52 わたしと宿敵
『いよいよだよ。今日で攻略しちゃおうね』
「みぃー」『何を攻略するの?』
「わたし、わすれたからだいじょうぶー」
『裏切ったね、ジョーちゃん』
「わたし、わすれたからしらないのー」
「みぃー」『わかったから、もう行くの』
わたしたちは120階層の入口ホールの大きな黒い扉の前に立っていた。扉は他のゲートキーパー部屋の扉よりひとまわり大きく、漆黒に染まっている。
メグちゃんとジョーちゃんの頭をそっと撫でると、扉を果敢にそっと開けてのぞきこんだよ。
扉の中には、ギリシャのパルテノン神殿をほうふつとさせる神殿跡が広がっていた。メグちゃんとジョーちゃんの視界補助がないと真っ暗だけどね。魔物は見えない。
『魔物がいないね』
「どこにもいないのー」
「みぃー」『感知できにゃいの』
わたしたちは周囲を確認しながら扉の中に足を踏みいれた。慎重に歩を進める。やっぱり魔物がいない。また進む。100mほど進んだ時に変化が現れた。 わたしの周りを取り囲むように黒く揺れる影が出現した。数は10。
〈黒い影にジャッジメントレイ攻撃〉〈黒い影ジャッジメントレイ攻撃〉・・・
ジャッジメントレイで黒い影を攻撃したけど、光がすり抜けた! 効いてないね。
〈黒い影をファイアボム攻撃〉〈黒い影をミファイアボム攻撃〉・・・
ファイアボム攻撃もすり抜けた!
『メグちゃん、ジョーちゃん、一時退却だよ。入口ホールに走るよ』
わたしが退却しようと身体の向きを変えたところで黒い影に変化が起こった。何かに変わり始めた。
わたしはそれを見ながら、変化している影の間を走り抜けて入口ホールを目指して走った。メグちゃんもジョーちゃんもいっしょに飛んできているよ。魔物からの攻撃はまだない。
『入口ホールの扉が閉まっていて開かないね。ここで応戦するよ』
「おうせんなのー」
「みぃー」『わかったの』
わたしは後ろを振り向いて、黒い影たちを確認したよ。わたしが10人いた。装備も革鎧、ヘッドギア、剣と同じだ。10人とも、ぐへへと笑っている。わたしがしないような変な笑い方だ。
「みきちゃんのぐへへわらいなの」
「みぃー」『美紀ちゃんの欲望の笑いにゃの』
わたしが普段やらない変な笑い方だね。わたしの姿をした魔物たちが叫んだ。
「「「「「「「「「「ジャッジメントレイ攻撃」」」」」」」」」」
わたしはその魔物の声を聞いた瞬間、魔力たっぷり結界を身体の周りに三重で展開したよ。
ジャッジメントレイ攻撃はこない。わたしは警戒を続けたよ。おかしい。時間差攻撃でもないみたい。
魔物たちは何か戸惑うような仕草をしてから、剣を抜いてヘッポコな感じで振りあげて、ヘッポコな感じでこちらに走ってきた。
わたしはそれを見て攻撃にうつったよ。
〈魔物をジャッジメントレイ攻撃〉〈魔物をジャッジメントレイ攻撃〉・・・
今度はジャッジメントレイが通じて、わたしの姿をした魔物は光になって消えていった。わたしは警戒をとかずに周囲の確認を続けたよ。
奥のモノリスの前に宝箱が現れた。
「倒せたみたい。もう大丈夫かな」
「みぃー」『魔物は感知できないの。たぶん大丈夫にゃの』
『あの魔物、あんな登場のしかたをしたのに、戦闘はあっけなく終わったね』
「みきちゃんにそっくりのまものだったのー」
『そっくりだったかな。わたしの方がもっと大人っぽいよね』
「みぃー」『魔物はシャドウドッペルゲンガーで、レベル650だったの』
『レベル650にしては、なんだかヘッポコな魔物だったね』
「みぃー」『アドバイスさんのはにゃしでは、みきちゃんの姿と記憶、スキル、装備をコピーしていたの。でもわたしやジョーちゃんのギフトはコピーできなかったそうにゃの』
『わたしのスキルは刻印魔法だからジョーちゃんの情報板がなかったら、魔鉄やアクセサリーを使うしかないもんね』
『……よく考えたら、わたしミスリルのアクセサリーをつけてるよ。なんでドッペルゲンガーは使わなかったの?』
「みぃー」『美紀ちゃんの記憶だけじゃなく動作や行動までコピーしていたそうにゃの』
『そっかー。大体わかったよ。この話題は終わりで』
「おわりなのー」
『宝箱開けたいひとー?』
「みぃー」『はいにゃのー』
「はいはーいなのー」
『2人ともだね。この前はジョーちゃんが開けたから、メグちゃんでいい?』
「わかったのー」
『何が出るかな♪何が出るかな♪何が出るかな♪』「みゃみぃーみゃ♪みゃみぃーみゃ♪みゃみぃーみゃ♪」「なにがでるかなー♪なにがでるかなー♪なにがでるかなー♪」
メグちゃんがバンッと勢いよくの宝箱をひらいた。
