30 ファミレス
ジョーちゃんの今日の格好は、涼しげな白い半袖フレアワンピースに大きな赤いリボン。足元はピコピコサンダル。たまにわたしの肩に着地してサンダルをピコピコ鳴らして遊んでいるよ。服作りの練習の成果がキラリと光る一品だね。
「おでかけなのー。ひちょちのおちゃれなおじょうさまなのー」
『ジョーちゃん、かわいいねー。とっても似合ってるよ』
ジョーちゃんの服のコンセプトは、避暑地のオシャレなお嬢様だって。オシャレなお嬢様はピコピコサンダルを履かないと思うけど、かわいいからヨシだ。
ダンジョン実習でお財布ホクホクなわたしたちは、撫子ちゃんや海里ちゃんといっしょにファミレスに豪遊にきたよ。
ファミレスミモザは全国チェーンのイタリアン系ファミレスで、ランチのパスタが人気だそうな。
「撫子ちゃん、海里ちゃん、わたしファミレスに初めてきたよ。ドリンクバーとランチがお得なんだよね」
「わたくしは実家の方で何回か行きましたわ」
「すかいれーくはある。ミモザは初めて」
「家族できているお客さんが多いねー」
「土曜のお昼は家族連れが多いのですわ」
先にドリンクバーを頼んで、みんなで行ってみた。ドリンクバーはこうするんだね。わかったからには恐れるにたらずだ。これでいつでも行けるよ。養護院の子たちを一度連れてきてあげるのもいいかな。
メグちゃんは前世でこんな感じのファミレスでグラタンを食べたことがあるそうで、わたしの頭の上でみぃみぃ言ってるよ。
「みぃー」『グラタンにゃのー、グラタン食べたいのー』
『持ち帰りができるみたいだから、グラタンをアイテムボックスに入れておこうね。メグちゃんが食べられるようになったら、またミモザに行こうよ』
「めぐちゃー、だいじょぶなのー?」
『大丈夫だよ。しばらくすれば、いつものメグちゃんに戻ってくれるよ』
「よかったのー」
「みぃー」『きたのー。とうとうきたのー。わたちの時代にゃのー』
「どうしたのー?」
メグちゃんがジョーちゃんの前に飛んできたよ。
「みぃー」『ジョーちゃん、お願いにゃの。この前の碧い結晶ちょうだいにゃの』
「うーんなのー。きらきらなのー」
ジョーちゃんが少し悩んだ後、碧い結晶をアイテムボックスからファミレスのテーブルの上にゴトッと出したよ。
「めぐちゃーのおねがいなのー。たからもの、あげるのー」
ソフトボール大の碧い結晶は[惑星生命体イーリベスーリルの生誕エネルギーの微量片]というよくわからない長い名前の物で、50階層の宝箱の中に入っていたんだよね。何に使うかわからなかったから、ジョーちゃんの希望でジョーちゃんの宝物に加わっていたよ。
「みぃー」『ジョーちゃん、ありがとうにゃの。この碧い結晶をさわっていてほしいの』
「こうなのー」
「みぃー」『それでいいの。アドバイスさんがちょっと光るって言ってるの。ジョーちゃんは、はにゃれずにくっついているの』
「くっついているのー」
「みぃー」『アドバイスさん、そのままレギオン結晶を当てればといいの?』
またアドバイスさん案件みたいだね。メグちゃんがアイテムボックスから紅いレギオン結晶を出して、身体で抱えて、フワフワと碧い結晶(ジョーちゃん付き)に向かっていった。
「みぃー」『ジョーちゃんとわたちがご飯やお菓子を食べられますようににゃの。えいにゃのー』
紅い結晶と碧い結晶がコツンとふれた瞬間、まばゆい光を放ちながら、紫の大きな光の固まりに変わると2つの光に分かれて、それぞれメグちゃんとジョーちゃんに吸い込まれていった。
メグちゃんはクルクルまわりながら喜んでいるね。ジョーちゃんはまぶしかったのか目をぱちくりしてる。
わたしも目がぱちくりだ。メグちゃんとジョーちゃんの大きさが2倍になっていたからね。身長が10センチから20センチに急成長だ。服も大きくなっているから、大きさ以外の見た目や等身はまったく変わってないけど。
「みぃー」『やったのー。ご飯もお菓子も食べられるのー。グラタンも食べられるのー』
『おめでとうー。メグちゃん、良かったねー。身体も大きくもなってるよ』
