31 戦車
「クラス対抗戦で実力を示せば、学校対抗戦の選手に選抜されることがあるのですわ」
「クラスで出られるの7人だけだからねー。金髪くん、赤髪くん、青髪くんは出場決定。あとの3人は派閥から1人ずつ出すと」
「最後のひとり、まだ揉めてる」
7月のクラス対抗戦の出場選手をクラスで決めているところだよ。わたしと撫子ちゃん、海里ちゃんの生産魔法組は蚊帳の外。いつも通り声もかからないよ。
「クラス対抗戦って、マトを攻撃してどれくらいの時間で壊せるか競うんだよね」
「そう。10分で壊せないと判定」
「攻撃の連携がうまく行かないとダメだと思うけど、あの3人の中の誰が指揮を取るんだろうね」
「それもたぶん揉めますわ」
結局、最後のひとりは委員長が入ることになったよ。がんばって委員長。貧乏クジばかりで大変だね。応援してるよ。
◇
「グランドの真ん中に戦車があるよ」
「本当に戦車。びっくり」
「あれがクラス対抗戦のマトってこと?」
「そうかもしれませんわ。あんな古い物どこから持ち出してきたか聞きたいですわ」
「言われてみれば。陸軍は全部魔道甲冑だからね。戦車は10年前から陸軍では使われなくなったって授業で言ってたね」
「戦車の魔鉄の魔力含有量が低いからレベル30までの魔物にしか対抗できないのですわ」
「魔道甲冑はレベル50〜60。戦車、負ける」
「攻撃力も防御力も機動力も魔道甲冑の方が圧倒的に上ですわ」
「戦車、かっこいいんだけどね」
「せんしゃ、あいてむぼっくすにしまってくるー」
『ジョーちゃん、ダメだよ。みんな見てるからね。わたしもバレなければアイテムボックスにしまっちゃう気がするけど』
「みぃー」『戦車かっこいいの?』
『かっこよくない? あのドッシリした姿とか』
「紫髪の大久保先生のA組は、みんな紫髪になってるね」
「A組は最初から紫髪が多かったのですわ。金髪赤髪青髪緑髪がいなかったのですわ」
「緑髪の串田先生のB組は緑髪だけ」
「同じ派閥の生徒を自分のクラスに集めたから、黒髪の子もその色になったんだね。髪を染めるのも大変だよね。寮のお風呂場でたまにやってる子がいるけど」
「自分で染めるのは大変だし、お金もかかりますわ」
「美容院で染めるよりは安上がり」
クラス対抗戦の開会式が始まったよ。校長先生の長い話の後に、1年の学年主任の大久保先生が出てきたよ。
「学年対抗戦、総監督の大久保だ。今回のマトは特別に重戦車を用意した。防御付与魔法陣も掛け直してある。お前らの力を俺に見せてみろ。俺が総監督になったからには敗北の2文字は無い。選手になるやつに言っておく。俺の言うことは絶対だ。逆らうことは許さん。逆らったら退学だ」
校長先生や川崎先生たちが大久保先生のところに集まって何か言ってるよ。マイクがオフで聞こえないね。
「みぃー」『変にゃ先生にゃの』
『本当だよねー。関わり合いにならないように気をつけないと』
「けんかしてるのー」
「みぃー」『校長先生より偉そうにゃの』
『大久保先生が校長先生を突き飛ばしたね』
「うるせえーー。俺がルールだ! 総監督だ!」
大久保先生が叫んで開会式は終了だ。生徒たちはあ然としている子が多かったよ。
「大久保先生、すごかったね。あんなことしてクビにならないんだ」
「校長、突き飛ばした。普通は警察」
「大久保先生は軍閥貴族の天下りなんですわ」
「校長先生も天下りだよね」
「校長は金髪派閥。大久保は紫髪派閥」
「校長先生の家の方が弱いのですわ」
「そっかー。大久保先生には関わりたくないね」
「わたしも」
「わたくしもですわ」
1年生のクラス対抗戦が始まったよ。
1番手はA組。スタートの笛の合図で攻撃開始だ。場内アナウンスが、選手紹介や解説をしているね。
メイスを叩きつけたり、初級魔法や中級魔法を放っているよ。燃えたり凍ったり大忙しだ。でもマトはさすがの戦車、ちょっと焦げたりしているものの元気いっぱい健在だ。10分がすぎて、終了の笛が鳴った。
他の組が順番に戦車を攻撃しても、状況は変わらず。うちのクラスの金髪赤髪青髪+委員長チームも同じ。2年生のクラスにうつっても結果は変わらず。なんだか戦車の丈夫さのアピールみたいになってるよ。
わたしは派手な魔法がいろいろ見れて楽しいんだけどね。
観客にあきらめムードがただよう中、最後の3年H組がやってくれたよ。
競技開始後すぐに戦車の右側と左側に別れて、全員、履帯のピンに左手のタガネを当てて、ハンマーを打ちつけている。なんだろうね、コレ? 戦車の修理風景に見えないこともないね。ひたすらハンマーを打ちつけること3分、結果があらわれた。両側の履帯がハズレたんだ! 観客からは歓声が巻き起こった。それでも3年H組は手を緩めない。戦車の装甲を固定しているリベットに標的を変えたんだ。ハンマー+タガネを駆使しているけど、こちらは軍用戦車の防御魔法陣が効いてるのか、なかなか落とせない。8分ほどで装甲を1枚バラすことに成功した。10分経過、終了の笛が鳴り響いた。観客席からは健闘をたたえて大きな拍手が起こっている。わたしも拍手に参加だ。
「すばらしいね、3年H組の技術。職人の技だね。クラス対抗戦の真髄を見せてもらったよ。目指すは分解技術だね」
「違う」
「違うと思いますわ」
クラス対抗戦は3年生はH組が、2年生はD組が、1年生はA組が優勝をかざったよ。
表彰されていた1年A組と2年D組の選手は、髪が紫色だったね。
◇
「本日午後3時、韓国大統領が北朝鮮に対し無条件降伏を宣言する姿が、北朝鮮国営テレビで公開されました。これについて大日本帝国政府は事実確認を急ぐとともに事態を注視すると発表しています。なお一昨日に解除された中国海軍による海上封鎖についても情報収集を進めており、事態の確認が急がれます」
夏休みに入って、撫子ちゃんと海里ちゃんは実家に帰省したよ。
寮の食堂のテレビでは韓国の無条件降伏宣言のニュースが流れているね。
今晩のメニューは、ちらし寿司にお吸い物、揚げ出し豆腐という純和食メニュー。
『ジョーちゃん、マヨネーズかけすぎじゃないの。メグちゃんも』
「たくさんかけたほうがおいちーの」
「みぃー」『わたちもマヨラーにゃの』
マヨラーのメグちゃんとジョーちゃんは、ちらし寿司にマヨネーズをたっぷりトッピングしていた。
メグちゃんは、前世は心臓病の関係でマヨラーになれなかったから、今世では生粋のマヨラーになることを決意していたそうな。それを真似したジョーちゃんもマヨラーになりかけている。
まあマヨネーズはわたしも好きだけどね。今晩のちらし寿司も、酢飯の甘さとマヨネーズのコクと酸味が合っていておいしかったよ。わたしもマヨラーになるかも。
寮の晩ご飯は、認識阻害魔法を使っているから、食堂でいっしょに食べても平気。
メグちゃんとジョーちゃんの晩ご飯は、寮監の北島先生に2人分の追加をお願いしてみた。わたしが食べることにしてね。北島先生には少し怪訝な顔をされたけど、問題なく追加できたよ。補助金の関係で少しお高い職員用価格になったけど。
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