艦隊がそのまま沖縄本島にきてるの。沖縄のテレビ局が中国軍艦隊が近づいてるのを中継してるの。あと30分くらいで上陸してくるの。美紀ちゃんの携帯伝話に清美ちゃんと由美ちゃんから「ごめん、遊びに行けなくなった」の留守番伝話がきたの』
『…………』
「みぃー」『美紀ちゃん! 美紀ちゃん! 聞こえてるの』
『……メグちゃん、ごめんね。聞こえてるよ……。帝国海軍はどうしてるか、わかる?』
「みぃー」『みんな対馬の北朝鮮の方に行ってて沖縄にいないの』
『……そっかー……帝国空軍はどうかな?』
「みぃー」『わからないの。中国軍に何機か落とされたみたいにゃの』
『……そっかー……』
わたしが子供の頃に、転んで泣いてるわたしを清美ちゃんが手当てしてくれたり、ピーマンが食べれなくて困っていたわたしを由美ちゃんが助けてくれたり、ゲームで負けてべそをかいていたわたしを2人で励ましてくれたり、テレビのチャンネル争いで負けてしょげていたわたしにチャンネルを譲ってくれたり、宿敵に襲われて泣いてるわたしを守ってくれたりしたことが脳裏に浮かんだよ。
清美ちゃんと由美ちゃんの楽しそうに笑う姿、怒る姿、泣く姿、小さかった頃の姿、小学生に入学した姿、卒業した姿、軍学校に合格して喜んでいた姿。
清美ちゃんも由美ちゃんも小さな頃からずっといっしょにいた家族だ。大切な大切な家族だ。このままなんて絶対ダメだ。
「受験者のみなさん、試験室からの退出が可能となりました。次の数学1は12時45分までに試験室に入室してください。試験開始時間は13時です」
「みぃー」『美紀ちゃん! 美紀ちゃん! 聞こえてるの?』
『……ごめん……ジョーちゃんは?』
「みぃー」『沖縄北ダンジョンに先に行ってるの。様子を見てくれてるの。スキンヘッドおじさんや奥さんや娘さんたちも心配だって』
『メグちゃん。わたし、清美ちゃんや由美ちゃんを助けたい。スキンヘッドおじさんたちも助けたい。でもわたしひとりだとヴァルキュリア紅を動かせないの。今日は中国軍をつぶしちゃうと思う。それでもメグちゃんとジョーちゃんに手伝ってもらいたいの』
「みぃー」『まかせるの。攻めてきた方が悪いの。いっしょに中国軍をぷちっとつぶしちゃうの』
『ごめんね』
「みぃー」『ごめんじゃにゃいの。ありがとうにゃの』
『ありがとう、メグちゃん。ジョーちゃんも待ってるね』
「みぃー」『すぐに行ってあげるの』
『認識変換魔法、隠密魔法、二重起動。廊下の広いところで転移するよ』
わたしは試験室を飛び出した。歩いている人が多い。もういいや。
『メグちゃん、このまま転移するよ。つかまって』
「みぃー」『つかまったの』
『レギオン転移!』
◇
「美紀ちゃーん、大変なのー。中国軍がきてるのー。あと15分くらいなのー」
『ジョーちゃん、偵察ありがとね。メグちゃんに聞いたよ。スキンヘッドおじさんは?』
「奥さんといっしょなの。優子ちゃんたちの小学校に避難したのー」
『スキンヘッドおじさんは大丈夫そうだね。ジョーちゃん、お願いがあるの』
「お願いなの?」
『わたし、清美ちゃんや由美ちゃんやスキンヘッドおじさんたちを助けたいの。だから攻めてきている中国軍をつぶすの。でも、わたしひとりだとヴァルキュリア紅を動かせないの。だから手伝ってほしいの。小さいジョーちゃんにこんなこと、ごめんね』
「まかせるの。わたしも美紀ちゃんといっしょに中国軍を倒すつもりだったの」
『ありがとう、ジョーちゃん』
「美紀ちゃん、ヴァルキュリア紅に乗るの。かっこいいポーズなの」
『カッコいいポーズは今日はパスしたいかな』
「みぃー」『美紀ちゃん、こんな時だからいつも通り、練習した通りにやるの。美紀ちゃん、ずっとにゃきそうな顔ににゃってるの』
『そうだね。いつも通りやらないとね』
『メテオシャワーメークアップ』
「みぃーうみぅーみぃみゃーみぃー」
「メテオシャワーメークアップなのー」
わたしたちは赤くきらめくヴァルキュリア紅に乗り込んだよ。