わたしはパチパチと拍手で祝福だ。
ちょっと気づいたことがあって、周りを見まわしてみたよ。撫子ちゃんと海里ちゃんが目をパチパチさせながら、わたしを見ているね。周りのお客さんもわたしを見ているね。
やっぱり碧い結晶と紅いレギオン結晶は、撫子ちゃんや海里ちゃんにも見えていて、光った時に周りのお客さんの注目を集めたみたい。そこでわたしが拍手したと。
「みぃー」『美紀ちゃん、グラタンを10個注文ちてほしいの。ジョーちゃん、わたちのおごりにゃの。おいわいするの。ドリンクバーも2つ追加にゃの』
「お客さま、周りのお客さまのご迷惑になる行為はお控えくださるようにお願いします」
「申しわけありません。気をつけます。本当にすみませんでした。……それでですね、申しわけないのですが注文を……」
ウエイトレスさんがきて注意されてしまった。周りの人にまだ見られていたから、頭を下げておいたよ。怒られついでにメグちゃんの要望通り追加注文しておいたけど。
「美紀ちゃん、どうしたのですわ」
「グラタン10個」
「ごめん。ダンジョンに行った時に説明するから、本当にごめん」
「なんとなくわかりましたわ」
「わたしもわかった」
「みきちゃー、ちっさくなったのー」
『小さくなってないよ。ジョーちゃんが大きくなっただけだからね』
わたしの身長も一気に10センチ伸びないかな。
グラタンがテーブルにずらっと並んでいるよ。
グラタンをモグモグ、ゴクンと飲み込んだメグちゃんの真剣な表情がフニャッと崩れた。今にも泣きそうな顔だ。
「みぃー」『味がするの。グラタンの味にゃの。ずっと食べたかったの。おいちいの。うれちいのー』
『メグちゃん、グラタン食べたいって、ずっと言ってたもんね。本当に良かったね』
わたしも涙目になって、思わずパチパチ拍手したら、また周りのお客の視線が集まってしまったから、頭を下げておいた。
ジョーちゃんはメグちゃんの真似をして、グラタンを口に入れてムニムニしている。初めて食べるからか不思議そうな表情だ。それでもグー握りスプーンでパクパク口に運んで、ほっぺたがハムスターのようになったよ。
ちょっと待て、わたし。ジョーちゃんは離乳食も食べたことがないんだ。グラタンを食べられるのか? のどに詰まらせないか? かわいい歯がはえ揃っているのは確認済みだけど、ジョーちゃんのサイズを考えると、マカロニは巨大だ。案ずるより産むがやすしだった。ゴクンと飲みこめたよ。
ちょっと待て、わたし。メグちゃんやジョーちゃんの身体の大きさで、あんなに食べられないぞ。
『メグちゃん、ジョーちゃん、お腹は大丈夫? たくさん食べすぎると、お腹が痛くなっちゃうよ。お腹ポンポコだよ』
「むー」『わたちもジョーちゃんも、食べた物はお腹の中で霊素に変わるそうにゃの。いくら食べても大丈夫にゃの』
「もぐもぐなのー」
『霊素エネルギーに変わるんだ。それなら安心だね。ジョーちゃん、こっちのオレンジジュースもおいしいよ』
ジョーちゃんはオレンジジュースが口にあったようで、ニパッと笑顔になったよ。子供は甘い物が好きだからね。でも、飲んだオレンジジュースの量が、ジョーちゃんの身体のサイズを超えたよ。本当に大丈夫なのかい?
「みきちゃー、おれんじじゅーす、もっとなのー」
『おかわり持ってくるから待っててね。メグちゃんも何か飲む?』
「みぃー」『わたちもいっちょに行くの』
「わたちもいっちょなのー」
ドリンクバーベテランのわたしが、メグちゃんとジョーちゃんに使い方を伝授しちゃうよ。
2人が使っていた小さなスプーンやコップは、ご飯が食べられるようになった時のために先に作っておいたんだって。
アドバイスさんがメグちゃん経由で、認識阻害の刻印魔法陣をくれたよ。人目があるところでメグちゃんやジョーちゃんとご飯を食べる時は使ってだって。使うと周りの人は不思議な光景を不思議と思わなくなるそうな。
アドバイスさん、ありがとうございます。これでメグちゃんとジョーちゃんといっしょに外食も自由自在だ。みんなでおいしい物を食べ歩きするのもいいね。




