4 実験
「だーうー」
「みぃー」『美紀ちゃん、こんばんはにゃの』
『こんばんはー、メグちゃん、ジョーちゃん』
わたしが学習室でマンガ読書に励んでいると、つぶらな瞳の赤ちゃんが口を大きく開けて突撃してきたよ。目標は今日もわたしの耳だね。早速チューチューが始まった。たんとお食べ。大きくなるんだよ。
転生者ちび子猫のメグちゃんは尻尾フリフリ状態だ。
『情報板、使ってみたよ。アカウントがロックで消去だって。管理者に問い合わせだって』
「みぃー」『アカウントロック消去にゃの? アドバイスさんに聞いてみるの』
『ごめんね。使い方がよくわからなくて』
「みぃー」『ごめんにゃの。美紀ちゃんがアウターネットを使うのはダメだったみたいにゃの。アドバイスさんも知らなかったそうにゃの』
『そっかー。それならあきらめるよ。見てもよくわからなかったし』
「みぃー」『わたちが代わりにアドバイスさんに聞いてみるの。美紀ちゃんはどんなことを聞いたの?』
『わたしが魔物を倒す方法とお金を稼ぐ方法』
「みぃー」『美紀ちゃんは魔物を倒ちてお金を稼ぎたいの?』
『中学校を卒業したら、この養護院を出ないといけないの。その後どうしようかなって……』
「みぃー」『高校には行かないの?』
『お金がないから無理なの』
「みぃー」『アドバイスさんは、一般的にはちゅうちょくか、働きながら夜間学校って言ってるの』
『わたしはちょっぴり成長が遅れているから、就職も難しいと思うんだよね』
「みぃー」『ラノベだと中学校を卒業ちたら探索者高校や冒険者学校に行くの』
『冒険者学校はないけど探索者高校ならあるよ。でも良戦闘スキル持ちか良生産スキル持ち、それかレベル10以上の人じゃないと入れないの』
「みぃー」『アドバイスさんが情報をもっとほちいって言ってるの。美紀ちゃんのくわちい解析データがいるそうにゃの。解析ちていいの?』
『いいよー。お願いするねー』
「みぃー」『美紀ちゃんの頭にちょっとさわるの』
『どうぞー』
「みぃー」『アドバイスさんと、ちゃんとお話してくるの。ちょっと待っててにゃの』
メグちゃんは宙に浮いたまま丸まって白い毛玉形態になったよ。猫鍋形態と呼んでもいいね。
待ってる間、チューチュー赤ちゃんを人差し指でそっと撫でてみた。ほっぺたをペチペチされたよ。一心不乱にチューチューに取り組む姿勢もまたヨシだ。
「みぃー」『ただいまにゃの。レベル10で入れるにゃらレベル10ににゃればいいの。美紀ちゃんは5日もあればレベル10になれるそうにゃの』
『5日で? わたし刻印魔法だよ。魔物が倒せないよ』
「みぃー」『アドバイスさんのシミュレーションを見たの。美紀ちゃんは魔物を瞬殺ちていたの。無双だったの。探索者高校に行くお金は、魔道具を作って売ればいいの』
『魔道具を作るの? わたし刻印魔法だよ。加工魔法や付与魔法じゃないよ。わたしでも魔道具が作れるの?』
「みぃー」『加工魔法や付与魔法は、ちらにゃいの。刻印魔法で作れる魔道具はアドバイスさんが見せてくれたの。わたちのおすすめはラノベテンプレのアイテムボックスやマジックバッグにゃの』
『マジックバッグ作れるんだ……あれって10億円とかだよ。アイテムボックスはあるのも知らないよ』
「みぃー」『作れるの。アイテムボックスは転生者の夢にゃの。わたちもほちいの。材料も聞いたの。シェードの魔核にゃの。シェードの上位種のシャドウでもいいの』
『シェードもシャドウも近くのダンジョンにいないから、探索者協会で買うしかないかも。買うお金もないけど』
「みぃー」『近くのちまやダンジョンにいるの。シェードは39階層にゃの。アイテムボックスの大きさや機能は魔核の数に比例するの。たくさんいるから今度取りに行くの』
『島屋ダンジョンはアンデッドダンジョンだから不人気で、年に1回、軍が潜っているだけって授業で聞いたよ。みんな松高ダンジョンか亀丸ダンジョンの方に行くって。最高到達階層も26階層だったような……』
「みぃー」『ジョーちゃんの情報板と美紀ちゃんの刻印魔法があれば、魔物を倒すのはお茶の子さいさいにゃの。今度ちまやダンジョンに突撃してみるの』
