59 黒ウサギ
「撫子ちゃんと海里ちゃんには、島屋ダンジョンに行く時に、ダンジョン内で見聞きしたことを他の人に伝達しないって魔法契約を結んでもらったよね」
「契約しましたわ」
「契約した」
「今度はドラゴンネストダンジョンで、その契約をしてほしいんだよ」
「ドラゴンネストダンジョンですの!」
「そうドラゴンネストダンジョン」
「契約はいくらでも結びますわ。ドラゴンネストダンジョンと聞いてびっくりしたのですわ」
「本当にびっくり。今はアメリカしかいけない」
「あれ? 中国も行けるんじゃなかったっけ?」
「中国の赤壁のヤン、行方不明。ドラゴンネストダンジョンのアイテム持ってた」
「赤壁のヤンさんが行方不明になったんだ。知らなかったよ」
「ニュースやってた。上海ダンジョン」
「ダンジョンで行方不明だときびしいかな」
「上海ダンジョンが変化したから、赤壁のヤンパーティが調査に行ったそうですわ」
「最近、ダンジョンの変化、多い」
◇
「こんにちはですわ。メグちゃんもジョーちゃんもひさしぶりですわ。相変わらずかわいいですわー」
「こんにちはなのー。はなすのひさしぶりなのー」
「みぃー」『こんにちはにゃの。夏休み前以来にゃの』
「夏休みは楽しかったですの?」
「しゃんはいかんこうにいったのー。なつまつりにもいったのー」
「みぃー」『花火大会にも行ったの』
「上海に夏祭りに花火大会、いいですわ。わたくしもいっしょに行きたかったですわ」
「みぃー」『撫子ちゃんや海里ちゃんは夏休みは愛媛に帰ってるの』
『みんな、そろそろ始めるよ。ここはドラゴンもきちゃうところだから周りに気をつけてね』
メグちゃんやジョーちゃんと話し込んでいた撫子ちゃんや、いつも眠そうな目をぱちくりして周りを見ている海里ちゃんには悪いけど、今日はガンガンいっちゃうよ。
湖にいたレベル211の小魚魔物を、右腕の封印用アイテムボックスから2人の前に1体ずつ出した。
『撫子ちゃんも海里ちゃんもこの小魚をどんどんやっちゃって、小魚の攻撃はジョーちゃんが防いでくれるから』
「まもるのー」
「よろしくお願いしますわ。わたくしもがんばりますわ」
「わたしもがんばる」
撫子ちゃんが加工魔法で、海里ちゃんが鍛冶魔法で、地面の上でピチピチ跳ねている小魚の急所をグサッとやったり、スパッとやったりして光に変える。良かった、倒せた。魔石と核はメグちゃんが収納してくれてるよ。
小魚を出す、スパッグサッ。小魚スパッグサッ。
わんこ小魚状態に入ったよ。2人が魔力低下状態になったから今日は終了。時間にして30分だね。
「撫子ちゃんも海里ちゃんも、レベル上がった?」
「レベル179なりましたわ」
「わたしも、レベル179」
「じゃあ明日も小魚だね。その次が少し大きな小魚、普通より少し小さい魚、普通の大きさの魚、少し大きな魚、大きな魚、かなり大きな魚。少しずつランクアップしていくからね。目指せドラゴン討伐だよ」
「ドラゴン討伐ですわ! がんばりますわ」
「がんばる」
◇
『海だぁーーー』
「みぃー」『海にゃのーーー』
「うみについたのーー」
ドラゴンネストダンジョンの海は、沖縄の無人島で見たようなエメラルドグリーンの海だった。透きとおった海には魚やヒトデ、イソギンチャク、クラーケン、シードラゴンがいた。沖には巨大な何かが悠々と泳いでいる。火山島も見えるね。
白い砂浜には体高3mの金属質のカニ、ミスリルクラブやアダマンタートルがいたよ。ミスリルクラブの魔核を合成すればミスリルが、アダマンタートルの魔核を合成すればアダマンタイトができた。
海で遊んだら、次は山脈を目指してみるよ。
◇
今夜の寮の晩ご飯は、煮込みハンバーグ、ご飯、サラダ、お味噌汁。デミグラスソースがいいよねとおいしくいただいていると、テレビで報道特集が始まったよ。上海ダンジョンの変化という放送だね。
「1ヶ月前に突如として姿を変えた上海ダンジョンに来ています。こちらがダンジョンの1階層の以前の様子です」
上海ダンジョンの1階層の1ヶ月前の映像が流れている。松高ダンジョンの1階層の草原みたいなところだね。
「1ヶ月前からダンジョン内の太陽が黒く変化しました。変化はこれだけではありません。1階層のレベル1の魔物アルミラージが、レベル91の魔物シャドウアルミラージに変わったのです」
テレビには島屋ダンジョンの31階層でよく見た黒い太陽と黒ウサギが駆けよってくる姿が映されいた。
『上海ダンジョンに就職したんだ……黒ウサギ。元気そうで良かった』
わたしはなんとなくホッとしたよ。
