60 みきメグジョーで社名はMMJ
『鈴木魔機社の株主通信の郵便がきてたよ。今期の配当は無配になったからごめんなさいみたいな感じの手紙と株主総会や株の流動性とかいろいろ』
「みぃー」『やっぱり無配にゃの』
『ふっふっふー。無配でもいいんだ。わたしの株の買い値平均が、今の株価の1.1倍になったからね。前の10倍とくらべると気分も違うよ。ナンピン作戦大成功』
「みぃー」『まだにゃンピン作戦続けるの?』
『この分ならあと少しで損失がなくなるんだよね。最近は誰も売ってくれないけど。ずっと買い指値注文を出しているのに、株の売買数がゼロの日まであるんだって。証券会社の人は信用売りもなくなったとか言ってたよ』
「みぃー」『信用売り……わかったの。誰も株を売れる人がいにゃくにゃったそうにゃの』
『わたしが65%で筆頭株主になったんだって。一番だよ』
「みぃー」『それはすごいの。びっくりにゃの』
「いちばんなのー。すごいのー。わたしももっとかうのー」
次の日、鈴木魔機社の社長から、お話をしたいから都合のいい日を連絡してほしいっていう郵便が届いていたよ。
スキンヘッドおじさんに相談してみよう。
◇
今日は鈴木魔機社の社長さんとお話の日だよ。場所は松高のイベントホールのレンタルルーム。
スキンヘッドおじさんが「お前だけだと相手になめられる」と言ってついてきてくれることになった。沖縄にお迎えに行ってアイテムボックスで連れてきたよ。またお礼をしないとね。
「伊集院と言います。よろしくお願いします。こちらの田中さんの後見のようなことをやっています。今日は見届け役として参加します。とくに話に参加する予定はありません」
『ひさびさの笑顔スキンヘッドおじさんだね』
「みぃー」『見慣れないから笑顔がうさんくさく見えるの』
岩本社長は30歳のスーツ姿のおじさんで、若社長さんだねとなんだか納得できる風貌の人だった。
わたしは高校の制服できたよ。ビジネススーツをビシッと着こなしたかったけど、わたしに合うサイズがなかったんだ。
鈴木魔機社とのお話は世間話から始まったよ。小学校低学年と幼稚園の娘さんがいるそうな。
「弊社は私の祖父が作った会社で、亡くなった父から私が受け継ぎました。私は大学卒業後に入社しました。会社には私が小さな頃からの顔見知りも多いのです」
『ほうほう。生粋の鈴木魔機社人間だー』
「みぃー」『創業者一族なの』
「ご承知の通り、弊社は軍用魔道甲冑の贈収賄で来年1月まで入札停止処分を受けました。その際に陸軍からの発注は全てキャンセルされ、メンテナンス契約も破棄されました。来年1月の処分解除以降も陸軍からの発注は望めません」
「岩本社長、来年1月からもですか?」
「弊社は陸軍のある派閥と関係が深かったのです。その派閥が失脚して貴族籍を剥奪されました」
『わたし知ってるよ。青髪派閥の失脚だね』
「みぃー」『来年1月からも注文がこにゃいと大変なことににゃるの』
「もともと日本の軍用魔道甲冑は各社でナワバリを決めて、小さなパイを譲り合うような状況でした。私も伝手を頼って、なんとか再参入しようとしていますが難しい状況です」
「民生用魔道甲冑の弊社の取引先は90%が陸軍だったので、そちらも苦しい状況です。工場の生産ラインは7月から止まっていて、現場では毎日、工場の清掃をしている状態です」
「ご存知の通り、インドネシアへの民生用魔道甲冑1万機納入の不払い訴訟は、控訴が棄却されて敗訴が確定しました」
『わたし知らないよ。インドネシアの訴訟?』
「みぃー」『アドバイスさんも興味がにゃかったから知らないそうにゃの』
「4月に鈴木財閥総帥の判断で、弊社の企業売却が決まりました。弊社の売却先を探したのですが、企業の売却先どころか事業の売却先も見つかりませんでした。弊社の役員も逃げて退任してしまい、私を入れて5人しか残っていません。そのうち2人からは今月末で退任の申し出が出ています。メインバンクの鈴木銀行からは資産を売却して借入金を全て返せと迫られて大阪の本社ビルを売却して返済しました。鈴木銀行からは運転資金の借入も断られてしまい、メインバンクを愛媛信用金庫に移しました。残っているのは愛媛にある工場だけです」
「みぃー」『倒産一歩手前にゃの』
『ナンピン作戦、失敗だー』
「岩本社長、社員の方はどうしているんですか?」
「4分の3ほど退職してしまい鈴木財閥グループに移ったりしました。残っているのは工場を中心に200人ほどです」
「みぃー」『美紀ちゃん、加工魔法スキルと鍛冶魔法スキルの人数を聞いてほしいの』
『魔道甲冑と言えば加工魔法スキルだったね』
「加工魔法スキルと鍛冶魔法スキルの方は何人くらい残っていますか?」
「……加工魔法は1人だけです。他に引き抜かれてしまいました。鍛冶魔法スキルは確か10人ほどです」
