51 川スポ
「たくさんあつまってきたのー。そらがいっぱいなのー」
「みぃー」『まだ3000体くらいにゃの』
『全部、空にきてくれそうにないね』
「みぃー」『飛ぶスペースがにゃいの』
『逃げるふりをしてここから離れてみるよ』
岡山中央ダンジョン上空で、飛びまわりながらレーザーをチュピチュピ撃っているけど、白光大梟が集まってきてくれないね。
『白光大梟って魔物図鑑で見たつぶらな瞳じゃなくて、鋭い目つきというかヤサグレた目つきをしているね。何かあったのかな』
「みぃー」『フクロウだから夜行性で陽射しがまぶしいだけじゃにゃいの』
『おびきよせ作戦は失敗だったね。1万体くらいしかダメみたい。これで攻撃するよ。その後は拡散型ジャッジメントレイに切り替えるよ』
「じゅんびOKなのー」
「みぃー」『薙ぎ払うのー』
『メグちゃんに言われちゃったー』
〈ジャッジメントレイ連続斉射〉
ヴァルキュリア紅を追いかけてまとまっていた白光大梟の大きな群れにジャッジメントレイの10本の光が伸びて動いて、群れを蹂躪していった。
「かくさんがたにきりかえたのー」
『地上にいるのを片づけるよ』
〈拡散ジャッジメントレイ全力斉射3連〉……〈拡散ジャッジメントレイ全力斉射3連〉…… 〈拡散ジャッジメントレイ全力斉射3連〉……
地上に残る白光大梟がピーっと鳴き声をあげ始めた。他の白光大梟も同じように鳴いている。白光大梟が一斉に飛びあがって、ちりじりに逃げ始めた。
〈拡散ジャッジメントレイ全力斉射3連〉……〈拡散ジャッジメントレイ全力斉射3連〉……
「みぃー」『拡散型ジャッジメントレイの射程圏外に逃げられたの』
『南に逃げたのだけ追いかけるよ。うちの方にこられたら面倒だからね』
『おつかれさまー。もうこれくらいでいいよね』
「おつれさまなのー」
「みぃー」『あとは陸軍にまかせるの』
『白光大梟もたくさん倒したねー』
「せんじゅつコアのとうばつきろくは11まん1097たいなのー」
『そんなに倒したんだ。追いかけるのが大変で数えてなかったよ。じゃあ、もう帰るよー』
「おうちにかえるのー」
「みぃー」『ゆっくりゴロゴロするのー』
◇
寮の部屋で夏休みの山盛りの宿題を片づけるているところだよ。相変わらず宿題多すぎなんだよ!
「このテレビ、うそつきなのー」
テレビを見ていたジョーちゃんがプンスカ怒って手をパタパタしてるよ。
テレビに映っていたのは、40代くらいの勲章がたくさんついた軍服を着ている紫髪のおじさんだった。鼻の下の口ヒゲが横にまっすぐ伸びて端がピンとハネ上がっている。変なヒゲだね。テロップには池田陸軍司令長官と書かれているね。陸軍のトップの人みたい。会見の中継かな?
「昨日、我が大日本帝国陸軍の誇る岡山ダンジョン氾濫討伐軍が大規模討伐作戦を実行に移した」
「その結果、岡山南西ダンジョンで氾濫した大岩蟻15万体の討伐を見事に成し遂げた。レベル70の魔物の大規模氾濫を1ヶ月で終息させたことは快挙である」
「この功績を賞して、討伐軍をひきいる難波軍団長への金鷹護国勲章の授与を政府に申請した。必ずや政府も認めるはずである」
「また岡山中央ダンジョンで氾濫した白光大梟15万体のうち12万体の討伐も成功した。残敵は3万体である。岡山ダンジョン氾濫討伐軍は討伐を見事に成し遂げるであろう」
「なお本作戦の邪魔をした不届き者がいたとの報告があがっている。この赤い魔道甲冑である。この魔道甲冑の製作者、装着者、目撃情報を、我が陸軍にすみやかに提供せよ。至急である」
会見場は拍手でわいている。ワイドショーのスタジオも興奮気味にいろいろ言ってる。
『テレビ、うそつきだねー』
「あのおじさんもうそつきなのー」
『大岩蟻の討伐も白光大梟の討伐も陸軍がやったことになってるねー』
「みぃー」『ヴァルキュリアくれにゃいが作戦を邪魔した不届き者になっちゃたのー』
『陸軍に情報提供しろだって。絶対にしないけどね』
「みぃー」『提供したらロクにゃことににゃらにゃいの。アドバイスさんも絶対ダメって言ってるの』
『だからヴァルキュリア紅のことは、他の人には絶対にヒミツだよ。撫子ちゃんや海里ちゃんにもね。お口にチャックだよ』
「わかったのー。おくちにチャックなのー」
「みぃー」『なんとなくモヤモヤするのー』
『わたしもねー。ヴァルキュリア紅の魔装ボディーに隠密魔法陣と認識阻害魔法陣を刻めるかな?』
「みぃー」『聞いてみたけど、操縦席には刻めるけど魔装ボディーには無理だそうにゃの。ヴァルキュリアくれにゃいを呼び出す時に自分で魔法をかけにゃいとダメみたいにゃの』
『ありがとね。忘れないようにしないとね』
わたしはモヤモヤした気分を抱えたまま、残りの宿題に取り掛かったよ。
お散歩から帰ってきたジョーちゃんが、手足をパタパタさせながら新聞を買いたいっていうから探索者高校の正門前のコンビニにきたよ。このコンビニもジョーちゃんのお散歩ルートだそうな。