「変化はそれだけではありません。2階層はシャドウゴブリン、3階層はシャドウコボルトと9階層までレベル90〜100台の魔物が続きます。そして10階層のゲートキーパーにも異変が現れたのです。以前はレベル15のオーク1体だったゲートキーパーが、レベル135のシャドウワイト10体に変わってしまったのです……」
「調査のため上海ダンジョンに突入した世界レベルランキング2位の赤壁のヤンパーティが未帰還となっています。中国政府は総力を上げて救出に取り組むと発表しており、赤壁のヤンパーティの無事の帰還が願われます」
『島屋ダンジョンにいた魔物を上海ダンジョンに移したのかな?』
「移していたのです」
『イーちゃん、マジで?』
「マジなのです。いろいろ手伝わされたのです」
『お手伝いかー』
「最初は副触手に言われて、魔物のレベルをあげていたのです。その後、主触手の指示で急に魔物を入れ替えることになったのです。いつも指示が変わるのです」
『大変だねー』
「大変なのです。もうお仕事はいやなのです」
今度、上海ダンジョンに行って黒ウサギの様子を見てこようかな。
◇
今夜の晩ご飯は、ブリの照り焼き、けんちん汁、里芋の煮物、ご飯の和風メニューだね。ご飯もけんちん汁もおかわり自由だ。たくさん食べて大きくなるよ。
「昨日未明、ロシアがバルト三国に軍事侵攻を行ないました。ロシア軍がバルト三国の各首都を制圧し対してものとみられています。欧州各国はロシアへの非難声明を出しています」
「アメリカの閃光のライトネルのパーティが、ドラゴンネストダンジョンから、10種類のドラゴンの魔石と魔核を持ち帰ることに成功しました。その中でダークドラゴンの魔石と魔核はレベル1010と、史上初めてレベル1000を超える魔物を確認しました。ドラゴンの魔石と魔核はオミソニアン博物館に展示されることが決まっています」
「ホワイトハウスのリットン報道官が、大日本帝国陸軍が秘匿兵器として公開している赤の魔道甲冑についての調査結果を公表しました。赤の魔道甲冑は二世代古い技術で作られた物で飛行機能や特別な攻撃機能は見られず、素材の魔核の平均レベルが290だったことをのぞけば通常の魔道甲冑と変わらないとのことでした。これについて帝国政府は陸軍に情報を求めているところです」
「みぃー」『美紀ちゃんがあげた魔石と魔核が博物館に展示されるの』
『すごいよねー。わたしもびっくりしたよー。あの魔石や魔核をそのまま売っていたら、やっぱり大騒ぎになったよねー。売らなくて良かったよ』
「みぃー」『レベル300以上の魔石や魔核がアイテムボックスにたくさんたまってるの』
『魔核は夏鈴ちゃんに加工してもらえば、わざわざ調べる人はいないと思うけど、魔石は難しいよねー。もうすぐ撫子ちゃんや海里ちゃんがレベル300以上の魚魔物を倒し始めると思うから、その時に相談だね』
『陸軍が作った赤の魔道甲冑がニセモノだってバレそうになってるね』
「かわスポのほうがさきにニセモノってかいてたのー」
『陸軍が公開してすぐに本物と造形が違うって記事を出してたね。陸軍の方はアニメの造形で、本物の超合金の造形と違うって』
「そうなのー。かわスポすごいのー」
川スポ大好きジョーちゃんがご飯を食べる手を休めてドヤ顔だ。そんなに胸をはりすぎると後ろにころんとひっくり返っちゃうよ。
◇
上海ダンジョンの1階層には、副触手に改装される前の島屋ダンジョン31階層の懐かしい光景が広がっていたよ。
黒い太陽からはやわらかい陽射しがふりそそいで、広い草原に緑の影をいろどっている。空には白い雲がゆっくり流れて、風が草原を揺らしている。
草原では黒ウサギたちが、草をモグモグしたり、ボーっとしたり、昼寝をしたり、じゃれあったり、駆けまわったりと思い思いにすごしている。 のどかだね。
黒ウサギの数もちょっと増えてるかな。前の10倍くらいいるかも。
隠密魔法と認識阻害魔法を解除すると、黒ウサギは前のように元気に駆けよって跳びついてきてくれた。わたしは懐かしかったから、受け止めてみたよ。
『黒ウサギ、大きくなったな』
前は大型ウサギくらい大きさだったのに、今はレンジくらいになっている。重さもずっしりだ。
『こっちの生活があっているみたいで安心したよ』
わたしを見つけた他の黒ウサギたちも、うれしそうに駆けよってきたから、抱えていた黒ウサギをリリースして入口ホールに退避したよ。
「みきちゃん、もういいのー?」
『こっちに引っ越した黒ウサギの様子をちょっと見たかっただけだからね。もう帰ろうか?』
「帰るのー」
ブックマークや★★★★★評価をいただけるとうれしいです




