53 交渉
わたしは高台に登って座りこんで、宿敵たちとの死闘の疲れを癒やしていたよ。
自分へのご褒美用に買っておいたお高いアイスをメグちゃんやジョーちゃんといっしょに食べている。宿敵にやられたココロにアイスのおいしさが染み渡るね。
後ろでキラキラ緑色に光っているクリスタルは後回しだ。のんびり休むよ。
緑色のクリスタルは、高さ6mくらい、直径3mくらいのうどんの麺を集めたようなウネウネした形をしていて、宙に浮いている。ジョーちゃんがそれにピタッとくっついているよ。
『ジョーちゃん、その緑色のクリスタルがほしいの?』
「ほしいのー」
『じゃあ記念にもらって帰ろうか。メグちゃんもそれでいい?』
「みぃー」『美紀ちゃん、ジョーちゃん、ちょっと待ってほしいの。このダンジョンを管理している触手からアウターネット経由で通信が入っているの』
『触手?』
「みぃー」『副触手からにゃの。相手がそう言っているの。その緑色のクリスタルはダンジョンコアで、持って帰られると、島屋ダンジョンが崩壊するそうにゃの』
『島屋ダンジョンが崩壊するのは困るね。マジックバッグ作りやダンジョン実習が面倒なことになるから。でもジョーちゃんがダンジョンコアをほしがっているから、ジョーちゃんに代わりのお土産がもらえれば、わたしはいいよ』
「みぃー」『アドバイスさんに手伝ってもらって副触手と交渉するの。期待して待っていてほしいの』
「まってるのー」
『大変なようだったら適当でいいからね』
◇
「みぃー」『交渉してきたのー』
『お疲れさまー』
「おつかれさまなのー」
「みぃー」『じゃーんにゃの。発表するの。まずジョーちゃんからにゃの。ダンジョンコアを持って帰らない対価は、スマホを作るのに絶対にいる空間ネットワークコア1個と空間通信をするための空間通信カードの作り方にゃの』
「くうかんねっとわーくこあなの?」
ジョーちゃんが疑問顔だ。わたしもだけどね。
「みぃー」『空間ネットワークコア1個で太陽系のどんなところの通信もカバーできる優れ物なの。現物を見た方がいいの』
モノリスから黒い触手とちび黒猫が、直径1メートルの球状の緑色のクリスタルを持ってきたよ。
「あのしょくしゅ、くろににてるのー」
『触手の色がクロに似てるねー』
「しょくしゅ、もってかえるのー」
『触手はダメかなー』
「ダメなのー。わかったのー」
『あの緑色のクリスタルはどう? まんまるできれいだよ』
「うーんなのー」
「スマホを作るのに絶対いるんだって」
「そうだったの。スマホをつくるの。くうかんねっとわーくこあでいいのー」
ウネウネした黒い触手に興味を持ってしまったジョーちゃんだったけど、空間ネットワークコアをペチペチたたいて調べ始めたよ。
「みぃー」『ジョーちゃんは決まったの。良かったの』
「みぃー」『次に美紀ちゃんにゃの。島屋ダンジョンとアメリカのロサンゼルス南西ダンジョン、アルジェリアのアルジェ南ダンジョンの3つを、美紀ちゃんが永遠に壊さないと誓約するにゃら、ドラゴンネストダンジョンにつながるゲートをもらえるの。ドラゴンネストダンジョンに行けば簡単にドラゴンの写真が撮れるの』
『マジで! 誓約する。するよ』
モノリスから金色の光がわたしに降ってきたよ。それといっしょにドラゴンネストダンジョンへのゲートの使い方がわかるようになった。
「みぃー」『美紀ちゃんの誓約が有功になったの。ゲートの使い方もわかるはずにゃの』
『バッチリだよ。これでやっとドラゴンの写真が撮れるね』
「みぃー」『美紀ちゃんにはもうひとつあるの。ラストモンスターの魔石と魔核を対価に、魔法の効果を増幅する魔法陣をもらえるの。でもこの魔法陣はわたしとジョーちゃん以外に伝えることも渡すことも禁止にゃの。これを使って作った魔法陣もにゃの。その誓約がいるの』
