46 お花見
今日は京都に観光とお花見に行くよ。お花見弁当も養護院の厨房を借りて作っている。準備に抜かりはないよ。
『今日はこのカメラの出番だー』
今日のために買ってきた魔力式カメラを、両手で高々と掲げてみた。説明書も全部読んだから使い方もバッチリだよ。養護院の子たちに古都京都のきれいな写真を見せてあげよう。
メグちゃんとジョーちゃんは、桜の木のキグルミ姿になっているよ。京都のお花見が楽しみなんだって。2人のかわいい姿が、このカメラに写らないのが残念だね。
京都五条坂ダンジョンの小さな和風建築の建物を出ると、道が人であふれていたよ。
「ひとがいっぱいなのー」
『本当だね。こんなにたくさんいるとは思ってなかったよ。わたし人気観光地の人出の多さをなめちゃってたみたい』
「みぃー」『5日前にダンジョンに登録しにきた時と全然ちがうの』
『あの時は平日で朝の早い時間だったからかも。今日は春休みの土曜日でもうお昼だからね』
「みぃー」『親子連れも多いの』
『わたしたちみたいに家族でお花見に行く人かな。ここを抜けたらすいているかもしれないから、のんびり歩いて行こうよ』
「みぃー」『ついでにお土産を買っていくの』
『お土産いいねー。いろいろ買っちゃおうか』
「おみやげなのー」
わたしたちはごった返す人ごみの中に果敢に飛びこんだよ。
『人がずっと多いままだねー』
「みぃー」『少しずつ増えていってるの』
『やっぱりかー。そんな気がしたんだよね』
わたしの背が周りの人よりほんの少し低いせいか、囲まれちゃうと周りが見えなくなるね。
『メグちゃん、ジョーちゃん、お土産のお店がどこかわからないから、道の端に移動するね。はぐれちゃったら大変だから、わたしの肩のところにいてね』
「かたのところなのー」
「みぃー」『ジョーちゃん、もしも、はぐれちゃったら空に向かってレーザー魔法を撃つの』
「レーザーまほうなの。わかったのー」
『道の端にきたけど店先に人が集まっていて、何のお店かよくわからないね』
「わたしがおてつだいするのー。じょうほういた、いくのー」
ジョーちゃんが情報板を上に飛ばしてくれて、周りの店の映像を見せてくれたよ。
『ありがとね、ジョーちゃん。あの店に入ってみるね』
お土産を買おうとしたけど、店員さんは他のお客さんの相手をしていて失敗。4軒目の大きな店で、箱がたくさん平置きしてあった生八ツ橋をレジに持っていって、なんとか購入成功。
『お土産買うのだけでも大変だったねー』
「みぃー」『今日は観光をあきらめるの。おはにゃみに行くの』
『ジョーちゃんもそれでいい?』
「いいのー」
『観光はまた今度で。お花見に行くよー』
「さくらをみるのー」
「みぃー」『公園は向こうだから、どっちにしてもこの人混みを抜けにゃいといけにゃいの』
『時間がかかりそう』
◇
「みぃー」『やっと山円公園についたの』
『時間がかかったねー。人も進むほど増えていったし』
「こうえんも、ひとがいっぱいなのー」
公園の中は一面に広がるブルーシートと宴会中の皆さんで埋まっていた。カラオケを持ちこんで歌っている人もいるね。あちこちにゴミも散らばっているよ。
『宴会がすごいねー。これが本当の花見という感じもするけど。メグちゃん、ジョーちゃん、ここでお花見する?』
「みぃー」『もう少し落ちついたところで、おはにゃみしたいの』
「わたしもなのー」
『奈良に吉野山っていう有名な桜の名所があるから、そっちに行ってみようか』
「ならでおはなみなのー」
「みぃー」『吉野山にいくの』
ヴァルキュリア紅に乗ろうとしたけど、どこも人がいて乗り込むのが難しかったから、ちょっとぷち切れたわたしは、初めて認識阻害魔法の上位魔法、認識変換魔法を使ってみたよ。結果は良好でヴァルキュリア紅にすんなり乗れた。認識変換魔法すごい。
わたしは京都観光のオーバーツーリズムに敗北感をおぼえつつ、京都を離れたよ。
◇
『こっちにもお花見客はいるけど、山全体に桜があるから落ちついて桜を楽しめそう。メグちゃん、ジョーちゃん、ここでいい?』
「みぃー」『きれいにゃ風景にゃの。ここがいいの』
「わたしもなのー」
ピクニックシートを敷いて、お花見開始だよ。
『やっと落ちついたねー。桜も満開だねー』
「みぃー」『きれいにゃ桜にゃの。おはにゃみを楽しむの』
「とっても、きれいなのー。じょうほういた、いくのー」
桜のキグルミ姿のジョーちゃんがカッコよく右腕を振ると、情報板が1枚飛んでいったよ。
「やまがさくらいろで、きれいだったのー。やまもうつすのー」
