44 沖縄
『とおー』
「とおーなのー」
「みぃー」『とおーにゃのー』
わたしたちは華麗に島屋ダンジョンの南側の塀を飛び越えたよ。
「こんにちはー。遊びにきましたー」
「ちょうど良かった。俺の転勤が決まったぞ。4月から沖縄だ。お前には知らせておこうと思ってな」
「……急ですね」
「たしかに急だな」
「沖縄って1月に返還されたばかりですよね。なんでまた」
「さあな。探索者協会の上の人間が決めたことだからな」
「……」
「ここの出張所は今日閉めるからな。俺の後任がくるまで、しばらく閉鎖だ」
「今日ですか!」
「そうだ」
お世話になったスキンヘッドおじさんの急な転勤にショックを受けたわたしは出張所を出て、トボトボと島屋ダンジョンに向かったよ。
「みきちゃん、げんきないのー」
「みぃー」『スキンヘッドおじさんにはお世話ににゃったの。みきちゃんはさびしいの』
トボトボと塀を飛び越えたよ。
「とおーがないのー」
「みぃー」『なぐさめる言葉が思いつかにゃいのー』
◇
「みきちゃん、これでもたべてげんきをだすの」
『たくさんのプリンありがとね、ジョーちゃん』
わたしが寮のベッドでゴロゴロ不貞寝していると、ジョーちゃんが枕元にプリンをたくさん置いてくれたよ。いつもプリンを手放さないジョーちゃんがめずらしいね。早く普通の状態に戻らないと。
メグちゃんはさっきから、変な言葉を言っている。アドバイスさんに聞いたなぐさめの言葉だそうな。たぶんアドバイスさんはおもしろがって遊んでいるんだと思うよ、メグちゃん。
「みぃー」『人生は別れと出会いにゃの。別れがあれば新しい出会いもあるの』
「みぃー」『永遠の別れに思えても、明日ひょっこり再会することもあるの』
「みぃー」『深淵をのぞいても真っ暗で見えにゃいの。深淵からも逆光でよく見えにゃいの』
「みぃー」『深淵をのぞくと逮捕にゃの。ノゾキ魔孝弘ににゃるの』
「みぃー」『スキンヘッドおじさんの髪は死んだの』
「みぃー」『マリーアントワネットは言ったの。スキンヘッドおじさんに会えにゃければ、会いに行けばいいじゃにゃいの』
マリーアントワネットが言っていない言葉を聞いて、わたしはガバっと起き上がったよ。
『沖縄なんてすぐ行けるよね』
「みぃー」『船でも飛行機でもヴァルキュリアくれにゃいでも、すぐに行けるの』
『春休みに沖縄に行ってダンジョンに登録してくるよ。そうすればレギオン転移でも沖縄に行けるようになるね』
「みきちゃんがげんきなったのー。よかったのー」
『メグちゃんジョーちゃんも心配かけてごめんね。沖縄に行ったら観光もしようよ』
「みぃー」『おきにゃわ観光、楽しみにゃの』
『ジョーちゃん、沖縄は南にある海がきれいなところだよ。せっかくの春休みだからメグちゃんやジョーちゃんが行きたいところにも行ってみようよ』
「あそぼうしょうぐんのえいがむらにいきたいのー」
『遊ぼう将軍の映画村は京都だったね。行ってみようよ』
「やったのー、あそぼうしょうぐんなのー」
「みぃー」『春休みだから、おはにゃみに行きたいの』
「おはなみなのー、たのしいのー」
『お花見いいね。せっかくだから京都でお花見してみようか』
「みぃー」『京都でおはにゃみにゃの。楽しみにゃのー』
◇
「みぃー」『空気清浄化システム、エアコンシステム作動にゃのー』
「じょうほういた、てんかいなのー。ぜんしゅうモニター、そとをうつしたのー。おんみつまほう、にんしきそがいまほうさどうなのー」
「みぃー」『情報板に戦術情報を載せたの』
「システム、オールグリーンなのー」
『わたしも動作確認OKだよ』
「みぃー」『ヴァルキュリアくれにゃい、発進にゃのー』
「はっしんなのー」
『ヴァルキュリア紅、発進』
ヴァルキュリア紅がまっすぐ空に昇っていく。
今日は沖縄に行くよ。メグちゃんとジョーちゃんは初沖縄が楽しみで、朝から沖縄のかりゆし姿だ。かりゆしの背中には[ちゅらうみ]って書いてるよ。
沖縄まで直線距離で1500Kmもあるから、90Kmほど真上に上がって、空気抵抗の少ないところを高高度飛行すれば10分くらいで沖縄上空につくそうな。
ヴァルキュリア紅の操縦席は、今回の旅行用に更に魔改造されたよ。全周モニターが導入されて、わたしの後ろには6畳の部屋が広がっている。こたつ机も置かれていて、冬には鍋をするんだそうな。
「ついたのー」
『まだだよー。下に大きな大陸が見えるから飛ぶ方向をまちがえたみたい。下に降りて確認してみるねー』
「おおきなビルやかっこいいビルがたくさんあるのー」
「みぃー」『レトロなビルにゃの。かわいいーの』
『ここは中国の上海みたい。かなり方角がずれちゃったよ。学校の地図帳と方位磁石だけではズレが出るのかな』