『わたしはいいよ。メグちゃんやジョーちゃんはどう?』
「わたしもいいのー」
「みぃー」『わたしもいいの。交換を始めるの』
わたしはアイテムボックスからラストモンスターの魔石と魔核をモノリスの近くに置いたら、モノリスから黒い触手とちび黒猫が出てきて、持って帰っていった。
そしてわたしにモノリスから金色の光が降ってきて、とても複雑な積層魔法陣をひとつ憶えていたよ。積層魔法陣の使い方も、欺瞞魔法陣の重ね方もね。便利で楽だね、謎技術。
「みぃー」『美紀ちゃんの誓約が有効ににゃったの』
『あんなの何に使うの?』
「みぃー」『島屋ダンジョンが美紀ちゃんに攻略されたから魔物を強化するそうにゃの。その素材にゃの。あとは周りのダンジョンを20個ほどつぶして素材にするそうにゃの』
『松高ダンジョンがなくなると清美ちゃんたちが困るね。できたら岡山とか北の方のダンジョンを使ってもらうように頼めるかな』
「みぃー」『伝えてみるの』
『ありがとね。メグちゃんはちゃんと何かもらった?』
「みぃー」『わたしも今回の交渉とこれからも触手に協力することを対価に、演算コアの作り方の資料をもらったの』
『えんざんこあ? 戦術コアみたいな物のこと?』
「みぃー」『戦術コアよりとっても性能が低いの。でも誰でも簡単に作れて大量生産できるの。これでわたしの野望が進むの。くーくっくっくにゃの』
『メグちゃんの野望って?』
「みぃー」『前世ではどんなところでも見たいアニメがスマホで見られたの。そんな世界にすることにゃの』
『わたしも手伝うからなんでも言ってね』
「わたしもおてつだいするのー」
『空間ネットワークコアはもういいの?』
「じょうほういたりょういきにとりこんだのー。れいそをいっぱいつかったのー。ピカピカだからおウチにかざるのー」
『縮小したら寮の部屋にも飾れるかな』
『さっきから気になってたんだけど、ちび黒猫がずっと「お仕事はいやなのです」「もういやなのです」ってつぶやいているけど、あれっていいの』
「みぃー」『あれは見習いで仕事を憶えている最中らしいの。たぶんいいの』
『いいのかー』
「みぃー」『副触手から連絡がきたの。島屋ダンジョンの改装をするから1ヶ月くらい入らないでくれだって』
『わかったって伝えておいて』
◇
『夏休みの予定があいちゃったねー』
「みぃー」『ドラゴンネストダンジョンに行ってみればいいの』
『戦闘じゃなくって、ちょっとのんびりしたいんだよねー。宿敵にやられたココロのキズがうずくし』
「みきちゃん、キズがいたいのー?」
『大丈夫だよ。ココロのキズだからね。それでね、空いた予定でのんびり旅行に行きたいと思います。メグちゃんもジョーちゃんもいろいろなところに行きたい、おいしい物をたくさん食べたいって言ってたよね』
「みぃー」『旅行に行きたいのー。食べ歩きにゃのー』
「わたしもたべたいのー」
『そこでです。メグちゃんもジョーちゃんもどこか行ってみたいところはある?』
「うーんなのー。うーんなのー」
「みぃー」『どこかにゃのー。考えてなかったのー』
「はいはーいなのー」
『ジョーちゃん、どうぞ』
「ビルがたくさんあったところにいってみたいのー」
『ビルとな……春休みの時の上海のこと?』
「はるやすみのときなのー」
「みぃー」『わたしも上海に行きたいのー。かわいいビルがあったの』
『上海だね。せっかくだから泊まりがけで行ってみようよ。ドラマでホテルのレストランでご飯を食べているのを見て一度行ってみたかったんだよ』
「みぃー」『わたしもホテルのレストランに行ってみたいの』
『決まりだね。上海旅行に行っちゃうよー』
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