41 ヴァルキュリア
島屋ダンジョンの31階層の青い空の下、ジョーちゃんの標準カラーのヴァルキュリア魔装と、メグちゃんのピンク色のヴァルキュリア魔装がクルクル飛びまわりながら、格闘ごっこをして遊んでいる。かっけー。
2機とも降りてきて、ヴァルキュリアの胴体の装甲がパカッと開くと、中からジョーちゃんとメグちゃんが出てきた。2人はアバターじゃなくて本当の身体の方だよ。
「みぃー」『ただいまーにゃの。楽しかったの』
「ただいまーなのー」
「みぃー」『美紀ちゃんも早くいっしょに遊ぶの』
「かくとうごっこなのー」
『せっかく作るならカッコいい方がいいからね。ここまで変形できるようになったんだよ』
わたしの前に立っている赤色のヴァルキュリアロボット形態が、ゆっくり戦闘機形態に変わっていく。変形プロセスが4分の3くらいまで進んだところで、曲げていたところが崩れて、全身が光になって消えてしまった。
「またこわれたのー」
「みぃー」『もうちょっとだったの』
『あと少しだと思うんだけどね』
わたしのヴァルキュリア魔装(赤色)の試行錯誤はもう1ヶ月ほど続いているよ。実はヴァルキュリア魔装(赤色)自体は、メグちゃんに教わりながら3日でできたんだけどね。
色が赤いのはメグちゃんのオススメで、そうした方が早く動けるからだそうな。
完成したヴァルキュリア魔装(赤色)を眺めながらわたしは思ったんだ。戦闘機形態に変形できたら、もっとカッコいいんじゃないかって。
それからは魔道甲冑の構造の勉強をしたり、魔装の関節を球体関節に変えたりと、いろいろ勉強しながら作っては失敗することが続いているよ。
◇
わたしの頭の中には今見たテレビ番組「プロジェクトZ技術者たちの挫折」のテーマ曲が鳴り響いていたよ。
「工事用魔道甲冑には大きな運搬スペースがいる。運搬コストもかかる。保管スペースもだ。現場にはそんなスペースは無い。現場でいちいち分解したり組み立てることもできない。このままでは売れない」
「技術者たちはこの困難に立ち向かった。工事用魔道甲冑に変形機構をつけた。足や手を折り畳んで箱形に変形するように。そして技術者たちの夢は実現した」
「鳴り物入りで発売された新魔道甲冑は当初飛ぶように売れた。生産が追いつかないほどに」
「しかし現場からのクレームの声が上がった。故障が多い。動かない。変形機構を加えた部分の強度が落ちていたのだ。工事現場のハードな使用には耐えらなかった」
「そして新魔道甲冑は3年で販売中止になった」
『メグちゃん、ジョーちゃん。わたし、ヴァルキュリア魔装に変形機構をつけるのをやめるよ』
「??」
「みぃー」『急にどうしたの?』
『さっきのテレビを見てさとったんだ。魔装に変形機構はいらないって。戦闘で使うんだから壊れにくい方がいいって』
「みぃー」『わかったの』
「わかったのー」
わたしの1ヶ月におよぶ試行錯誤は[余計な機能はいらない]という新たな教訓を残してくれたよ。ヴァルキュリア魔装(赤色)を変形させるのが面倒くさくなったわけじゃないからね。本当だよ。
◇
「教科書の46ページを開いてください……ドラゴンネストダンジョンは、ドラゴンが生息する極めて特殊なダンジョンです。魔物のレベルは討伐実績がないため、判明していません。このダンジョンに入るためには特別なアイテムが必要なことが知られています。このアイテムを保有しているのはアメリカと中国の2カ国のみです。このアイテムは、世界レベルランキング1位の閃光のライトネル、2位の赤壁のヤンのパーティが持ち帰った物です。2人のレベルは現在197、195と人類の夢であるレベル……」
ダンジョン学の授業のさなか、どこかに遊びに行っていたジョーちゃんが、ふよふよ飛んで教室に戻ってきたよ。
座学の授業が退屈らしくて、最近はメグちゃんといっしょに教室の外に遊びに行くことが増えたんだよね。
『ジョーちゃん、おかえりー』
「ただいまなのー。みきちゃん、スーパーいくのー」
『ごめんね。今授業中だから、放課後まで待ってね』
「いやーいくのー、おなかペコペコなのー」
『そっかー。おなかペコペコは大変だから、おやつでも……』
ちょっと待て、わたし。メグちゃんが『わたしとジョーちゃんは、おにゃかがすかにゃいの』って言っていたぞ。ジョーちゃんのアイテムボックスにも大量のご飯とお菓子が入っているはず。これは要確認だ。
『ジョーちゃん、さっきお昼ご飯食べたばかりだよね。カレーとおうどんと親子丼』
「プリンたべるのー」
『昨日スーパーでプリン3個セット5パックを買ったよね。ジョーちゃんのアイテムボックスに入れたはずだよ』
「しらないのー」
『一昨日もスーパーでプリン5パックを買ったよね』
「しらないのー」
ぷいぷいと否認を続けるジョーちゃん。これはクロだね。
『白状するまでコチョコチョの刑だぞー』
「やーなのー。クスクスなのー」
ジョーちゃんは楽しそうだ。しかたない、ここは最終兵器の出番だ。棒付きペロペロキャンディーいちご味を出してみたよ。
『これを食べて全部話すんだ。楽になるよ』
「いただいていくのー。あーばよーなの」
『待てーー、ジョーちゃん』
ジョーちゃんはペロペロキャンディーを持って、ピューと教室の外に飛んでいってしまったよ。
「田中さん。田中さん。さっきから何をしているんですか。授業を聞いていますか?」
「先生、すいません」
授業中だから認識阻害を発動してなかったよ。
◇
『ただいまー』
「みぃー」『おかえりにゃの』
『ジョーちゃんはまだ帰ってきてないんだね』
「みぃー」『この手紙を見るの』
メグちゃんが指差した寮の机の上には、つたない字で書かれた1枚の置き手紙があったよ。
[さがさないでくださいなの じょー]という手紙が。
『大変だー。警察……は無理だから、今すぐ探しにいかないと』
「みぃー」『大丈夫にゃの』
『ジョーちゃん、家出しちゃったんだよね』
「みぃー」『そこで寝てるの』
『ここ?』
机の引き出しを開けると、お手玉に埋もれて眠るジョーちゃんの姿があったよ。
『良かったーー』
「みぃー」『隠れているうちに寝ちゃったの。美紀ちゃんに怒られるからって言ってたの』
『わたしは、あんなことくらいで怒らないのに。イタズラなら養護院の子たちの方がひどかったよ。孝弘のノゾキとか』
安心したわたしは、スヤスヤと眠るジョーちゃんの顔を指でそっとつついてみた。ジョーちゃん、引き出しの中に入れていた教科書やノートはあとで返してね。
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