『さすが加工魔法スキル、大人気だね。1人かー。魔道甲冑はもう無理かな』
「みぃー」『もうダメだと思うの』
『いや、まだだ。まだだよ。何か手があるはずだよ。あきらめたら、そこでナンピン作戦は終了だよ』
「みぃー」『人生あきらめが肝心という言葉もあるの』
『あれがあった。あれも聞いておかないと』
「鈴木魔機社は、ダンジョン品取扱事業免許は持っていますか?」
「はい、魔道甲冑を作っていましたので。私もダンジョン品取扱士の資格は持っています」
岩本社長は最後に「このまま鈴木魔機社の代表を続けさせていただけるなら、現場の者たちの期待に応えたいと考えています。新しい事業を探してあがきたいと考えています」と言って帰っていった。
スキンヘッドおじさんは「あの企業はもう無理だと思うぞ」と言って帰っていった。
「みぃー」『あの岩本社長が言っていることは全部本当で、いい人だそうにゃの』
『ありがとね。アナウンスさん情報?』
「みぃー」『そうにゃの』
『本当にどうしようかなー』
◇
『鈴木財閥から鈴木魔機社の名前を変えろって言われたんだって。もう鈴木財閥グループじゃないからって』
「みぃー」『岩本社長からにゃの?』
『そう、それで新しい社名の希望はありますかだって』
「みぃー」『岩本社長の希望はにゃいの?』
『ないんだって。わたしにつけてほしいって』
「はいはーいなのー」
『どうぞ、ジョーちゃん』
「みきメグジョーがいいのー」
「みぃー」『変にゃ社名にゃの』
「へんじゃないのー」
『みきメグジョーかー……頭文字をとってMMJにしちゃおうか?』
「エムエムジェー、かっこいいのー」
「みぃー」『それだったらマシにゃの』
『岩本社長に社名の由来を聞かれて答えられなかったよ』
「みぃー」『どうしたの?』
『岩本社長が由来を考えておきますだって』
「みぃー」『良かったの。それとアドバイスさんからにゃの。あれから調べてくれたの。鈴木魔機社に残っている取締役2人は陸軍からの天下りで、2人ともまだ横領してるの。軍との取引もないから、さっさと追い出した方がいいって。証拠もたくさんくれたの。これにゃの』
『岩本社長に伝えて、送っておくね』
『2人を業務上横領で訴えたら、取締役も会社も辞めたんだって。それで取締役の希望はありますか?』
「はいはーいなのー」
『どうぞ、ジョーちゃん』
「わたしがとりしまりやくになるのー」
『取締役は大人しかなれないんだよ』
「わたし、おとななのー」
『ジョーちゃんはおとなだけど、まだなのー』
「むーなのー」
「みぃー」『取締役は美紀ちゃんもなれるの』
『わたしはいいよ。めんどくさそうだし。スキンヘッドおじさんに聞いてみようかな』
「みぃー」『社外取締役もあるそうにゃの』
「みぃー」『スキンヘッドおじさんの奥さんが社外取締役になってくれて良かったの』
「スキンヘッドおじさん、いやがってたのー」
『本気でいやがってたねー。でもスキンヘッドおじさんの奥さん、きれいな人だったねー。わたしびっくりしちゃったよ』
「みぃー」『アドバイスさんからにゃの。MMJを非上場にした方がいいそうにゃの』
『ひじょうじょうだね。岩本社長に伝えておくね』
『ひじょうじょうにするから、ナンピン作戦大成功だよ。株価と買値平均の差がほとんどなくなったよ』
「みぃー」『美紀ちゃん、まだにゃンピン作戦やってたの……』
『やってたよー。まずかった? もう80%も集まったんだよ』
「みぃー」『美紀ちゃんに大切にゃお知らせがあるそうにゃの』
『なになに?』
「みぃー」『非上場にしたら株は今みたいに買ったり売ったりできにゃくにゃるそうにゃの』
『マジで?』
「みぃー」『マジにゃの』
『わたしのナンピン作戦はー?』
「みぃー」『再上場したら、また売れるようになるから大丈夫だそうにゃの』
『それならいいよ。わたしのナンピン作戦はまだまだ続くよ』
「みぃー」『株主総会も無事に終わったの。非上場も取締役も決まったの』
『わたしたちと岩本社長と書記の人だけの株主総会だったけどね。わたしの株が8株で岩本社長が2株に減っちゃった。なんだか損した気がするよ』
「はいはーいなのー」
『どうぞ、ジョーちゃん』
「わたしも1かぶほしいのー」
『いいよー、ジョーちゃんに1株プレゼントしちゃいまーす』
「やったのー」
『スキンヘッドおじさんの奥さんが「MMJの財務状況が悪い」って言ってたよ』
「みぃー」『アドバイスさんからにゃの。岩本社長と伝達禁止の魔法契約をするの。それで放置しているレベル300以上の魔石や魔核を渡すの。売っても加工してもいいの。代金は売れた時に回収にゃの』
『そうするねー』
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