『ダンジョンに入るには探索者免許がいるの。わたしは未成年だから、院長先生の同意もいるの。院長先生が同意してくれるかだよ』
「みぃー」『探索者高校に行くにゃら探索者免許は後で必要ににゃるの。今とっても後でとってもいっしょにゃの』
『免許がとれても養護院の当番があるから、ダンジョンに入れるのは夏休みか冬休みくらいになっちゃうよ』
「みぃー」『ひとつずつ片づけていくといいそうにゃの。まず探索者免許をゲットするの』
『メグちゃんに先に教えておくね。島屋ダンジョンにたどり着くためには危ないところを通り抜けないといけないの。ため池には恐ろしい宿敵の巣窟があるの』
「みぃー」『宿敵の巣窟にゃの? 美紀ちゃんは中二病だったの。アドバイスさんは温かく見守れって言ってるの』
『宿敵には油断禁物、油断大敵、油断厳禁だよ。メグちゃんに宿敵の恐ろしさを教えてあげないとダメみたいだね』
◇
『この実験が成功するかどうかで、わたしの運命が決まるね』
「みぃー」『美紀ちゃん、あんちんするの。成功は約束されているの』
「やーうー」
「みぃー」『ジョーちゃんもはりきっているの』
『ジョーちゃんにお手伝いをお願いしたからね。初めてのお手伝いだよ』
「まーやー」
今日は宿敵透明スライムの恐ろしさをメグちゃんに教えるため……じゃなかった、わたしが刻印魔法で魔物を倒せるかを実験するために、小学校横のため池にきてるよ。広くて攻撃魔法を撃てる場所が、ここしか思いつかなかったからね。
幸い今日も宿敵は現れていない。やはり中学生に成長したわたしを恐れて巣穴に閉じこもっているようだ。
今日試す魔法はライトアローをチョイス。光の矢を撃つ光属性魔法の初級魔法だ。島屋ダンジョンのアンデッドに効く光属性にしてみたよ。
聖魔法の方がいいと思って、メグちゃんに聞いたら、アウターネットに聖魔法は載ってないんだって。神聖魔法はあるけど、そっちは惑星生命体とパスがつながってないから使えないそうな。残念。
『実験開始だよ! ジョーちゃん、情報板を1枚お願い』
「だー」
20センチ四方の黒い情報板が1枚、わたしの前に出てきたよ。この情報板に、わたしが刻印魔法でライトアローの魔法陣を描き込めば……って
『……もう魔法陣が描き込まれてるね?』
「みぃー」『美紀ちゃんの魔法陣の練習を見ていて憶えたの。ジョーちゃんはお手伝いの練習をがんばったっていたの』
「だーうー」
『そうなんだ。ありがとね、ジョーちゃん』
わたしは人指し指で、そっとジョーちゃんの頭を撫ででみたよ。ジョーちゃんもうれしそう。ニコニコ笑顔だ。
「きゃーう、きゃ」
『では改めて。総員、耐ショック耐閃光防御用意!』
「だー」
「みぃー」『準備OKにゃの』
〈ため池の真ん中に発射〉
情報板の前で白い光がチカッと瞬いた瞬間、ため池の真ん中の方から爆音が鳴って強い風が吹いてきた。水滴も飛んできたよ。
ため池の真ん中には3mくらいの水柱が立っているね。ため池の水面は大きな波で荒れているよ。
『……なに?』
「あーきゃーうー」
わたしは想定外の威力に呆然としていたけど、ジョーちゃんは誇らしげに笑っている。
そうだった。お手伝いが上手くできたら褒めてあげないと。しかも初めてのお手伝いなんだし。わたしは褒めて伸ばす方針なんだ。
『ジョーちゃんのお手伝いで実験は大成功だよ。ありがとう、ジョーちゃん』
もう一度頭をナデナデだ。そっと右手に乗せて、ほっぺたスリスリも追加しておくよ。ほっぺたペチペチでお返しされたよ。
「みぃー」『本当にびっくりちたの。アドバイスさんが何があったか教えてくれたの。ライトアローがため池の真ん中に着弾ちたの。ライトアローは、そのままため池の底に当たったの。ライトアローにふれた水の温度が上がって、みず……アドバイスさん、この漢字読めにゃいの……水蒸気爆発が起こったの』
『アドバイスさん……漢字……水蒸気爆発……』
「みぃー」『小学校の校庭を2人こっちに走ってきてるの』
『逃げるよ』
「にぃー」
「みぃー」『逃げるの』
わたしは走って犯行現場を離れたよ。なんとか逃げられたはず。大丈夫だよね?
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