「みぃー」『空気清浄化システム、エアコンシステム作動にゃのー』
「情報板、展開なのー。全周モニター、外の映像を表示なのー。隠密魔法、認識阻害魔法作動なのー」
「みぃー」『情報板に戦術情報を載せたの』
「システム、オールグリーンなのー」
『動作チェック完了。全て良好』
「みぃー」『ヴァルキュリアくれにゃい、発進にゃのー』
「発進なのー」
『ヴァルキュリア紅、発進』
沖縄北ダンジョンから飛び出したわたしたちは空に上がったよ
『メグちゃん、ジョーちゃんに子供制限モード適用』
「みぃー」『子供制限モード、適用したの』
『総員、戦闘準備! 目標、沖縄侵攻の中国軍』
わたしは右手を振ってキーワードを宣言。
「索敵レーダー、アクティブモードで、起動なのー」
索敵レーダーに表示された中国軍は、空母1隻、駆逐艦25隻、強襲揚陸艦38隻、フリゲート艦32隻、コルベット艦41隻、戦闘機51機の大きな大きな艦隊だった。
「みぃー」『アウターネットの討伐申請却下にゃのー』
「却下なの?」
『…………』
「みぃー」『再申請するの』
「帝国空軍の戦闘機、1機落ちたのー。中国軍戦闘機51機、帝国空軍9機なのー」
「みぃー」『再却下にゃの。アウターネット憲章違反にゃの?』
『……ダメそう?』
「帝国空軍3機落ちたのー。残り6機なのー」
「中国軍艦隊からミサイル一斉発射なのー。数は60発なのー。陸軍基地や他5箇所に着弾なのー」
「みぃー」『アドバイスさんに聞いてみ……アドバイスさん権限によりヴァルキュリアくれにゃいの戦闘行動を全て承認にゃの。アドバイスさんのお願いにゃの。同種族の戦闘行為に他種族を極力まきこまないようにすることにゃの』
『わかった。できる限りまきこまないようにする。アドバイスさんにお礼を言っておいてもらえる。お願い』
「帝国空軍機6機落ちたのー。全滅なのー」
「みぃー」『お礼を言っておいたの』
『いくよ。戦術コア起動ー。オールウエポンフリー』
「みぃー」『思考加速システム、起動なのー』
「戦術コア起動確認なのー」
「みぃー」『アウターネットから地形建物情報ダウンロード、情報板にうつすのー』
『戦術コア攻撃方法シミュレート。他種族への影響』
「他種族への影響ほぼゼロなのー」
『魔導砲連続斉射モード1枚展開』
「情報板1枚展開なのー」
『防御システム起動』
「防御システム起動したのー」
『高度ゼロメートル、予定砲撃位置に移動』
『戦術コア、攻撃目標、中国軍艦船全数および中国軍航空機全数。連続斉射攻撃の射角、仰角制限。優先事項、他種族への影響を極力なくす』
「みぃー」『射角制限、仰角制限確認にゃのー。沖縄本島ヘの影響もにゃいの』
『総員、耐ショック耐閃光防御用意』
「みぃー」『準備OKにゃの』
「準備OKなの」
〈魔導砲連続斉射。水平移動。垂直移動。中国軍戦闘機追尾〉
1枚の情報板から、まばゆい白く太い光が出て中国艦隊を貫いて空に伸びていったよ。光が動いた跡には中国軍は残っていなかった。
〈魔導砲斉射停止〉
「目標全数クリアなのー」
『索敵。海上の中国軍艦船および中国軍機』
「海上の敵影なしなのー」
『もう大丈夫かな』
「みぃー」『またくるかもしれないの』
『あとで何か考えないとね』
「みぃー」『わたしも考えるの』
「わたしもー」
『魔導砲収納』
「情報板1枚収納したのー」
『メグちゃん、ジョーちゃん、アドバイスさん、ありがとう。みんなのおかげで清美ちゃんたちを助けられたよ』
「えへへなの。助けられて良かったのー」
「みぃー」『ふふふーにゃの。それより美紀ちゃん、共通テストに戻らなくていいの』
『もう13時5分だよ。数学のテスト始まっちゃってるよ』
「みぃー」『テスト開始から20分間までの遅刻はテストを受けられるの。13時20分までに行けば大丈夫にゃの』
『マジで?』
「みぃー」『マジにゃの。早く行くの』
『急ぐのー』
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