宝箱の中には小さな金色の指輪が10個入っていたよ。
『何の指輪かわかる?』
「みぃー」『オリハルコンの指輪にゃの。効果は精神攻撃無効とサイズ調整にゃの』
『精神攻撃無効ってことは、ソウルイーターなんかの攻撃も防げるようになるってこと?』
「みぃー」『防げるようににゃるの』
『じゃあ、わたしが1個もらってつけていい? あとはみんなで山分けで』
「いいのー。わたしはたからばこをもらうのー」
「みぃー」『わたしもいいの』
わたしたちはモノリスにふれて、ダンジョンの最下層121階層に移動したよ。
◇
わたしの目の前には、草原が広がっていた。草は膝に届くかどうかくらいの高さだ。きれいな泉から小川が流れている。空を見上げると太陽も普通の色だ。黒くない。白い雲が空には浮かんでいる。遠くの高台には宙に浮いた緑色にきらめく大きな何かが見える。周りには障壁が張られているみたい。
目の前の空中には、毒々しい真っ赤な色の変な文字が浮いていた。知らない文字なのになぜか読めるよ。
[汝の前に、汝が最も恐れた魔物100体が10倍の力で現れる]
わたしは入ってきたモノリスを使って、この階層を脱出しようと青の四角マークにふれたけど、何も起こらない。
まずい。 絶対アイツらが出てくるよ。ピンチだ。
『メグちゃん、ジョーちゃん、あそこの高台に向かって走るよ。こんな草原でアイツらに背後をとられたらアウトだよ』
遠くの高台に向かって走った。目の前の真っ赤な文字が、わたしの動きに合わせてストーカーしてくる。
高台に辿りついたけど、障壁が張られてていて登れなかった。わたしは障壁を背にして身構えたよ。
それから1分ほど経つと空中に浮かんでいた真っ赤な文字が溶けるように消えた。
やっぱりアイツらだ。まちがいない。気配を感じる。見なくてもわかるよ。近くにいる。
「みぃー」『美紀ちゃん、魔物に攻撃されているの』
メグちゃんの声にわたしは警戒しながら周りを見回す。顔に何かが張りついてきた。息ができない。アイツらのいつもの攻撃だ。わたしは冷静にあわてて右腕の封印用アイテムボックスを作動させた。
ダメだ! 収納できない。アイテムボックスからは、相手に抵抗されて収納できなかったと伝わってきた。
わたしは顔に張りついたやつを両手で引き剥がして、遠くに投げた。
「メグちゃん、ジョーちゃん。宿敵たちだ。最大限警戒だよ。2人とも、もっと上にいないと危ないよ」
わたしは胸のあたりまで下がっていたメグちゃんとジョーちゃんを持ちあげて、頭の上に避難させた。足元の草から宿敵たちが飛び出してきて、ボヨンボヨンと体当たりしてきている。
もう一度、右腕の封印用アイテムボックスを作動させる。やっぱりダメだ。封印できない。封印用アイテムボックスの改良が必要だ。
わたしの脳裏には、小学4年の時にやつの攻撃で死にかけたことや、田んぼに落とされたこと、用水路に落とされたこと、肩や首を負傷した時のこと、通学路でおいつめられたことが浮かんでは消えていったよ。
「宿敵たちを封印できないよ。もうダメ。ここはわたしにまかせて先に行って」
「みきちゃん、いっしょにいくのー」
「みぃー」『どこにも行かにゃいの。レベル10くらいの100体の透明スライムにゃの。美紀ちゃんの防御力にゃらケガひとつしにゃいの』
宿敵たちのボヨンボヨン攻撃が、たえまなく続いている。宿敵たちのあいつぐ攻撃に負けそうになるココロを抑えて、ぷちんとキレた冷静なわたしはジャッジメントレイ攻撃を連射した。
〈ジャッジメントレイ連射〉
わたしは宿敵たちの多さに怯みながら、ジャッジメントレイ攻撃を続けたよ。
「みきちゃん、まものはもういないのー」
「みぃー」『美紀ちゃん、魔物は全滅したの』
わたしは2人の言葉でジャッジメントレイ攻撃を止めたよ。でも周りへの警戒は緩めない。宿敵はいつでも不意を突いてくるからね。
わたしから3mほど離れたところに大きな魔石と魔核が転がっているのが見える。
後ろを見ると高台にあった障壁が消えていた。
「恐ろしい宿敵だったね。今回は死ぬかと思ったよ」
「みぃー」『ラストモンスターというレベル700の魔物だったそうにゃの。レベル10の透明スライム100体に擬態していたの。透明スライムはレベル1の強さだから10倍でレベル10だったの』
『なんとか倒せて良かったよ。周りを囲まれた時は何も考えられなかったよ』
「みぃー」『美紀ちゃんなら目をつぶっていても勝てるの』
『メグちゃん、宿敵との戦いでは油断したやつから死ぬんだよ』
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