「みきちゃん、このしんぶんがほしいの」
『川崎スポーツ新聞、通称川スポだね。この新聞は日付け以外はデマ記事って、冗談半分に言われている川スポだよ』
「これがいいのー。このきじがみたいのー」
『記事の見出しは[空飛ぶ紅甲冑降臨!英雄、爆誕!]。おもしろそうな記事だね。わたしも見たくなったよ。せっかくきたから、おやつも買っていこう』
「プリンー」
『プリンといっしょにメグちゃんのお土産も買って帰ろうね』
ジョーちゃんが見やすいように、ベッドの上に川スポを広げてみたよ。
「ヴァルキュリアくれないのしゃしんがのってるのー」
ジョーちゃんがうれしそうに写真を指差している。
『2枚も載ってるね。近い感じの写真だから、工場のどこか高いところから撮ったのかな。ジャッジメントレイを連発している時の写真だね。ヴァルキュリア紅の周りから、ジャッジメントレイの光が伸びているよ』
「きれいにうつってるのー」
『記事を読むよ。[工場に2万体もの黒い大岩蟻がせまる中、アニメの超魔道甲冑ヴァルキュリアに似た赤の魔道甲冑が、突如として我々の前にあらわれた。赤の魔道甲冑は悠然と宙に浮かび、次の瞬間、無数の白い光のシャワーを大岩蟻の大群に向かって降らせたのだ。その白い光に当たった黒い大岩蟻は溶けるように光って消えた。10秒とかからず2万体の大岩蟻を倒したのだ。赤の魔道甲冑は地面に白い光を撃ちこんだ後、目にも止まらぬスピードで北に向かって飛び去っていった。そして、そこには大岩蟻の魔石と魔核だけが、残されていたのであった]。全部合ってるね』
「このしんぶんは、うそつきじゃないのー」
『白光大梟のことも記事になってるてるよ。[白光大梟の討伐を目撃した人物と接触できたので、その目撃証言を載せておく。目撃者Aが山の上から岡山市街地の映像を撮影していたところ、突如として岡山中央ダンジョン上空に赤の魔道甲冑があらわれたのだ。赤の魔道甲冑は白光大梟を誘うように飛び続けた。白光大梟が密集して空が白く染まった頃、赤の魔道甲冑から、10本の長い光の剣が伸び、1万体を超える白光大梟のかたまりを切り裂いていった。縦横無尽に動きまわった光の剣により白光大梟のかたまりは大地に落とされていた]』
『まだ続きがあるよ[赤の魔道甲冑は上空から光の雨を降らせた。光の雨は次々と大地にとどまる白光大梟を貫き倒していった。何万体かの白光大梟が討伐された時、白光大梟は一斉に大きな鳴き声をあげ飛び立ち逃げ散っていった。赤の魔道甲冑はこれを見逃さず光の矢を放って空から落としていった。何万体かが落ちた頃、赤の魔道甲冑は静かに南の方角に去っていった。なおこの目撃者Aが撮影した映像は、目撃者Aのご厚意により編集部にコピーをいただいている]白光大梟の方も合ってるね』
『[次回は空飛ぶ赤の魔道甲冑の謎にせまるだって]。おもしろそうだね』
「つぎもみたいのー」
『次が出るのを楽しみに待ってようよ。メグちゃんが帰ってきたら、この川スポを見せてあげようね』
◇
あの記事で、ジョーちゃんが川スポに興味津々になったよ。毎朝ジョーちゃんといっしょに正門前のコンビニに散歩に行って、川スポを買うようになった。ジョーちゃんによると、ヴァルキュリア紅の記事が載ってなくても、他の記事の見出しが派手でおもしろいんだそうな。
「みきちゃん、メグちゃん、ヴァルキュリアくれないのあたらしいきじがでてるのー」
ジョーちゃんがうれしそうに川スポを広げて、わたしたちに記事を見せてくれたよ。
[アニメのヴァルキュリアに似た謎の空飛ぶ赤の魔道甲冑の調査で、人気アニメ超魔道甲冑ヴァルキュリアのT監督に直撃取材をおこない、重要な証言が得られた。T監督によると、アニメのヴァルキュリアの造形ではなく超合金ヴァルキュリアの造形に酷似しているとの話だ。さらなる調査が必要となっている]
『ジョーちゃんの超合金ヴァルキュリアを見本に作ったからね。正解だよ。こんなにすぐにわかる物なんだね。川スポ記者すごいよ』
[軍事技術に詳しい千葉工大のK教授に空飛ぶ赤の魔道甲冑の戦闘映像を見せたところ「魔物の殲滅速度が既存の軍用魔道甲冑ではありえない。いずれかの国が新規に開発した軍用魔道甲冑だろう」という証言を得た]
「みぃー」『この世界には空を飛べる魔道甲冑もにゃいの。ヴァルキュリアくれにゃいの圧勝にゃの』
[イギリスやドイツの大使館から、空飛ぶ赤の魔道甲冑の写真や映像の提供依頼が編集部にあった。イギリスやドイツは空飛ぶ赤の魔道甲冑の開発とは関係ないようだ]
『なんだか書いたらダメな事も書いちゃってる気がするよ。いいのかな、川スポ』
川スポの後追いニュースをやっている民法テレビ局もあったよ。ヴァルキュリア紅が白光大梟を討伐する映像も映っていた。
ブックマークや★★★★★評価をいただけるとうれしいです