『わたしはカメラの前にこっちにするよ。昨日、養護院で作ったお花見弁当だよ。唐揚げもたくさんだよ。マヨラーの2人のためにマヨネーズも準備してるよ』
「やったのー、おべんとうタイムなのー」
「みぃー」『つまみ食い禁止だったから、昨日から待ちわびていたの』
『まずはカンパイからね』
さっき買った生八ツ橋も出してみた。端っこをかじったジョーちゃんの顔がふにゃっと疑問顔になったよ。わたしもさっきそうだったからわかるよ。あんこのところまで食べると甘くなるからね。
日中の桜、夕日に染まる桜、月光に浮かび上がる桜、ライトの魔法陣でライトアップされた桜。全部きれいだったよ。カメラでたくさん撮ったよ。
◇
『とおー』
「とおーなのー」
「みぃー」『とおーにゃのー』
わたしたちは華麗に沖縄ダンジョンの塀を飛び越えたよ。
「みぃー」『監視カメラがにゃいから塀を飛び越えにゃくてもいいの』
『飛び越えた方が出張所に近いからね。スキンヘッドおじさん、いるかなー』
「みぃー」『たぶんいるの』
「こんにちはー。お土産、持ってきましたー」
「お前なぜここにいる。ここは沖縄だぞ」
こうして沖縄へもたまに遊びに行くようになったよ。
◇
「美紀ちゃんと海里ちゃんと同じクラスになりたいのですわ」
「わたしも同じクラスがいい」
「わたしもー。このクラス分けがこれからの1年を決めると言っても過言じゃないからね」
「運命の掲示板ですわ」
今日は高校2年生の初日だ。高校2年デビューの準備はそこはかとなくバッチリだよ。
周りでクラス分けの掲示板を確認している子たちは、なにか疑問でもあったのか「なんで?」「どうして?」なんて言ってるけど気にしないよ。
わたしは撫子ちゃんと海里ちゃんと同じクラスになれるように願いながら、運命の掲示板を確認する一員に加わってみた。
H組にわたしの名前を発見。大切なのはここからだよ。撫子ちゃんと海里ちゃんの名前もH組に発見。
「良かったー。撫子ちゃんと海里ちゃんと同じクラスだ」
「わたくしもうれしいですわ」
「わたしもうれしい。ほっとひと安心」
「クラスメイトの名前が1年の時と同じですわ。クラス替えがなかったのですわ」
「本当だね。なんでかな?」
周りの子たちが「なんで?」「どうして?」って言ってる意味が理解できたよ。
わたしは撫子ちゃんと海里ちゃんと同じクラスになれたから細かいことはどうでもいいけどね。
◇
2年H組の教室でなんとなく1年の時の席に座って、先生を待ち受ける。2年生デビューなのか最新トレンドファッションが増えてるよ。男子が金髪赤髪+顔クロ+腰パン、女子が金髪赤髪+やまんばメイク+ミニスカ+ルーズソックスだね。
「最新トレンドファッションが増えてるねー」
「1年の時は髪の色だけ変えていた子も、顔を黒くして制服も変えていますわ」
「普通の格好の方が少なくなった」
「わたしたちを入れても6人だけだね。菜々子さんはまだきてないみたいだね」
「きてる。あの廊下の入口のところ」
「菜々子さんも最新トレンドファッションに変わったのですわ」
「マジだー!」
春休みの間に何があった菜々子ちゃん? 高校2年デビューなの?
H組の担任は今年も川崎先生だった。先生も持ち上がりみたい。
始業式で体育館に集まったみんなのファッションを見ると今年もトレンドは変わってないね。今や黒髪が少数派だよ。最新トレンドファッション恐るべし。驚異の侵食率だね。
校長のあいさつが済んで連絡事項だ。
「2年A組担任の大久保先生が教頭と学校対抗戦総監督を兼務します。2年B組担任の串田先生が2学年主任を兼務します」
「2年生のクラス編成が、1年生からの持ち上がりになっているのは、2年生の皆さんが1年生の時に作った仲間との協力関係をより深めてもらおうと、大久保教頭が打ち出した新しい方針です。今年1年間、仲間と共に勉学に励み、より良い学校生活を過ごしてください」
「撫子ちゃん、海里ちゃん、大久保先生が総監督のままだったね。学校対抗戦でボロ負けしたから総監督は交代すると思っていたけど」
「県の教育委員会の教育長が紫髪派閥なのですわ」
「そういうことかー」
「また去年みたいになる」
「教頭に出世したから去年よりひどくなりそうですわ」
「学校対抗戦には絶対に関わらないようにしないと」
「わたくしたち生産魔法だから心配いらないのですわ。声もかけられないのですわ」
今年も変なことにならないように祈っておこう。神様よろしくお願いします。
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