「みぃー」『大丈夫にゃの?』
『大丈夫、大丈夫。ダメだったら普通に飛べばいいだけだからねー。それに高高度飛行を1回やって、なんとなくわかったよ。もう1回いってみるね』
◇
『今度の高高度飛行は方角はバッチリだよ。地球は丸いから、平面の地図のままの方角に飛ぶとズレるみたい。でも停まるのが遅れて、ちょっと行き過ぎたから、ここからは通常飛行で行くよ』
「みぃー」「周りが全部海にゃのー」
『後ろの方だと水平線と船しか見えないよねー。もう少し高度を下げるよ』
ジョーちゃんはジッと周りの景色を見ているよ。ヴァルキュリア紅を海面に近づけてみた。海からは水しぶきがあがって、後ろに白い線が引かれていく。これも楽しいね。
「みぃー」『小さい島にゃの』
『無人島みたい。少し寄っていくね』
「ちゅらうみなのー。みどりいろのうみなのー」
「みぃー」『砂浜も白くてきれいにゃのー』
『寄せては返す波の音もいいね。最高のロケーションだよ、この無人島。惜しいのはカニの魔物がいることだね』
無人島の砂浜にダンジョンのモノリスがあったよ。しかもカニの魔物が氾濫中だった。波打ち際で体高1mのカニたちがたわむれている。砂浜に座りこんで両手のハサミでペタペタと砂の山を作っているカニもたくさんいるよ。
「カニさんがすなのおしろをつくっているのー」
「みぃー」『あんにゃところに砂のお城を作ってもにゃみがきたら崩れちゃうの』
『崩れた砂のお城を見て固まっているカニもいるね。波打ち際から移動して砂の山を作りなおしているカニもいるよ』
カニくん、満潮まで4時間もあるから、そこもダメだと思うよ。
「カニさんたち、どうして、すなのおしろをつくっているのー?」
きたね、ジョーちゃんのなぜなぜ質問。いやいや期の次はなぜなぜ期がくると聞いて対策を考えておいたよ。対策はズバリ、深く考えず思ったままを答えることだ。
『わからないねー。カニくんに聞いてみないと。モノリスと反対側の砂浜に降りて様子を見ようか」
「みぃー」『せっかく来たの。きれいな海で遊ぶの』
「わたしもあそぶー」
砂浜にヴァルキュリア紅を停めて、降りてみたよ。目の前にはエメラルドグリーンの南国の海と白い砂浜が広がっている。波も陽射しでキラキラときらめいているね。
「みぃー」『カニは、わたしたちに気づいてにゃいの。隠密魔法と認識阻害魔法のおかげにゃの』
「カニさん、すなのおしろをずっとつくってるのー」
『大丈夫みたいだね。良かったー』
「セーフなのー。あそぶのー」
ピクニックシートを広げて、南の島の景色を楽しむ。気持ちいい風も吹いてきているね。
「みぃー」『大海原にゃの。白い雲が映えてきれいにゃの』
『こういう景色は写真で残しておきたいよね。今度カメラを買いにいこうかな』
「みぃー」『ジョーちゃんにお願いすればいいの』
『ジョーちゃんが遊んでいる邪魔をするのは悪いからね。養護院の子たちにも見せてあげたいし』
白い砂浜で貝殻を探していたジョーちゃんが何か思いついたみたいで、ペタペタと砂山を作っている。
「カニさんたちより、おおきなすなのおしろをつくるの」
『大きなお城なら、わたしが砂集めを手伝うよ?』
「みぃー」『わたしも手伝うの』
「おてつだいを、みきちゃんとメグちゃんにおねがいするの」
わたしとメグちゃんが大きな砂の山を作って固めて、ジョーちゃんが砂を削って形を整えたよ。
『できたのー。カニたちよりおおきなおしろなのー』
ジョーちゃんがドヤ顔してるね。こういう顔も写真に残せたらいいけど、ジョーちゃんもメグちゃんも写真に写らないんだよね。残念。
ジョーちゃんが今度は情報板を2枚出したよ。1枚は作った砂のお城の周りをグルグルまわると空に上がっていった。もう1枚は海の中に潜っていった。
「すなのおしろときれいなけしきをうつしておくのー」
『海の中も撮るんだね』
「うみのなかもきれいなのー。おさかなさんもいっぱいなのー」
「みぃー」『ヴァルキュリアくれにゃいで、海中散歩もできるの。』
『名案だね。あとでみんなで海中散歩に行ってみようよ』
満足するまで遊んで、海中散歩も楽しんだわたしたちは、無人島にサヨナラして今日の目的地に向かうことにしたよ。
『カニも大丈夫だったね。のんびりできたよ』
「みぃー」『こっちにこにゃかったからよかったの』
「またあそびにきたいのー」
『あのダンジョンにも登録しておこうか』
「みぃー」『カニを攻撃しなければ大丈夫なの』
わたしたちは、3人合作の大きな砂のお城と、自分で作った砂のお城を誇らしげに眺めているカニを見ながら、南の島をあとにしたよ。
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